4年に一度、日本のアイスホッケーが地上波テレビ放送される時期がやってきた。
ソチ、平昌、北京に続き、スマイルジャパン(アイスホッケー女子日本代表)がミラノ・コルティナ大会でオリンピックに出場する。日本のアイスホッケーの将来がここにはかかっている。
私も4年ごとにこの場で寄稿させていただいているが、今回もスマイルジャパンの戦いの見どころを紹介したい。
(*日本のアイスホッケーの盛衰とオリンピックについては、平昌五輪の時の記事 https://gendai.media/articles/-/54416 を参照)。
北京五輪後の世代交代
前回北京大会の復習を少しだけすると、「史上初の決勝トーナメント進出」という成果は手にしたが、順位は6位で前々回平昌大会と同じだった。
北京大会から参加チームが増えたのに伴い、決勝トーナメントに出られるチームの数も6から8に増えており、進出は日本の実力からすれば順当で、その1回戦で対戦したフィンランド(銅メダル獲得)に1対7と歯が立たなかった。簡単にメダルが目標などと言えないことを思い知らされた。
フィンランド戦の中継を見ていた時のことはよく覚えているが、ほとんどパックを支配できず、次々と点を取られていった。選手たちも、五輪の舞台であらわになった力の差を感じて帰国したことが、後のインタビューでも語られている。
スマイルジャパンはソチ大会で長野大会以来の五輪出場を果たしてから、3大会連続でほぼ同じ主力メンバーで戦ってきたが、北京大会が終わって多くの選手が引退し、一気に世代交代が図られた。20歳前後の選手が半数近くを占め、五輪と同じレベルの世界選手権では、2023年8位、2024年9位とだんだん成績を下げ、新しいチーム作りがうまくいっていないことが心配された。
世界ランクが下がったためミラノ・コルティナ大会の出場権が自動的には得られず、スマイルジャパンは昨年2025年2月に苫小牧で開かれた世界最終予選に臨むことになった。
ここで若手の選手たちが、一気にその才能を開花させた。得点力不足が指摘されてきたチームの弱点を克服するかのように、フランス、ポーランド、中国のライバルたちに対して総得点17、総失点2という圧倒的な勝利で五輪の切符を手に入れた。
会場のnepiaアイスアリーナは、2017年にも五輪の最終予選が開かれ、満員の観衆の前の大熱戦で平昌行きを決めたスマイルジャパンの「聖地」で、今回はその時観客席にいて応援していた若手たちも選手としてプレーした。私も会場で試合を見たが、圧勝の試合が多かったので観客大興奮というより、アリーナには余裕の雰囲気さえ漂っていた。
その余勢をかってミラノに乗り込むスマイルジャパンは、前回、前々回の6位を超え、ミラノでメダルを目指すことができるだろうか?
メダル獲得へ、負けられないスウェーデン戦
大会のフォーマットは北京大会と同じで、参加10チームのうち、世界ランク上位の5チームがグループA、下位の5チームがグループBという変則的なグループリーグが組まれている。現在世界ランク7位の日本はグループBで、3位までに入れば決勝トーナメントに進出する(グループAの5チームは全チーム進出)。
グループBでランクが日本より上位なのは6位のスウェーデンだけであり、実力通りに戦えば決勝トーナメントに進める。
しかしその後のことを考えれば、グループB首位で決勝トーナメントに臨まなければならない。なぜならば、女子アイスホッケーの世界では、カナダとアメリカの実力が抜きんでており、日本がこの2ヵ国のどちらかと1回戦で当たってしまえば勝ち目はほとんどない。なんとしてもグループA3位のチームと対戦できるグループB首位の座が必要なのである。
北京大会ではスマイルジャパンは見事にグループBを首位で抜け、決勝トーナメント1回戦では北米の両強豪チームを避けてフィンランドと対戦できた。それでも相手は強かったが、今回も、少なくともそこまでたどり着き、決勝トーナメント1回戦を勝ち抜いてベスト4に進出することが目標だ。ソチ大会、北京大会に続いて指揮を執る飯塚監督もそう発言している。その先に、銅メダルが見えてくる。
昨年2月の苫小牧での最終予選のあと、4月にチェコで開かれた世界選手権で、今回グループBのライバルとなるスウェーデンと日本は対戦しており、0対2で完封負けしている。試合映像を見ると惜しいシーンもあったが、シュートの本数でも17本対26本と上回られていた。
スウェーデンは北京大会でもグループBの日本のライバルとなり、その時はスマイルジャパンが勝った。しかしその後強化をはかって世界選手権などでも好成績を上げている。しかしスウェーデンに勝たなければグループBの首位にはなれない。ミラノでは、スマイルジャパンの若手たちが世界選手権の後の1年近くで、さらに進化していると期待しよう。
