朝食メニューは何が一番得なのか?
忙しい朝や、飲み会のシメなどで立ち食いそばを利用する人も多いだろう。
現在は「富士そば」や「ゆで太郎」のように24時間営業するチェーン店も多く、手軽にいつでもそばを食べることができるのは非常にありがたい。
特に私がよく食べるのは、早朝の時間帯だ。原稿を書き終えたあとのボロボロな状態で食べるそばは非常にしみる。だが、立ち食いそばチェーンで提供される食事は元々の価格設定が良心的であるためか、あまりメニュー自体のコスパが語られる印象はない。
私が大好きなのは、様々なチェーン店の朝定食を「コスパの観点」から分析する行為だ。飲食店にとってアイドルタイムになりがちな朝の時間は、来店の動機付けとするためにお得なメニューが多く提供される傾向がある。とりわけチェーン店では、既存の単品メニューを組み合わせたセットメニューが用意されていることが多い。
そこで、「仮想割引率」という指標を用いて、そのお得度を可視化してみたい。これは、そのメニューに含まれる品をすべて単品で注文した場合の合計金額と、実際の定食価格を比較し、どれだけお得になっているかを計算するというわけだ。
例えば、ある定食が500円で、その構成品の単品合計が800円だった場合、仮想割引率は37.5%となる。もちろん、単品価格はもともと割高に設定されているため、これが純粋な割引率とは言えないかもしれないが、どのチェーンがどこに力を入れているのか、その戦略の一端が見えてくるはずだ。
以前、牛丼チェーン3社で同様の調査を行った際は、すき家の「牛まぜのっけ朝食」が44.00%という割引率を記録した。果たして、立ち食いそばチェーンの勢力図はどのようになっているのだろうか。
ゆで太郎は「納豆セット」を狙え!
まずは、立ち食いそば業界の中では店舗数業界1位を誇る「ゆで太郎」の朝定食を見てみよう。
特筆すべきなのは、朝定食のメニューが非常に多いことだ。朝定食として用意されているメニューが7種類もあるため、そば単体で軽く済ませたい日から、ご飯ものと一緒にがっつり食べたい日までニーズに合わせて戦略を立てることができる。
※単体のかけそば・もりそばは共に430円※
・納豆セット 価格500円 単品価格810円……仮想割引率38.27%
・カレーセット 価格500円 単品価格800円……仮想割引率37.50%
・焼鯖炙りたらこごはんセット 価格550円 単品価格860円……仮想割引率36.05%
・朝そば(鬼おろし) 価格450円 単品価格700円……仮想割引率35.71%
・朝そば(玉子) 価格450円 単品価格680円……仮想割引率33.82%
・朝ら~(温もしくは冷) 価格450円 単品価格540円……仮想割引率16.67%
最もお得だったのは「納豆セット」で、割引率は38.27%だった。納豆セットはそば・納豆・ライス・生卵もしくは温泉卵の4点で構成されており、まさに朝定食といった陣立てだ。
ゆで太郎のそばはかけそば・もりそばともに430円で提供されている。それにたった70円プラスするだけで、納豆と卵、ライスが追加されるのだからお得感は強い。個人的には「カレーセット」に惹かれるが……とにかくお得度を求めるなら納豆セット一択だろう。
また、かき揚げそばに鬼おろしか玉子がトッピングされた「朝そば」は、かき揚げをわかめに変更することができる。ゆで太郎はわかめ・かき揚げともに単品価格は150円なので、わかめに変更しても損することはない。オペレーション的に手間のかかるトッピング変更をも受け付けていることから、ゆで太郎は朝の時間帯をかなり重視していることがうかがえる。
富士そばは「昭和通り店」が最強
続いて、首都圏ではおなじみのチェーン、「富士そば」を見てみよう。
富士そばは店舗ごとにメニューに独自性があり、共通して提供されているのはそばにきつね1枚と温泉卵がトッピングされた「朝そば」のみだ。その他のメニューについては店舗によって内容がまったく異なるため、計算できるのは朝そば1つだけになりそうだ。
※単体のかけそば・ざるそばは共に430円※
・朝そば(卵ときつね) 価格450円 単品価格580円……仮想割引率22.41%
「ゆで太郎」のメニューを見てしまうと、やや割引率が低いように感じるが、そもそも富士そばのかけそば・ざるそばは元々が430円なのだ。たったプラス20円するだけで、卵ときつねがトッピングされるのだから、富士そばサイドとしては朝そばは明確なサービスメニューといえるだろう。朝そばが頼める時間帯であれば、迷わず朝そばを頼むべきだといえる。
ちなみに、朝そばは温かいそばと冷たいそばが選択できるが、冷たいそばを頼んだ場合、つゆやトッピングも同じ皿で提供される。いわゆる「ぶっかけ」スタイルだ。このぶっかけスタイルで提供されるメニューの中では朝そばが最も安価なため、そういった意味でも希少性が高い。
余談になるが、私は店舗限定の朝定食の中では「富士そば 昭和通り店」の朝食セットが一番好きだ。
