永守重信氏は「刑事責任」を問われるのか?
世界的なモーターメーカーであるニデックの「会計不正」は、単なる企業不祥事として片付けてよい問題なのだろうか。
近年、日本の資本市場では企業統治改革が進み、会計不正は重大な違法行為として厳しく問われるようになっている。市場関係者や専門家、メディアの関心もすでに次の段階、すなわち創業者である永守重信氏の刑事責任――“逮捕・立件”の可能性に移りつつある。
3月3日に公表されたニデックの第三者委員会の調査報告書は、これまでの企業不祥事の調査報告書と比べても、極めて踏み込んだ内容だった。
会計不正に揺れたニデックは、昨年、第三者委員会を設置。その調査対象となったのは2020年度から2025年度第1四半期までの期間である。
調査報告書では、損失計上の先送りや、取引先を巻き込んだ売り上げの前倒し計上などにより、一時的に業績を良く見せる処理が行われていた事例を12件紹介している。これらの会計不正が最終的な利益の合算とも言える純資産に与えた負の影響額は、合計で1397億円に上った。
これほど大規模な会計不正の実態が一度に明らかになるのは、日本企業の不祥事としても極めて異例と言える。
第三者委員会の委員長を務めた平尾覚弁護士(元東京地検特捜部検事)は、記者会見で「多岐にわたる不正が見つかった」と述べたうえで、これらの不正はいずれも強すぎる業績プレッシャーのもとで引き起こされたと断定した。そして、その起点となったのは「いずれも永守氏である」とし、「最も責めを負うべきなのは永守氏であると言わざるを得ない」とまで言い切った。
すでに各メディアで報じられているが、報告書には永守氏が幹部に送ったメールの内容も掲載されている。その文面は、経営トップの極端に苛烈な姿勢を示すものだった。
「無責任野郎ばかり揃いやがって」
「どいつもこいつもやる気なしの無責任野郎ばかり揃いやがって!経営音痴の数字づくりではどんどん目線が下がっていく。却下だ。全員やめてくれや!こんな人物と一緒に仕事は出来ぬ!」
「君が日本電産に入社してからの2年半で、君が会社に与えた損失または、得るべき利益の機会損失も含めて、本日現在800億円を超える金額になっている。まさに『君は日本電産を潰すために来たのか?』という問いになる。私の元から損害だけ残して敵前逃亡していくのか、それとも死ぬ気で働いて損失を埋めてくれるのか?その選択を早くして、私を悪夢から逃れさせてほしいと思う」
これは調査報告書に示された、永守氏が幹部たちに送ったメールの一節である。
トップの苛烈な姿勢は、組織の下で次第に増幅されていく。
「その数字くらいやらんかい!」
「朝まで何でやらへんねや!何でもっと努力しないんですか!何で10時に終わってごめんなさいって言うんや!」
調査報告書には、ニデックの執行役員がグループ会社の幹部を厳しく叱責する様子も記されている。強烈なプレッシャーのなかで、精神的に追い込まれる社員も少なくなかったという。
一方で、永守氏は社内で「王道経理」「王道経営」を掲げ、不正は許さないという姿勢を繰り返し強調していたとされる。しかし、厳しい業績目標を課された幹部たちは過酷な状況に置かれ、身も心も疲弊していった。
不正の背景には…
〈国内グループ会社幹部の中には、当委員会のヒアリングにおいて、「永守氏ら経営陣は、『王道経理』、『コンプライアンス遵守』と繰り返し述べているが、同時に、不正を引き起こすような非常識な業績目標を設定し、それを絶対に達成するよう強いプレッシャーをかける。『自分は正しいことをしろと指示したが、不正をしたのはお前たちである。』と言っているのに等しく、『狡い』と思う。」などと述べる者もいる〉(調査報告書)
もっとも、調査報告書は同時に、永守氏が「会計不正を指示・主導した事実は発見されなかった」とも結論付けている。
だが、報告書全体から浮かび上がるのは、①「創業者中心の企業文化」、②「業績至上主義」、③「トップの強烈な圧力」、④「異論を言えない組織」、⑤「その創業者は現に約9%の株主でもある」という5つの構造問題である。
つまり、第三者委員会はニデックにおける会計不正の背景として、いわば「永守氏の会社」とも言うべき企業統治のあり方があったことを明確に指摘したのである。
第三者委員会の委員長を務めた平尾覚弁護士は、かつて東京地検特捜部の検事を務めた経歴を持つ法律家だ。その人物がここまで踏み込んだ報告書をまとめた意味を、司法当局はどう受け止めるだろうか。
調査報告書に記された「謎の人物」
そして、この調査報告書にはもう一つ、極めて不可解な存在が登場する。
永守氏の直属で、長年にわたり「特命監査」を担っていたとされる、謎めいた人物――A氏である。
報告書を読み解くと、ニデックの会計処理の実態を最もよく知っていたのは、この人物だった可能性が浮かび上がる。
その実像については、後編 『ニデック「調査報告書」の衝撃…!すべてを知っていた「特命監査部長―A氏」、その任務の危うい実態』で詳しく見ていこう。