怪しいインフルエンサーはリスト化されている
昨年12月、約1億5000万円を脱税したとして東京国税局に刑事告発された実業家でインフルエンサーの宮崎麗果氏。告発後、彼女のインスタグラムから豪勢な私生活を映した投稿が一斉に削除された。フェラーリなどの高級外車の購入報告、ハイブランドのバッグをずらりと並べた投稿――いかにもインフルエンサーらしい華やかな日常が、跡形もなく消えたのだ。
刑事告発と投稿削除、一見関係ないように思われるが、どうやらこうした投稿が国税査察部、いわゆるマルサの目に留まっていた可能性があるというのだ。
円満相続税理士法人代表で、Youtubeチャンネルも人気の税理士、橘慶太氏が解説する。
「公表されているわけではありませんが、SNSやネット上の情報が税務調査の参考にされることはあると言われています。
インフルエンサーがもてはやされる一方で、その取り締まりは水面下で強まっている可能性がある。申告内容に見合わない派手な生活を発信していれば、税務調査の対象になりうる――インフルエンサーたちはそう認識しておく必要が出てきました」
税務調査には、別件の調査を装って、それとは直接関係のない第三者の口座情報などを調べる「横目調査」と呼ばれる手法がある。過去には、この横目調査で収集された情報について、被告人側が「証拠能力がない」と争った裁判で、裁判所が「調査に違法性はない」と判断したケースもあるほどだ。
筆者の取材では、その横目調査の一環として、当局が「著名人やインフルエンサーによる高級品の購入リスト」を作成しているとの情報があった。
国税庁のホームページには「申告漏れ所得金額が高額な上位10業種」といったリポートも公開されており、近年はキャバクラや風俗業が上位に並んでいるが、調査側が意図的に特定の職業や属性を重点的に見ていても不思議ではない。
さらに、「一般人を装った国税調査員のアカウントが存在する」と語る税理士もいる。SNS上でインフルエンサーと交流しながら、実態を探っているというのだ。特定のアカウントについて「それではないか」とウワサになっているケースすらある。
もしそうしたアカウントが本当に存在するなら、宮崎氏のように豪華な生活ぶりを前面に打ち出してきたタイプは、真っ先に調査対象になる可能性が高い。
こうした状況もあり、税務・会計業界では宮崎氏の告発を「特別な事件」とは見ていないようだ。ある会計士は「今後、同様の摘発は増えていく」と予測する。
「影響力のあるインフルエンサーほど、国税の監視対象になるでしょう。実際、昨年あたりから当局がSNSで高収入を得ている層に本格的に照準を合わせ始めているという話が業界で囁かれていました。宮崎さんのケースは、その流れが現実化したものです。有名インフルエンサーを検挙すれば、見せしめにもなるし国税庁としても存在感を示せますから」
報道後、しばらく沈黙していた宮崎氏だが、2月上旬にストーリーズを更新した。ただし、かつてのような豪華な暮らしぶりのアピールではない。自身が手がけるフェイスマスクを使ったユーザーへの感謝コメントだけだった。
インフルエンサーの一斉摘発が始まる⁉
宮崎氏はインスタグラムのフォロワー数約47万人を誇り、ファッションや美容系コンテンツで支持を集めてきた。夫はEXILEの元メンバー・黒木啓司。華やかな私生活を発信し続け、成功者としてのイメージを築いてきた。しかし、告発された脱税手口について、ある会計士は「よくある申告漏れや経理ミスとは次元が違う」と指摘する。
「報道を参照するなら、架空の領収書を用いた極めて悪質な手口です。事業規模に比して脱税額も異常に高く、計画性すら感じられる。しかも今回は、査察部、いわゆるマルサによる調査。通常の任意調査ではなく、強制調査に踏み切られた点からも、当局の本気度がうかがえます」
この会計士は、当局が特に問題視したとみられる脱税スキームについて、こう分析する。
「発想自体は古典的ですが、かなり欲張りすぎた犯罪という印象です。架空領収書を使うだけでも完全にアウトなのに、さらに未払いのまま経費計上して税金だけを減らす、いわば幽霊経費までやっている。報じられている内容が事実なら、国税から見たら矛盾だらけの申告だったでしょう。
高額な未払い業務委託費が計上されているのに、支払いの実態がないというのも、不自然さが際立つ。結果として、単なる過少申告ではなく、在宅起訴レベルにまで発展したのではないでしょうか」
さらに、こう付け加える。
「本来なら、周囲に止める人間がいて然るべき案件です。それがいなかった。そこが一番の問題でしょう。税理士が関与していれば、こんな処理は脱税になると止めるはずですから」
スマホ一つで一般人でも「インフルエンサー」という芸能人のような存在になれる時代。地に足付けて活動し徐々に知名度を上げてきた従来の有名人と違い、急激に収入を得るようになったため、金銭管理や倫理観を身につける準備期間がないのかもしれない。
前出の橘氏は、インフルエンサーの税務対応についてこう語る。
「配信活動に専念しているタイプの場合、税務関係をすべて税理士に任せるケースが多く、結果として適切な申告につながりやすい印象があります。一方で、インフルエンサーでありながら経営者としての側面も持つ方は、事業への理解が深い分、節税を強く意識する傾向があり、その延長で、行き過ぎた節税や脱税に踏み込んでしまうのかもしれません」
インフルエンサーの中には、怪しげな「自称コンサルタント」の助言をうのみにし、不適切な税務処理を行ってしまう者がいるという話もある。宮崎氏のケースでも、脱税を手助けしたとして知人の男性会社役員2人が告発された。彼らが指南役だったかは不明だが、少なくともチームとして犯行に及んでいた可能性が浮かび上がる。
ある美容ブロガーはこう明かす。
「似たような別の美容系インフルエンサーが、宮崎さんの告発後に過去投稿を一斉削除していました。脱税に心当たりがあったようにしか見えません。今回の一件で、多くのインフルエンサーがびくびくしていると思います」
こうした動きは、当局にとっては狙いどおりとも言えるだろう。ひとたび摘発されれば、広告契約やタイアップは即座に停止され、築き上げてきたブランドイメージも一瞬で崩れ去る。宮崎氏の告発が「脱税インフルエンサーへの見せしめ」となり、業界全体に納税意識を浸透させたのであれば、その効果は摘発以上のものだ。
前出の会計士は、「脱税はリスクが高いだけで、まったく割に合わない」と断言する。
「架空の外注費は典型的な手口ですが、国税が真っ先に疑うポイントでもあります。個人の収入を無理に法人へ付け替えるのも、合理的な関連性が説明できなければアウト。海外口座に逃がせば安全だと安易に考える人もいますが、いまはCRSという国際的な情報交換制度があり、すぐに把握されます。仮想通貨も同様で、ブロックチェーンには履歴が永久に残る。税務署には専門部署もありますからね」
今後は、SNS運営などのプラットフォーム側から、国税当局へ直接情報提供が行われる流れも現実味を帯びてきているという。
「すでに海外の取引所や銀行、決済事業者とは連携が進んでいます。海外ではプラットフォームからの情報提供も始まっているので、日本でも時間の問題でしょう」
国税庁はすでに人気インフルエンサーたちに目を光らせている。華やかな世界が崩れ落ちる日も近いかもしれない。
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