かつて恐竜は哺乳類に至らない、生態学的に哺乳類に劣った存在だったと考えられていた時代がありましたが、昨今の研究の進展により、恐竜の優れた生態が明らかになってきました。
しかし、その観点は、あくまでも「はるか過去」の話であることが前提になっており、今日では哺乳類が生態学的に最も優勢であると考えられています。はたして、それは真実でしょうか。
哺乳類の生物学的優位性を、鳥類型の恐竜の子孫である鳥類との比較で確かめていきます。
恐竜に追いやられて夜行性になった哺乳類!?
恐竜は図体だけは大きいが、アホでのろまだったので、賢くて敏捷な哺乳類に負けて絶滅した。
私が子どものころには、そんな偏見がまかり通っていた。ブロントサウルスのような大きな恐竜になると、尻尾を踏まれてから脳が「痛い」と感じるまで何十分も掛かったと言われることさえあったのだ。
さすがに今では、そういう話を聞くことは少なくなった。むしろ恐竜のほうが、いろいろな点で哺乳類より優れており、生態学的に優勢であったと認識されるようになった。恐竜と哺乳類は三畳紀(約2億5200万年~2億100万年前)にほぼ同時に出現したが、哺乳類は恐竜に追いやられて夜行性の生活を余儀なくされた、と解釈されるようになったのだ。
この見解は基本的には正しいと思うけれど、少しだけ欠落があるように思う。それは、昔話として語られるところだ。
たしかに昔は恐竜のほうが優勢だったかもしれないけれど、恐竜がいなくなった今は哺乳類の天下だ、そういうイメージで語られるところだ。しかし、恐竜が優勢だった時代は、過ぎ去ってはいない。現在でも、哺乳類は恐竜に敵わないのである。
現在も続く“飛翔する動物”の競合
恐竜は今も生きている。なぜなら、鳥は恐竜の子孫、つまり鳥は恐竜だからだ。たしかに非鳥類型の恐竜はいなくなったけれど、鳥類型の恐竜は、空中をおもな生活空間として、今も繁栄しているのである。
ところで、鳥類と同じように飛翔能力を持つ脊椎動物に、コウモリがいる。脊椎動物のなかで飛翔能力を持つのは、この2種類だけなので、両者は生態学的に競合関係にある(ちなみに飛翔能力を持つ無脊椎動物としては昆虫がいる)。
つまり、舞台を空中に移して、恐竜(鳥)と哺乳類(コウモリ)の競合関係は、今も続いているのである。そして、やはりここでも優勢なのは、哺乳類ではなく恐竜なのだ。
恐竜(鳥)が優勢である理由は、いくつかの点で、鳥がコウモリより優れているからだ。ここでは4つの点から、鳥とコウモリを比較してみよう。
まずは、もっとも重要な飛翔能力についてだ。
素晴らしい“羽毛”の機能
哺乳類も鳥類も、体温がほぼ一定に保たれている恒温動物である。両者の体温は、外界の気温や水温より高いことが多いので、体から熱が失われないように断熱材が必要になる。
そこで、哺乳類では毛が、鳥類では羽毛が進化したと考えられている。断熱効果としては毛より羽毛のほうが優れているので、その点でもやはり哺乳類より鳥類のほうが優れているのだが、ここでは飛翔能力について考えよう。
まず、羽毛は毛より軽い。毛は中心部まで物質が詰まった構造をしているが、羽毛は中空だからだ。
羽毛にはいくつか種類があるが、翼を含め体の大部分に生えている正羽には、羽軸と呼ばれる中心軸があり、そこから両側に羽枝が生えている。その羽軸が中空になっているのである。
羽軸の両側に広がった羽枝からは、さらに小羽枝が生えている。この小羽枝には鉤のような構造があり、お互いに引っかかるようになっている。そのため、小羽枝や羽枝が繋がって、羽毛は全体として1枚の膜のように機能するのである。
骨から直接生える風切羽
正羽のなかでも翼を構成する大きな正羽を風切羽というが、この風切羽は骨から直接生えている。
羽毛の多くは皮膚から生えているのだが、風切羽は例外だ。これは、翼を羽ばたいて飛ぶときに、大きな力が掛かるからだろう。もし、風切羽が皮膚から生えていたら、皮膚が裂けてしまうに違いない。
鳥が飛ぶために翼を打ち下ろすと、風切羽が重なり合って、翼全体が1枚のうちわのようになる。そのため、大きな抵抗力を生み出し、体を持ち上げたり前に進んだりできる。
いっぽう、翼を打ち上げるときには、重なっていた風切羽が外れて、その間を空気が流れる。ちょうどブラインドが開いたような感じで、あまり抵抗力を受けることなく、翼を打ち上げることができるのだ。じつに巧みな仕組みである。
コウモリの“飛膜”の飛翔能力
しかし、コウモリには、鳥のように効率のよい飛翔の仕組みはない。コウモリの毛は重いし、重ねてうちわのようにすることもできない。そのため、コウモリは、腕と指と脚の間に飛膜という膜を張って、それを飛翔に使っている。
