イラン攻撃がW杯にも影響
6月に米国、カナダ、メキシコで共同開催されるサッカーW杯の開幕まで100日となった3日、FIFA(国際サッカー連盟)のジャンニ・インファンティーノ会長は「W杯は世界を一つにするだろう」とのメッセージを出した。
だが、現実の世界では、米国のイラン攻撃によって戦火が中東各地に飛び火。紛争が長期化、泥沼化する可能性もある。
サッカー界でもすでに、アジアナンバーワン・クラブを決めるチャンピオンズリーグの試合が延期になるなど影響が拡大。同大会の準々決勝以降は、4月にサウジアラビアで行われる予定だが、中止もしくは延期になる可能性もある。事態が長期化すれば、来年1月にやはりサウジアラビアで行われる予定のアジアカップにも影響が出るかもしれない。
イラン情勢の悪化は、6月のW杯にも影響してくる。イランも同大会に出場するからである。
イランはFIFAランキングで、日本に次いでアジアで2番目の強豪。W杯ではベルギー、エジプト、ニュージーランドと同じG組に入り、エジプトと決勝トーナメント進出を争うことになるはずだ。
だが、イランは戦争当事国の米国で開催されるW杯に参加できるのだろうか?
トランプにすり寄るFIFA
イラン・サッカー協会のメヘディ・タージ会長は、米国のイラン攻撃開始直後に「W杯を楽しみに待つことは難しい」と発言。大会不参加を示唆したとも受け取られているが、イラン側の出方はまだ明確ではない。
イラン側が自らボイコットを決めてくれれば、米国やFIFAはホッと胸をなでおろすのだろうが、もしイランが大会参加を決断した場合、米国はイラン選手団の入国を許すだろうか?
イラン問題は、すでに昨年末から取り沙汰されており、「米国は選手団へのビザは発給するが、取材陣やサポーターは入国させないのでは?」と囁かれていた。戦争が始まった以上、選手団自体の入国も問題になるだろう。
国際競技会では、開催国は政治的立場に関わらず、すべての国の選手団を入国させるのが義務だ。昨年10月には体操の世界選手権で開催国インドネシアが、イスラエル選手団へのビザ発給を拒否して大問題となった。
だが、国際法を無視した軍事行動を繰り返す米国のトランプ政権に、そんな「世界の常識」が通用するはずはない。もし、米国がイラン選手団へのビザ発給を拒否したら、FIFAはどうするのか?
本来なら、主催者である競技団体は開催地変更を考慮すべきだが、W杯のような大規模な大会を他国が肩代わりすることは不可能だ。
しかも、スイス生まれのインファンティーノFIFA会長はトランプ大統領寄りの姿勢を明らかにしており、昨年12月には「FIFA平和賞」を新設してトランプ大統領に授与。さらにトランプ政権が発足させた「平和評議会」の初会合にも出席して、ガザ地区復興資金として7500万ドルの拠出を表明した。
ご承知のように「平和評議会」は、ガザ地区の暫定統治監督のためとして国連安保理が設置を決めた機関だ。だが、トランプ大統領自身が終身議長を務め、その権限や目的に疑義があるためEU加盟国や日本などは参加していない。FIFAは、その評議会に参加したのだ。
FIFAは「政治に巻き込まれた」というより、「自ら政治にすり寄った」と言わざるを得ない。
中東に翻弄された歴史
イラン問題以外でも、今回のW杯は政治に翻弄され続けている。今年1月にトランプ大統領がグリーンランド領有をめぐって欧州諸国に対して強硬姿勢を見せた時には、欧州各国でW杯ボイコットが論じられた。共同開催国であるカナダやメキシコと米国の関係も軋轢(あつれき)を抱えている。
米国では、今から32年前の1994年にもW杯が開催されたが、その時も中東問題に揺さぶられた。
イランはすでに反米政権誕生から20年が経過していたし、1990年にはイラクのクウェート侵攻に端を発した「湾岸戦争」が勃発。ブッシュ(父)大統領の米国を中心とした多国籍軍が軍事介入して、イラクをクウェートから排除したしたが、1993年に民主党のクリントン政権が誕生した後も、米国とイラクのサダム・フセイン政権との激しい対立は続いていた。
そのため「もしイラクのW杯出場が決まったらどうなるのか」と懸念されたのだ。
イラクは1993年10月にカタールのドーハで開催されたアジア最終予選に参加したが、初戦で北朝鮮に逆転負けを喫して、その後も苦戦が続いた。そのうえ、イラク選手が次々と出場停止処分を課せられた。あまりに厳しい処分だったため、「FIFAはイラクをW杯に出場させたくないのだろう」と噂された。
イラクはそれでも必死で戦いを続け、日本と対戦した最終戦では終了直前に同点ゴールを決めて日本を奈落の底に突き落とした(日本では「ドーハの悲劇」として記憶されている)。だが、結局イラクもイランも出場権を獲得できず、米国と関係の良い韓国とサウジアラビアがW杯出場を決めて、事なきを得た。
ちなみに、イラクは3月下旬に行われる大陸間プレーオフを勝ち抜けば、2026年大会出場権を獲得する。また、プレーオフで敗退しても、もしイランが棄権すれば、アジア予選でイランに次ぐ成績だったイラクが代理出場するとも言われている。
「サッカーの祭典」も、トランプ政権に翻弄され続けているのである。