試合日程は、開会式前の2月6日(金)にフランス<世界ランク14位>戦(NHK総合)、7日(土)にドイツ<同8位>戦(NHK総合)、9日(月)にイタリア<同17位>戦(テレビ東京系列とNHKBS)、そして10日(火)に運命のスウェーデン<同6位>戦(フジテレビ系列)で、開始時間はいずれも日本時間夜8時10分のゴールデンタイムとなっている。グループリーグすべての試合が地上波放送されるのは、これまでの五輪でもなかったことだ。これに続く決勝トーナメントは13日(火)または14日(水)の深夜に予定されている。
スマイルジャパンのプランとしては、初戦のそれも最初の5分を全力で滑り出し、ランク下位のフランス(日本も参加した最終予選で2位となったが、制裁措置を受けているロシアの代替として出場)を破った後、実力的に近いドイツ(昨年の世界選手権では1対0の辛勝)に勝ち、地元イタリア戦では完全アウェイが予想されるが力の差で勝ち、3勝0敗同士でスウェーデンとメダルへの道を賭けて決戦、という形で進めたいだろう。
日本代表のポイントゲッター
今回選ばれた23人は、北京大会後に引退せずに残ったベテランと若手が混じりあい、キャプテンの小池詩織選手が「若手は個性があり引出しを持っている」と言うように、その良さを前面に出してベテランがサポートするようなチームになっている。
全選手がそれぞれ面白く有力選手だが、個人的意見で注目選手をあげるならば、まずはそのキャプテン、DF2小池選手(32)だ。ソチ大会以来堂々たる4回目の五輪出場のオリンピアンだが、北京大会まではチームをまとめるというより個性が光る選手だった。
北京大会では燃え尽きて、同世代の選手たちとともに引退も考えたが、キャプテンをあらわす“C”マークを大澤ちほ前キャプテン(今回は中継の解説を担当)から受けついだ。若手選手が多く入ってきて世代ギャップに悩んだこともあるようだが、最終予選を現地で見た感触では、今ではチームを見事にまとめあげている。
プレースタイルは、ゴールから遠い位置からのスラップショットで得点するのがDFながら得意な選手で、平昌、北京と五輪のたびにゴールをあげている。ミラノでも「五輪ポイントゲッター」の本領を発揮してくれるだろう。なお、仲間を助けて相手選手との小突き合いなどエキサイトすることもときにある(すぐに冷静さを取り戻すが)熱いハートも特徴のひとつだ。
若手選手の注目株筆頭になっているのが、FW13輪島夢叶選手(23)だ。北京五輪でも代表入りの可能性があったが、手首の手術のためチャンスを逸した。しかし昨年の最終予選で3試合で5ゴールと大爆発してゴールハンターの地位を確立した。
インタビューなどを聞いていると、天才肌というより挫折も乗り越えて成長した選手で、パスを回すタイプからシュート優先に切り替えて開花したという。その得点感覚に注目だ。
さらに攻撃の中心となるのはFW11志賀紅音選手(24)だろう。最終予選では2ゴール4アシスト、あわせて6ポイントをあげた。アイスホッケーではゴールとアシストを合計した指標であるポイントが重視され、3試合で6ポイントというのは輪島選手に劣らない大活躍だった。また、プラスマイナス(+/-)という指標があり、自分がリンク上にいる間のチームの得点と失点の差だが、これが最終予選を通してプラス10という大きな値で、攻撃と守備の両面で貢献したことがわかる。
志賀選手は天才タイプで、若手ホープだった北京大会以来2回目の五輪出場となる。前回は5試合で2ゴール1アシストの3ポイントだった。今回はその倍のポイントはあげてくれることだろう。
これら2人はFWの中で、ウイングと呼ばれるスコアラーのポジションだが、センターと呼ばれるチャンスメイクを得意とする(もちろん自ら得点もするが)ポジションではFW18前田涼風選手(29)に注目したい。
平昌、北京大会に続いて3回目の選出で、データを見てみると両大会の出場10試合で0ポイントだったことが逆に驚きだ。それでも常に起用されてきたのは、目立たないが、パックを持つ相手に執拗にチェックしたり、危険を察知して先回りするなどの献身的なプレーがずば抜けているからで、組織になくてはならない人材というタイプだ。
近年ではポイントもあげるようになってきており、昨年の最終予選で3ポイント、世界選手権でも3ポイントをあげている。ミラノでも玄人好みのプレーに加えて得点にも直接からむ大黒柱になることが期待される。センターというポジションならではの、フェイスオフで味方にパックを供給するプレー(試合の勝ち負けに非常に大きく影響する)にも注目だ。
同じセンターでは、北京大会後に台頭してきたFW19伊藤麻琴選手(21)も頼もしい。169センチの大型FWで、欧米の選手にも引けを取らずにリンクに君臨する。チャンスメイクに加えてゴールもとれる選手へと成長し、苫小牧の最終予選で2ゴール3アシスト、プラスマイナス9と大活躍した。対戦相手のレベルが高い世界選手権でも3アシストをあげ、ステディな活躍を続けている。
席を立つ暇はない!
