2024年にNetflixで配信された『地面師たち』の「その後」をご存知だろうか。主人公のモデルとなった積水ハウス事件の主犯格・カミンスカス操が筆者と交わした手紙には、ドラマよりも遥かに恐ろしい詐欺師同士の生き残りをかけた戦いが綴られていた。「俺も地面師たちにダマされた!」「首謀者は別にいる!」と獄中で叫ぶ男が語る、地面師事件の真実とは。『地面師vs.地面師 詐欺師たちの騙し合い』より一部抜粋・再編集してお届けする。
責任の所在
カミンスカス操は海喜館の取引にあたり、知り合いの弁護士栃木義宏を羽毛田の代理人にしている。それもカミンスカス主犯審判の補強材料になっているといえる。もっともカミンスカスにはなりすまし犯に弁護士をつけた件について責任を感じる様子がない。
〈栃木弁護士は正義感の強い弁護士で私が羽毛田に紹介しました。羽毛田に弁護士をつけた理由は(取引)金額が大きいので心配だった事(中略)。
栃木弁護士と羽毛田で現地立会いをする予定でしたが羽毛田は体調が悪く、栃木弁護士が羽毛田から鍵を預かって1人で現地にきました〉(2024年11月5日付書簡)
カミンスカスは羽毛田の体調が悪いことも栃木から聞いただけだという。これに先立ち、羽毛田と運転手役の佐藤隆の2人が栃木の弁護士事務所を訪れ、栃木に海喜館の内覧の立ち会いを依頼している。
先に書いたように佐藤は、積水ハウスの購入資金の受け皿となる銀行口座を用意したとして逮捕されたが、起訴を免れている。
誰が南京錠を設置したのか?
「私は体調が悪く、病院に行かなければならないので、代わりに立ち会っていただけませんか」
弁護士事務所で羽毛田が栃木にそう依頼し、栃木は羽毛田から勝手口の鍵を受け取った。栃木もまたこの時点で羽毛田がなりすましだったとは気づかなかったと捜査当局に答えている。栃木は羽毛田らに言われるがまま、海喜館の裏通りでカミンスカスや生田、近藤、積水ハウスの営業担当者2人と合流した。そして海喜館の内覧が実施される。
栃木が羽毛田から預かった鍵は、とってつけたような真新しい南京錠だった。いかにもチャチな舞台設定に感じる。ところが、積水ハウスはここでもまんまと騙されている。
では、南京錠の鍵は誰が用意したのか、そこも気になる。これがカミンスカスなら、なりすましを知らなかったという言い訳は成り立たない。逆にそうでないなら、別人が用意したことになる。それは内田か、あるいは土井か——。
〈内覧時のカギは誰がどのようにして用意したのでしょうか。内田か土井のような気もしますが、いかがでしょうか。また、積水の報告書によれば、内覧会のまっ最中に貴兄が羽毛田に電話して体調が悪いと聞き、積水ハウスにそう説明をしたとありますが、事実はどうでしょうか〉
私は2024年11月27日付の手紙でカミンスカスに尋ねた。すると12月5日付で返事があった。
〈カギはおっしゃる通り土井か内田が用意して羽毛田に渡したのだと思います〉
返信はこう続く。
〈羽毛田は(事件公判の)証人で出廷した時に(佐藤の運転する)車内で私に鍵を見せられたと証言しました。これも偽証です。私は内覧時に栃木弁護士がカギを持ってくるまでまったく(事情を)知りませんでした〉
羽毛田の公判証言はカミンスカス主犯の裏付けにもなっているのだが、本人はそれが偽証だというのである。公判でもカミンスカスは「それは嘘だ」と検事の反対尋問に答えている。
前述した内容証明郵便騒動の折、生田は海老澤が沖縄旅行中だと積水ハウス側に説明したことになっている。カミンスカス自身もまた内覧会のときに積水ハウスに同じような説明をした、と調査報告書に記録されている。その積水ハウス側の調査報告書や検証報告書に基づき、カミンスカスに質問した。
〈同報告書では、積水側が羽毛田に面談を申し込むと、「沖縄旅行に行っているので会えない」との説明もあったと記していますが、どのような経緯でそうなっているのでしょうか〉
内覧会のときにカミンスカスが羽毛田に連絡をしていたと書いている報告書に対し、カミンスカスの言い分はこうだ。
〈積水側から羽毛田に面談したいので連絡を取ってほしいと言われたので羽毛田に電話しましたが出ません。そこで土井に海老澤(羽毛田)さんと連絡を取りたいとたのむと「30分後に羽毛田に電話して」と言われて電話したら出て「今沖縄にいるので会えない」と言われました〉
内容証明郵便のときと同じく、海老澤こと羽毛田が沖縄旅行をしているというのも嘘だ。カミンスカスは羽毛田と電話で話したのは事実だが、そこで嘘をつかれた、と主張しているわけである。
銀座のアパレル業者、横澤
序章に書いたように、もともとカミンスカス操に海喜館の取引を持ち込んだのは、銀座のアパレル業者エマイユ社長の横澤(太田)弘人(仮名、手紙では実名)である。
〈物件の元付〉と手紙にあったように、もとはといえば横澤は、海喜館の所有者である海老澤佐妃子の知り合いだという触れ込みで、カミンスカスと会っている。カミンスカス操は、すべてがエマイユの横澤から始まっているという。当人が事件解明の鍵を握っている重要人物と訴えるのも無視できない。
そのカミンスカスは横澤から海喜館の計画を聞いて以来、ずっと羽毛田をなりすましとは知らず、売買に臨んできたのだというのである。そんなことがありうるのだろうか。逮捕された地面師たちは捜査当局の取り調べに対し、一様に「なりすましと知らなかった」と言い訳をしてきた。カミンスカスの主張もそれと同じ類いではないのか。交信を重ね、そう何度も聞いた。だが、カミンスカスは反論する。
〈(エマイユの横澤と会った後)2週間程たってから土井さんが(地主)本人に会わせてやると連絡をくれてその日の内に有楽町に呼び出され常世田と会いその日の内に日本橋で本人(羽毛田)と会いました。
羽毛田は海老澤さんのパスポート本人の写真の人でした。私はエマイユの横澤(太田)からもらっていた資料通りだったのでまさか贋者とは思いもよらなかった〉(2024年4月25日消印書簡)
カミンスカスは、エマイユの横澤が詳細を語りさえすれば、真実が判明すると述べ続けてきた。実のところエマイユという社名は、内田マイクの判決要旨にも当初、かかわった業者であるかのように書かれている。カミンスカスは獄中から叫ぶ。
〈私はエマイユの横澤(太田)の証言があれば私が地面師グループでは無い事が証明される〉(同8月8日消印書簡)
ところが、捜査当局は横澤を事情聴取した形跡もなく、横澤は事件の公判にもいっさい登場しない。積水ハウス事件のキーパーソンと目されるエマイユの横澤弘人は逮捕もされず、世間にもまったく知られてこなかった。その横澤は事件後ほどなく、大がかりな企業買収詐欺を引き起こし、被害者から追われる身となる。
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