いま投資家が「土を焼く会社」に注目するワケ
半導体ブームの恩恵を受ける企業といえば、東京エレクトロンやアドバンテストの名前が浮かぶだろう。
だが、いま投資家の間で密かに注目を集めているのは、「土を焼く会社」である。
トイレ、高級食器、電柱の碍子(がいし)――。先端テクノロジーとは無縁に見える事業を本業とする老舗メーカーが、AIと半導体の巨大な需要の波に静かに乗り始めている。
共通するのは、土や石などの無機物を高温で焼き固める「セラミック技術」である。便器、食器、碍子――いずれも原点は「土を焼く」という原始的な技術だ。この窯業(ようぎょう)の技術系譜が、半導体製造という最先端の工程で不可欠な存在になりつつある。
矢野経済研究所の調査によれば、半導体製造装置向けファインセラミックス部材の世界市場は2024年に約9,500億円規模に達し、2030年には1兆6,600億円を超える見通しだ。年平均成長率は約10%。半導体市場全体の成長率を上回るペースで、「装置を支える素材」の市場が膨張しているのである。
「トイレのTOTO」が半導体で稼ぐカラクリ
その筆頭格がTOTOだ。ウォシュレットで知られるこのトイレメーカーが、なぜ半導体の文脈で語られるのか。答えは、同社が約40年前からひっそりと手掛けてきたセラミック事業にある。
半導体製造の前工程では、シリコンウエハと呼ばれる部品を装置内の所定の位置に固定し、温度を精密に制御する必要がある。この役割を担うのが「静電チャック」と呼ばれるセラミック部品だ。TOTOは便器製造で培った高純度セラミックスの焼成技術を応用し、耐プラズマ性に優れた静電チャックを製造している。
便器も静電チャックも、高温で焼き固めたセラミックの塊という点では本質的に同じだ。違うのは、求められる純度と精度が異なるということである。トイレで培った「大型セラミックを均質に焼き上げる」という、他社が容易に真似できないTOTO独自の技術基盤がここで生きているのだ。
驚くべきは、その利益構造だ。TOTOは2025年4〜12月期累計で、セラミック事業の売上高は前年同期比37%増の470億円、営業利益は同42%増の202億円を記録した。連結売上高に占める構成比はわずか8.5%程度にすぎないにもかかわらず、営業利益全体の約5割をこの事業が占めている。
TOTOの株価も業績の伸びと足並みを揃えて高騰している。
AI需要の拡大で高性能メモリーと汎用メモリーの双方で供給がひっ迫し、静電チャック事業への期待が一段と高まったためだ。ようやく市場もトイレメーカーが半導体ブームの関連銘柄であると本格的に注目し始めた可能性がある。
同社のセラミック事業は生成AIブームが始まる2022年までは売上に利益がなかなかついてこない低採算事業であったが、生成AIブームが「トイレ企業」から「セラミック企業」へその様相を一変させた。
同社はセラミック事業の成長を中核においており、2030年の中期経営計画上では国内外の「住宅設備」と並ぶ第3の柱に育てていく方針だ。
「食器のノリタケ」「碍子の日本ガイシ」……窯業の老舗が握る「見えないシェア」
こうした構図はTOTOに限った話ではない。名古屋を拠点とするノリタケは、世界的な高級食器ブランドとして知られるが、実態は「セラミック・マテリアル事業」が利益の柱だ。
食器製造で磨き上げたセラミックの混合・焼成技術を応用し、積層セラミックコンデンサ(MLCC)向けの電子部品材料を供給している。MLCCはスマートフォンからEV、AIサーバーまで幅広い製品に搭載される。
同じく名古屋に本社を構える日本ガイシは、電柱に取り付けられるそろばん珠のような形の碍子世界最大手だ。碍子もまた、セラミックである。この窯業の技術を活かし、同社の「デジタルソサエティ事業」は半導体製造装置に不可欠なセラミック部品を供給している。
米国では89億円を投じて半導体関連子会社の生産能力を約2割増強する計画を進めており、この分野を「当面の成長の柱」と明確に位置づけている。2026年3月期は売上高・営業利益ともに上方修正と配当増額を発表した。
TOTO、ノリタケ、日本ガイシ。この3社はいずれも、「土を焼く」という窯業の技術を出発点に、半導体製造という最先端の領域で替えの利かないポジションを築いている。これが「窯業技術の半導体転用」という、見過ごされた成長ストーリーの正体である。
なぜ「窯業企業」は見過ごされてきたのか
ここで考えたいのは、なぜこれらの企業が「半導体関連」として正当に評価されてこなかったのか、という点だ。
答えは明快である。TOTO、ノリタケ、日本ガイシの3社はいずれも東京証券取引所の事業分類が「ガラス・土石製品」に分類されている。業界をスクリーニングするうえでは、これらのセクターは半導体関連としてみなされておらず、「電気機器」や「情報・通信」といった直接連想可能なセクターと比較してヒットしにくい。
加えて、本社所在地もTOTOは北九州、ノリタケと日本ガイシは名古屋と、東京からは遠い。「発見されにくさ」をさらに助長しているのである。
セラミックの焼成技術は、温度管理、原材料の配合、表面処理のノウハウが複雑に絡み合う暗黙知の塊だ。新規参入者が短期間でそのようなノウハウを身につけるのは難しく、これが老舗プレイヤーの競争優位性を維持している。
もちろんリスク要因もある。半導体市況は一般に「シリコンサイクル」という特有の景気循環に対する脆弱性があり、足元のAI需要が一巡すれば業績調整は不可避だ。
また、TOTOであれば中国の住宅市場低迷、日本ガイシであればNAS電池事業からの撤退に伴う特別損失計上など、個社固有のリスクもそれぞれ抱えている。
それでも、「トイレのTOTO」「食器のノリタケ」「碍子の日本ガイシ」というラベルの裏側に、半導体産業を静かに支える窯業技術が存在する。
人類の歴史を太古から支えてきた「土を焼く技術」が最先端のAI社会をも支えている。今後も日本の老舗メーカーが保有する技術が、思わぬところで陽の目を見るだろう。
投資関連記事をもっと読む→都市全体が発電所に…注目の国策「ペロブスカイト太陽電池」関連銘柄4選、気になる「本命企業の名前」