子どもがいる家庭の悩みのひとつである「本を好きになってほしい」が、「毎日読み聞かせをする時間がない」昨今。いま注目され始めているのが“動画による読み聞かせ”という新しい選択肢だ。
『モンスターズ・インク』でサリーを務めた石塚英彦さんも先日、国連の「1.5℃の約束」のもと制作された絵本『あちちち地球とだいじなやくそく!』の読み聞かせ動画を収録したばかり。読み聞かせ動画の収録当日、石塚さんは絵本に込めた思いと、未来に向けた行動について語ってくれた。
今回は、その“先にある問い”に焦点を当てる。
【〈前編〉あなたの家で実は起きている“見えない教育格差”とは? 石塚英彦が語った突破口に学ぶ】はこちらから。
できることをできる分だけ…続けるための石塚メソッド
石塚さんがあげた日常のアクションは、どれも身構えずに実践できるものばかりだ。
石塚英彦さん(以下、石塚)「“スーパーオオゼキ”のエコバッグは常に持ち歩いてます。ビニール袋を減らしたいので、そのまま別のスーパーの“サミット”にも行きます(笑)。あと、食品ロスも極力なくすようにしている。これは僕の得意分野ですね」
ユーモアを交えながら、石塚さんは“行動のハードル”について自覚的だ。紙ストローが苦手だという話題にも触れつつ、「プラスチック製ストローと木を使う紙製ストロー、どちらが正しいのか、もう分からない」と率直に語る。
完璧さより、迷いながらでも続ける姿勢を大切にしていることがうかがえる。
また、石塚さんは還暦を機に始めたというガーデニングでは、ひまわりやコスモスを育てている。
石塚さん「植物が光合成をしてくれるから、少しは地球に貢献できてるのかなって。プランター4つ分ですけどね。ただ、できた酸素は僕が全部吸っちゃってるかもしれない(笑)」
環境貢献という言葉が重くなりがちな時代に、石塚さんの語りは軽やかだ。「自分に必要な分を、自分でつくろう」という発想には、無理をしない主体性がある。
清水寺に学ぶ「100年先を準備する」という発想
意外にも話題は伝統建築へとつながった。
石塚さん「清水寺の舞台は何十年、何百年に一度造り直すそうです。そのとき困らないよう、同じ木を前もって植えてずっと育てている。木はすぐ大きくならない。何百年先のために準備しているって、すごいですよね」(※3)
日々の小さな一歩も、遠い未来を見据えた壮大な備えも、向かう方向は同じ。石塚さんはそこに、“未来への優しさ”という共通項を見出している。
※3これまでの400年、これからの400年。 – 清水寺の読み物 | 音羽山 清水寺
情報格差をなくすという挑戦「読書バリアフリー」
今回、新たな試みとして製作されたのが、視覚障害などの理由で文字を読みづらい人にも物語を届ける“読書バリアフリー版”の読み聞かせ動画だ。
単なる音声版ではなく、フォント、文字色、背景のコントラスト、さらにはナレーション(説明)と読み聞かせ(物語)の声質を分けるといった、細部まで設計されたアクセシビリティ対応が施されている。
この試みを支えてくださったのは、日ごろから、視覚障害者などが利用する特定書籍・特定電子書籍の製作に携わっている日本ライトハウス情報文化センターの数又幸市(かずまた こういち)さんだ。
数又さん「視覚障害といっても“見え方や見えにくさ”は人それぞれ。みんなが同じように見えているわけではありません。その点をきちんと考慮する必要がある」(※4)──こうした専門家の知見が、このバリアフリー版に生かされている。
※4目の見え方の異なる世界:ロービジョンからディスレクシアまで | アクセシブルコード
アクセシビリティは“弱者のための特別対応”ではない
石塚英彦さんは、この取り組みに迷わず参加した。
石塚さん「バリアフリーって、僕らの生活圏を広げてくれた言葉だよね。今まで触れられなかった文化に、手を伸ばせるようになる。本の世界にも、もっと広がってほしい」
石塚さんが語る“広がる生活圏”とは、単に便利さの話ではない。
企業のデジタルサービスから行政手続き、金融・交通インフラまで、あらゆる分野で「アクセシビリティの有無」が利用者の“参加機会”を左右する時代になっている。情報にアクセスできるかどうかは、もはや社会参画の条件そのものだ。
温暖化という難題を「身近なテーマ」に変える声
温暖化を扱った科学絵本は、専門性が高いため“構えてしまう”読者も多い。しかし石塚さんの語りには、概念を柔らかくほどく力がある。
インタビューの現場でも、「まさに石塚さんご自身が“バリアフリー的な存在”ですね」と伝えると、「そうだとうれしいですね。僕自身は段差があると転びますが(笑)」と場が和む冗談で応じた。
難しいテーマだからこそ、誰にでも届く形で提示することが社会的価値になる。その象徴が、この読書バリアフリー版なのだ。
石塚英彦が語る、人生を動かす最小の原動力
絵本の主人公・ニコのように、自分の居場所を見いだせない──そんな感覚は、子どもに限らず、いまや多くの大人にも共通するテーマだ。石塚英彦さんは、そんな不安を抱える人へシンプルだが本質的なメッセージを送る。
石塚さん「自分の“好き”を見つけること。それは必ず、どこかで生きてくる」
この言葉の背景には、高校の恩師の誘いで訪れた特別支援学校での体験があるという。
石塚さん「ガンダムを夢中で描き続けている子がいたんだけど、その絵が驚くほど上手でね。パズルが抜群に得意な子もいた。それぞれに“強み”になり得るものがあって、本当に感動したんです」
石塚さんは、この経験が「才能というのは、評価軸が変われば一気に光を放つ」と感じた瞬間だったと語る。画一的な基準では測れない力があり、それを拾い上げる環境の重要性を実感したという。
石塚さん「こうした個性に寄り添う学校が増えたら、子どもたちはもっと楽しく学べるようになると思う」
“誰にでも、必ず夢中になれる何かがある”。石塚さんの言葉には、現場での実体験からくる確かな説得力と、人の可能性を信じるまなざしが宿っていた。
絵本と動画が示す「あなた自身のアクションプラン」
主人公のニコが旅の中で“自分の役割”を見いだしたように、私たち一人ひとりにも、地球や社会のために踏み出せる小さなアクションがある。
それは決して大げさなものではない。
・エコバッグを持ち歩くこと
・庭やベランダに花をひとつ植えること
・身近な誰かの「良いところ」を見つけてみること
どれも些細に見えるが、行動を積み重ねることで、結果的に誰かの選択を後押しし、社会の空気感さえ変えていく。ニコが物語の中で“役割”を発見したように、小さな一歩には、思いがけない影響力が宿る。
石塚英彦さんの朗読による読み聞かせ動画は、絵本の世界を伝えるだけで終わらない。その穏やかで包容力のある声は、環境問題のような大きなスケールで語られがちなテーマを、自分自身の選択に引き寄せるきっかけをつくってくれる。
社会課題を前に「自分にできることはない」と思いがちな時代だからこそ、今日から一歩、あなた自身の手で“絵本のつづき”を始めてみてはどうだろうか。
それは小さくても、確実に世界を動かす一歩になる。
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