DFに再び話を戻すと、まだ19歳の超若手、DF6佐藤虹羽選手も注目だ。
10代と言っても将来のために代表入りしたなどということではなく、北京五輪直後の世界選手権から飯塚監督に重用されており、昨年の世界選手権でも、60分の試合時間のうち20分以上のアイスタイム(氷上でプレーする時間、DFなら20分を超えれば主力以上)を稼ぎ、完全にレギュラーとなっている。小池選手以上に攻撃参加の意識が高く、常にゴールを狙っているスナイパーぶりに目が離せない。
他にも注目したい選手は目白押しで、例えば、北京、平昌でも主力として活躍してきたDF4人里亜矢可=旧姓床亜矢可=選手(31)、FW14床秦留可選手(28)の姉妹のANA社員選手は、今回も攻守の要になるだろう。
床秦留可選手は昨シーズンをケガで休んでいたため、最終予選と世界選手権には出られなかった。苫小牧の会場では私服姿で五輪出場を仲間と喜び合っていた姿が見られたが、スウェーデン戦など昨年の世界選手権にはいなかったため、そこから比較してチームの戦力に上積みが図られているとも言える。センターもウイングもできるタイプで、本人は連盟の公式SNSでは「チャンスメイク」に注目してほしいと語っているが、ゴールも取れる選手だ。北京大会での鮮やかな3ゴール(3アシスト)の大活躍は今も記憶に新しい。
飯塚監督が重視するゴールキーパーのポジションを守ることになるGK20増原海夕選手(24)は、北京大会にも選ばれていたが、レギュラーとなるのは今大会が初めてで満を持している。連盟の公式SNSには「スケーティングを見てほしい」と書いている。アイスホッケーの選手の中で一番移動距離が少なそうなGKが実は一番スケーティングがうまいとはよく言われるが、ぜひ注目して見てみたい。
今大会のスマイルジャパンは、他にもいくらでも有望選手を紹介できるチームだ。試合では、フォワード、ディフェンスそれぞれ3~4組ずつの選手たちが40秒~50秒ごとにぐるぐる交代して戦うが、力が落ちる選手がいないため、誰が氷上に出ていようと得点のチャンスが期待できる。正味20分(それが3つで合計60分)のピリオドが続くあいだ、席を立つ暇はなさそうだ。
平昌大会の前には東京と長野で壮行試合があったが、コロナ禍の北京大会に続き、今回も国内では直前の国際試合はなかった。その代わり、先月20日からドイツで合宿しているスマイルジャパンは、オーストリア(五輪は不出場)、ドイツとテストマッチを行い、それぞれ5対1、3対2で勝利したというニュースが入ってきた。ドイツは本番のグループリーグで対戦するだけに双方手探りの試合だったと思われるが、勝ったことは安心材料だ。この試合でFW11志賀紅音選手、FW13輪島夢叶選手の両ゴールゲッターがシュートを決めたことも心強い。
日本のアイスホッケーがオリンピックでメダルをとるという史上初の快挙、そのハードルは高いかもしれないが、期待するのは自由だろう。夢の実現を心待ちにしながら、最高に「見て面白い」このスポーツをオリンピックの舞台で楽しんでいただければと思う。
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最後に男子のアイスホッケー競技について、どうしてもお伝えしたいことがある。
残念ながら今回も男子日本代表は最終予選で善戦むなしく敗れ出場はかなわないが、今大会では世界最高峰のプロリーグ、北米NHLの選手たちが参加する。
彼らがオリンピックに参加したのは1998年の長野大会が最初で、ウェイン・グレツキー選手(カナダ)、パべル・ブレ選手(ロシア)など、目もくらむようなスーパースターたちが会場のビッグハットでプレーした。その後の大会でもしばらく続いていたNHL選手の参加が、平昌、北京の二大会では途切れていた。極東の開催ということでシーズン真っただ中のNHLを中断して移動してくるのは大変ということだったかもしれない。だから、本当の世界最高峰の国別対抗戦が見られるのは2014年のソチ大会以来となる。
ミラノ・コルティナ大会は、国際的にはこの点が最大の注目で、スーパースターたちの激突に世界が興奮することは間違いない。トランプ大統領さえテレビで見ることは確実で、必ずコメントするだろう。
男子の試合が始まるのは2月11日からで、一部の試合は日本でも放送されるはずだ(決勝は2月22日夜にNHK総合とBS4Kで放送されると発表されている)。世界最高の選手たちがプライドを賭けて戦うアイスホッケーは想像を絶する面白さだ。
スマイルジャパンはもちろん、男子アイスホッケーもぜひ見ていただきたいと心から願っている。