昭和通り店の朝食セットはかけそば・ざるそばに具なしの「ミニ玉子丼」がついたシュールなセットだ。味は「具のない親子丼」といった感じの甘めな味付けになっており、それ以上でもそれ以下でもない味なのだが、なぜか行くたびに注文してしまう。
そばいちの「明太子丼」は至高
次に、JR東日本クロスステーションが駅ナカで展開する「そばいち」を見てみよう。名前にピンと来なくても、首都圏に通勤している人であれば一度は目にしたことがあるはずだ。
そばいちでは4種類のセットが提供されている。ただし、半そば・半ライス・納豆・卵・たぬきで構成されている「納豆朝定食」と、半そば・半ライス・たぬき・卵で構成されている「朝定食」は、残念ながら半そばが単品提供されていないため、仮想割引率を算出することができなかった。
仮想割引率が計算できるのは、かけそば・ざるそばとミニ明太子丼がセットになった「ミニ明太子丼セット」と、かけそば・ぶっかけそばにきつねと温泉卵がトッピングされた「朝食そば」の2種類だ。
※単体のかけそばは430円※
・ミニ明太子丼セット 価格480円 単品価格700円……仮想割引率31.43%
・朝食そば 価格460円 単品価格595円……仮想割引率22.69%
ちなみに、スタンダードなかけそばの価格は430円。朝食メニューに限れば、わずかな追加料金で、かなりの追加トッピングが得られることになる。駅ナカという立地も考えれば、かなり良心的な価格設定だといっていいだろう。
明太子丼が提供されるのは、立ち食いそばチェーンとしては珍しい。単品だと270円するため頼むのは少しためらう。割引率だけではなくそういった意味でも、明太子丼セットは狙い目のメニューといえそうだ。
たった20円で具が豊富になる「箱根そば」
次に、小田急線沿線を中心に展開する「箱根そば」だ。箱根そばではそばの量が半分の「朝そばライト」というメニューも展開しているが、残念ながら半そばが単品提供されていないため、こちらは仮想割引率が計算できない。
そのため、計算できるのはかけそばにたぬき・きつねがトッピングされた「朝そば」と、かけそばにミニかき揚げと卵をトッピングした「朝ミニ天玉そば」の2つに絞られる。
※単体のかけそばは430円※
・朝ミニ天玉 価格500円 単品価格620円……仮想割引率19.35%
・朝そば(たぬき+きつね) 価格450円 単品価格485円……仮想割引率7.22%
どちらも元々の価格が安いだけに割引は控えめだが、そもそも箱根そばのかけそばは430円なのだ。仮想割引率の低い朝そばであっても、デフォルトのそばにたった20円プラスするだけで具が豪華になる点に注目すべきだろう。個人的な意見をいえば、つゆは箱根そばのものが最も好みだった。
今回の検証は以上となる。首都圏にお住まいの方は「立ち食いそばチェーンってもっとあるはずでは?」と疑問が湧くと思うが、実は立ち食いそばチェーンでは朝メニューが提供されていないことのほうが多いのだ。
たとえば、店舗数で富士そばの次点につける「小諸そば」や、平打ちの麺が楽しい「嵯峨谷」などは、朝の時間帯でもレギュラーメニューが提供されている。中目黒や赤坂に展開する「吉そば」でも、朝メニューは確認できなかった。
ではなぜ、なぜ立ち食いそばチェーンの朝食は、牛丼チェーンほど充実していないのだろうか。そして、なぜゆで太郎の朝メニューだけが突出しているのか。その背景には、各チェーンが主戦場とする「立地」と「競合」の違いが大きく影響していると考えられる。
立ち食いそばで「ビジネスチャンス」を
富士そば、そばいち、箱根そばといったチェーンは、その多くが駅ナカ・駅前に店舗を構えている。彼らが求めるのは安さやお得感以上に、改札を出てから電車に乗るまでの短い時間で食事を済ませられる「速さ」と「利便性」である。
つまり、立地そのものが最大の強みであり、わざわざ大幅な割引をして集客する必要性が薄いのだ。オペレーションが複雑になるセットメニューを増やすよりも、定番の「かけ」や「天ぷらそば」をいかに速く提供するかが重要になると思われる。
一方、ゆで太郎は駅前だけでなく、郊外のロードサイドにも数多く出店している。こうした店舗の競合は、他の立ち食いそば店ではなく、駐車場を備えた牛丼チェーンやファミリーレストラン、ラーメン店といった異業種になる。
これらのチェーンは、ゆったりとした空間で多様な朝食メニューを提供している。その中で顧客に選ばれるために、価格やメニューの魅力で勝負する必要がある。ゆで太郎の充実した朝食メニューと高い割引率は、こうした競合と戦い抜くための戦略なのではないだろうか。
古代中国の兵法書「韓非子」には、「聖人見微以知萌、見端以知末」(聖人は微を見て以て萌を知り、端を見て以て末を知る)という一説がある。平たくいえば、優れた人物は微細な事柄から全体を見通せる、ということだ。コスパの観点からメニューを観察することで、各企業の戦略、ひいては新しいビジネスチャンスをも見出せるかもしれない。
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