10年から15年は自覚症状なく放置
人口減少がすすむ日本で、糖尿病の患者数は年々増加しており、2024年には1080万人がいると推計されている。まさに国民病の代表格となっている。肥満による欧米タイプとは違い、高齢者の割合が高くなっていることが理由のひとつだろう。
だが実情はそれだけではなさそうだ。というのも、30代、40代の若い世代でも1000万人ほどの「予備軍」がおり、まったく自覚症状のないまま、発症までの10年から15年を「放置される時間」として過ごしているからだ。これが数字を押し上げている背景とみられている。
両者をあわせれば「日本人の6人に1人」が糖尿病、もしくは「その一歩手前の状態」にある。
直近の検診結果で2項目をチェック
糖尿病には大きく2つある。坂本昌也著『世界中の研究結果を調べてわかった! 糖尿病改善の最新ルール』(あさ出版)は、生活習慣の乱れが主要因といわれる「2型糖尿病」、なかでも自覚症状があらわれないこの「予備軍」にむけて呼びかけている。
いま30代のひとが35年後に発症する確率は「3人に1人」と推測する報告もある。
忙しい毎日での偏った食事や運動不足、もしくは寝不足。ときに仕事や勉強での疲れにめがけてエナジードリンクを決めこむ、という日常に思い当たることがあれば、ただちに「血液検査」をする、もしくは直近の健診結果で、血糖値についてのこの2つの項目を確認していただきたい。
・「HbA1c(ヘモグロビン)」が「6.0~6.4%」であるか
・「空腹時血糖値」が「110~125mg/dL」であるか
あてはまれば「境界型」、つまり発症まで一歩手前にいる可能性がかなり高い。
ただし、ここにも難点がある。医師としても「糖尿病とは診断できないが否定もできない数値」であるためだ。外来診療で医師が患者ひとりあたりに使える時間はせいぜい数分程度。「血糖値が高めですね」、「運動を頑張りましょう」、という指導でおわるケースが多い。結果、糖尿病の患者をふやしつづけているのである。
血糖値だけ見ても仕方がない
専門医である著者の坂本医師は、この現状にまず警鐘を鳴らしている。
「境界型の人たちは本来なら対策を練るべき大事な時期にもかかわらず、責任を持って継続的に診る医師が極めて少ないのが現状なのです」
このような「医療現場における治療の先送り」は「クリニカルイナーシャ」(clinical inertia)と呼ばれ、とくに専門医のあいだでは、糖尿病の発症を抑え込むためのつぎなる対処策として積極的な働きかけがはじまっている。じっさいアメリカではすでに境界型が「重要な介入ポイント」とみられている。
くわえて「血糖値だけに振り回されない視点」が必要である。糖尿病は「血管へのダメージ」で発症するため「血圧」と「脂質(コレステロール)」の数値もあわせてみていくことが重要なのだ。「本当に恐ろしいのは、極端に悪い数値よりも、軽度の異常が長時間続くこと」だと著者は警告をする。
「ちょっと血圧が高い」「ちょっと悪玉(LDL)コレステロールが高い」、と見過ごしているうちに境界型は発症にむかって進んでいるからである。
だが、当人の意識変革がおきないかぎりは何の効力もない。「境界型の怖さは、この段階では自覚症状がほとんどない」からだ。若い「予備軍」に著者が呼びかけるのはそのためである。
糖尿病は、いったんかかったら寛解する見込みはほぼゼロにちかい。のどが渇き、甘いものが無性に欲しくなり、そして倦怠感とともに体重が低下する、という症状がでたときにはすでに、血中糖度の調整役であるインスリンを分泌するすい臓β細胞の半分は破壊されている。この細胞が再生することは「基本的にない」。
なにより糖尿病が怖い病気、とよばれるのは、糖尿病の症状がつらいのではなく、糖尿病によって身体のすみずみにまではりめぐらされた「血管へのダメージ」がひきおこす「合併症」のためである。
拍子抜けするけれど
脳、心臓や腎臓といった臓器、そして神経すべては「血管」とからみあって機能しているのだから、どこかでその経路がふさがれば、脳梗塞、心筋梗塞や心不全などによる突然死、人工透析が必要となる糖尿病性腎症や、血流や末梢神経の障害のせいで栄養がとどかなくなった足の切断(壊疽)、または失明といった日常生活の変転へとつながる。
そうなれば経済的にのしかかる負担も相当となり、準備した老後資金もおぼつかなくなる可能性もある。2型糖尿病にかかる医療費のうち「約8割が合併症を発症してからの治療費」、という調査結果もある。
こういった合併症については「予備軍」よりも、発症していま治療中にある、または家族、友人がそうである、と不安に駆られるひとがなにより知りたいことだろう。
「現在の医療では糖尿病は完全に治せない」。ゆえに、国内外での研究はアップデートを続けている。著者は、治療中のひとと予備軍の両者へ「まずは知ること」を推奨する。糖尿病の仕組みから合併症について、早期発見につながる詳しい検査方法と予防のための生活習慣、そして発症してからの薬物療法など。
「この人が元気に長く暮らせるにはどうしたらいいか」の視点で患者との対話をかさねている著者が、「世界中の最新のエビデンス」をもとに、糖尿病についての最前線をとりこんでいるのが坂本昌也著『世界中の研究結果を調べてわかった! 糖尿病改善の最新ルール』(あさ出版)である。
糖尿病改善の最新ルールのひとつとしてあげているのが「水分摂取」。わかりやすい目安として、水分を「いまより500ml多く飲む」ことである。
いささか拍子抜けする治療策だが「最新のアメリカ糖尿病学会(ADA)のガイドラインでも、水分補給は単なる習慣ではなく『治療戦略のひとつ』として位置づけられており、その背景には複数の科学的な理由」があるのだという。科学的根拠については本書をめくられたい。
長年にわたる生活習慣病をとりもどすには、やはり日々の生活のなかで「ひとつでも実践できそうなこと」からはじめていくしかない。「完璧でなくても意味がある」と、背中をおしてくれる一冊だ。