2023年8月に開業した宇都宮市のライトライン(LRT)は、需要予測を大幅に上回る好調ぶりで「路面電車は時代遅れ」というイメージを覆し、沿線の商業施設増加や宅地化など街の変容にも貢献している。
この成功を受け、各地でLRT導入の議論が再燃。しかし、整備に要する莫大なコストがネックとなり、東京都葛飾区のように当初のLRT計画をBRT(バス高速輸送システム)へと変更する自治体も現れ始めた。BRTはバスを進化させたものであり、バス停の改良や車両の用意などの費用はかかるものの、道路整備は最小限で済むからだ。
高齢化社会への対応や中心市街地の活性化という期待を担いながら、LRTの普及は一筋縄ではいかない現実に直面している。後編では、各地の取り組みと公共交通が抱える課題をさらに深掘りする。
前編記事『マイカー社会の地方都市でオワコンだった「路面電車」が大復活…!少子化ニッポンの交通インフラをめぐる熱い攻防』より続く。
▲富山市では路面電車が市民の足として活用され、2009年には市内中心部を環状で走る新系統も誕生した
タワマンとBRTの意外な関係
昨今は自動車の自動運転技術が急速に進化を遂げたことで、各地で自動運転バスの実証実験が重ねられている。
バスの自動運転が実用化すれば、運転士は不要になる。まったく無人の状態でバスが運行されるとは考えにくいが、運転席に座るスタッフに特別なスキルは必要なくなるので、バス会社には人材育成面での費用縮減効果が見込める。人手不足感が強まっている運輸業界において、自動運転技術は人員確保を容易にするわけだ。
バスの自動運転は実用段階には、まだしばらく時間を要する。それでも実現を見越して、今のうちからBRTを整備しておきたいと考える自治体があるのは自然な話だろう。
だが、それはLRTも同じだ。むしろ線路という専用空間を走るLRTの方が、より早く自動運転を実用化できる。それでもLRTよりBRTが選択されるのには、実のところタワマンが増加しているという事情もある。
BRTとタワマン、一見すると両者は関係がないように映るかもしれない。しかし、タワマンは人口が増えるというプラスをもたらす反面、都市インフラに過剰な負荷を与えるというマイナス要素もある。このマイナス要素が自治体や交通事業者にとって、かなり厄介な問題なのだ。
タワマンは一棟が完成すると、居住人口は500〜1000人単位で増加する。2010年代からタワマンが盛んに建設された東京・豊洲や晴海エリアは、タワマンが完成するたびに朝ラッシュ時の人流が大きく変化した。
晴海フラッグでBRTが浸透しない理由
LRTは乗降場が固定されているため、都市開発の面ではプラスに働く一方、短期間で変化する人流への適応が難しいという側面もある。その点、BRTなら比較的、柔軟に対応することができる。
タワマンの建設ラッシュが続く豊洲・晴海エリアでは、2020年10月から東京BRTがプレ運行を開始した。さらに、東京BRTは2023年4月から路線数や運行本数を増やして、プレ運行(二次)を開始。こうして柔軟に運行路線を見直せることはBRTの強みといえる。
筆者はプレ運行当初から東京BRTの取材を続けてきたが、プレ運行(二次)の時点で勝鬨や豊洲などの地域では住民の足として定着している様子が窺えた。
▲プレ運行(二次)からBRTの運行範囲は大きく広がり、りんかい線の国際展示場前・ゆりかもめの有明駅のロータリーにも乗り入れが始まった
その反面、晴海フラッグでは東京BRTがなかなか利用されてこなかった。環境に応じて路線やダイヤを柔軟に変更できることはBRTの強みだが、裏を返せば数年で運行ルートや乗降場が変わってしまうために、利用者にとっては分かりにくく、需要の安定化につながりにくい。それが都市開発の機運を芽生えにくくしている一因でもある。
選手村跡地を住宅地として再開発した晴海フラッグは、転売によって住宅価格が高騰したという事情があるにしても、東京都が想定していたほどの居住人口には達していない。
▲晴海フラッグ内に開設された東京BRTのターミナル。BRTの車両が並ぶ北側にはタワマンが林立している
街は居住人口も少ないために商業施設に活気がなく、寂しい雰囲気に包まれている。晴海フラッグには東京BRTの乗降場がいくつか設置されているが、利用者は少なかった。
東京都は、東京BRTを2024年から本格運行へと切り替えるとアナウンスしていたが、こうした晴海での状況を受けて白紙に戻した。そして2026年現在も本格運行への切り替えはアナウンスされていない。
「無駄なインフラ」にしないために
公共交通は生活に欠かせないインフラだが、それらの整備は、これまでの移動手段(マイカー)から新たな足へと切り替えることを意味し、地域住民に根付いたライフスタイルの大きな転換を伴う。
LRTやBRTといったこれまでにない選択肢が増えたことは、新しいまちづくりを進めるための一歩となるだろう。それでも、LRTやBRTに過剰な期待を寄せることは慎みたい。筆者はLRTやBRTを好意的に捉えているが、それでも一部の成功例だけを見て、各地の自治体が我も我もと横並びで導入することには違和感を覚える。
自治体や鉄道事業者がきちんとしたビジョンを描いた上で導入・建設しなければ、結局のところLRTもBRTも無駄なインフラと化す。昭和期に廃止されていった路面電車と同じ末路をたどることになるだろう。
▲試運転中の宇都宮のライトライン。道路上を自動車に混じって走る。そのため、当初は自動車のドライバーが混乱して事故を誘発したが、現在は共存共栄が図られている
そうならないためにも、自治体や鉄道事業者は計画段階から熟慮し、利用者として想定される地域住民のみならず、沿線の企業や学校、商業施設などとも十分なコミュニケーションを取ることが重要になる。
LRTやBRTなどの交通インフラ整備はハード面の取り組みと捉えられがちだが、それらが多くの人に利用され、真に成功するためには「使いやすい公共交通とは何か? そしてどんな街を目指すのか?」といった話し合いが大切である。近年は、こうしたソフト面の重要性がますます高まっている。
(写真はすべて筆者撮影)
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