つい最近まで日米の株式市場が目まぐるしく史上最高値を更新する中、その相場はあたかも高所恐怖症で震えるかのように神経質な上下動を繰り返してきた。ほんの些細な情報、ちょっとした切欠(きっかけ)、あるいは信頼性に足るのかも怪しいような情報が株価を大きく変動させる要因になり得るのだ。
先週の月曜日、米国のダウ平均は800ドル以上も下落したが、その引き金となったのが、比較的無名の金融調査会社が出した「AIと産業・雇用の未来」に関する一種の思考実験ともSFともつかないような未来予想レポートだった。
【前編を読む→米国市場を大混乱させたレポートが指摘する「AIによる雇用破壊が28年6月に深刻化する」の衝撃】
シトリニ・レポートがもたらした影響
ウォールストリートなど現場の市場関係者はこのレポートを持て余している。彼らは「AIがこれからの経済や株式相場にどんな影響を与えるかは分からない」と率直に認めている。AIという技術自体について彼ら市場関係者は全くの素人であるから、その潜在的な能力を正確に見積もることはできない。またAIが産業各界の株価にどう織り込まれるかを予想するのは、さらに困難を極めるという。
実際のところは、先週冒頭に急落した株価の多くは週末にはかなりの程度まで回復した。が、一方で(オンライン決済事業の「Square」や「Cash App」を傘下に抱える)米Block社が先週木曜日に従業員の約40パーセントを解雇すると発表した。
これについて、同社CEOのジャック・ド-シー氏は「AIが働き方を変えようとしている今、我々は先手を打つしかなかった」と述べるなど、シトリニ・レポートの予想を裏付けるような動きとなった。
全ての仕事が変わり、もう元に戻ることはない
ドーシー氏はツイッター(現X)の共同創業者として知られ、IT関連の未来を見通す先見性には定評がある。
先週Block社の決算発表の席でドーシー氏は「昨年12月に何かが起きた。(CodexやClaude Codeなどの)AIがどれほど高度で有能になったかを実感した。これから全ての仕事が変わるだろう。それは我社だけでなく、ありとあらゆる会社に広がっていく。もう元に戻ることはない」と(する旨を)述べた。
これに続けて「この恐るべき変化に対して数か月~数年をかけて徐々に人員削減すべきか、それとも現状を率直に認めて今すぐ行動すべきかで悩んだが、私は後者を選ぶことにした」と明らかにした。
Blockの業績は決して悪くない。昨年第4四半期の売上は約62億5000万ドルと昨年比で微増し、アナリストの予想を上回った。(傘下の)Cash Appの月間利用者数は5900万人と(こちらも)微増した。同社は2026年の純利益予想も引き上げた。
そうした中で発表された今回の大規模な人員削減は、シトリニ・レポートなどが引き起こす雇用不安をさらに煽る危険性がある ―― そう一部アナリストや経済学者らは警鐘を鳴らしている。
単なる可能性ではなく既に現実化している
彼らエコノミストによれば、特に注意すべきは企業行動の変化だという。
ドーシー氏の発言に見られるように、Blockのような企業は「将来の可能性」ではなく「既に起きたAIの飛躍」に基づいて行動を起こし始めている。これは昨年懸念された「生成AIへの過剰な設備投資」のような、将来予測に基づく行動とは本質的に異なる。米国ではAIによる雇用破壊は今や完全に現実化しており、それに何時(いつ)どの程度まで対処するかが早くも問題になっているのだ。
エコノミストによれば、結局のところ今の市場が最も恐れているのはAIそのものではないという。むしろ人類が初めて直面する「知能の供給過剰」という状況に経済システムも企業体制も未だ適応できていないことだ。
最近の(特に米国の)激しい株価変動は、その適応過程の初期症状に過ぎないという。必ずしも信憑性があるとは見られていないシトリニ・レポートだが、その点だけは正鵠を射ているのかもしれない。
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