しかし、膜ではブラインドのように隙間を閉じたり開けたりすることはできないので、鳥の翼に比べれば効率が悪い。そのため、鳥のように速く飛んだり長距離を飛んだりすることはできない。
また、飛び立つ力も弱いため、地上から飛び立つことは難しい。多くの鳥はかんたんに地上から飛び立つが、コウモリは洞窟の天井などの高いところから落ちることによって加速し、飛翔を始めることがふつうである。
このように、飛翔能力においてコウモリは鳥に敵わないので、洞窟や夜行性の生活に追いやられているのだろう。
暖かい日差しのなかで、小鳥が地面で餌をついばんでいる。ところが、そんな小鳥をネコやカラスが狙っている。もちろん、ネコやカラスのために命を落とす小鳥もいるだろうが、素早く飛び上がって逃げられることも多いだろう。
しかし、コウモリだったら、どうなるだろう。暖かい日差しのなかでコウモリが地面で餌を探している。そんなときにネコやカラスに襲われたら、まず助からない。コウモリは素早く飛び立つことができないからだ。
鳥の優れた呼吸効率
飛翔能力について鳥とコウモリを比べてみたが、その他にも鳥(恐竜)のほうがコウモリ(哺乳類)より優れたところがたくさんある。かんたんに3つほど述べておこう。
まず、呼吸効率だ。鳥には肺の他に気嚢という構造がいくつかあり、それらが同時に縮んだり膨らんだりして、肺に空気を送っている。
少し単純化して説明しよう。鳥が息を吸うときは、肺の後ろにある後気嚢と肺の前にある前気嚢が両方とも膨らむ。空気は二手に分かれて後気嚢と肺の後方に入る。肺の後方に入った空気は、前気嚢が膨らむことによって肺の前方へ流れていく。
鳥が息を吐くときは、後気嚢と前気嚢が両方とも縮む。後気嚢の中の空気は押し出されて、肺の中を前方へ流れていき、前気嚢に入った空気は押し出されて、口から排出される。
つまり、鳥は息を吸っているときも吐いているときも、途切れることなく肺の中を空気が流れ続けており、酸素が取り込まれ続けているのである。
いっぽう、哺乳類では、息を吐いているときは肺の中の空気が少なくなって、酸素の取り込みが中断してしまう。そのため、呼吸の効率が悪い。
アネハヅルという鳥は、インドからチベットまでヒマラヤ山脈を越えて渡りをするが、そういう芸当は哺乳類にはできない。ヒマラヤ山脈の上空のような酸素の薄いところで活発に活動できるほど、哺乳類の肺はうまくできていないのである。
鳥は陸上生活に適応している
魚類が陸上に進出したとき、一番問題になったのは水不足であろう。生きていくためには大量の水が必要なので、陸上で生活するためには、水を節約しなければならない。
しかし、哺乳類は、体内で作られたアンモニアを尿素に変えて、水に溶かして液体として排出するので、かなりの水を無駄にしてしまう。
いっぽう、鳥類は、いったんはアンモニアを尿素に変えるが、さらに尿素を尿酸に変換して、半固形状態で排出する。そのため、ほとんど水を無駄にしないで済む。さらに鳥類は、総排泄孔に放出された尿が大腸に送られて、水分やミネラルが再吸収される仕組みまで持っている。陸上生活への適応進化という点で、鳥類は哺乳類より先へ進んでいるのである。
鳥はよく道具を使う
知能の高さを測る尺度の一つに道具の使用がある。そして、私たちヒトを除けば、もっとも精巧な道具を作って使うのは、カレドニアガラスである。
たとえば、カレドニアガラスはフック状の道具を作って使うが、これはチンパンジーなどの類人猿でも見られない行動だ。
一般に、鳥類は道具を使うのが得意で、道具を使う種は哺乳類より鳥類のほうがずっと多い。これには嘴が関係している可能性がある。
私たちヒトは、細かい作業をするときにピンセットを使ったりするが、先が細くなっている鳥の嘴は、ピンセットのようなもので、細かい作業をするのに適している。
また、たいていの鳥は片足で立つことができるので、空いたほうの足でもいろいろな作業ができる。片手ではやりにくい作業も、両手を使えばかんたんにできたりする。
それと同じように、嘴だけではやりにくい作業も、嘴と片足を使えばかんたんにできたりするだろう。嘴と片足が使えれば、両手が使えるようなものなので、さまざまな道具を作ったり使ったりすることができるのだと考えられる。
非鳥類型の恐竜はいなくなったので、私たちはのんびりと暮らしている。ところが、空中が生活の舞台であるコウモリは、今でも鳥という恐竜と競合しているので、たいへんな苦労をしている。
やはり今でも、哺乳類は恐竜に敵わないようである。