中国の影響力を削ぎたい
企業の脱中国が加速している。背景の一つにあるのは、不動産バブル崩壊に端を発する深刻な消費低迷だ。かつての成長市場は、いまや価格競争が激化し収益確保が困難な場へと変質している。
さらに、当局による規制リスクとも常に隣り合わせだ。反スパイ法の施行で企業、従業員への監督が強化され、不透明感は一段と増している。
こうした一連のチャイナリスクに対応するために事業の縮小、撤退を検討する企業は増加傾向だ。
前編記事〈もはや中国向けビジネスはカネにならない…有名企業の大量撤退が始まった「リスク大国の現状」〉では、その詳細を解説している。
主要な企業が脱中国に取り組む要因は、チャイナリスクだけではない。米国の政策方針の転換のインパクトも大きい。
ドナルド・トランプ流のモンロー主義、いわゆる“ドンロー主義”がまさにそれにあたる。
もともとモンロー主義とは、米国は欧州からの干渉を排除し、西半球を支配する外交方針を言う。トランプ大統領はこの考えを基礎に、ディール=取引と軍事力を組み合わせ、エネルギー資源やレアアースなどの鉱物資源への影響力を強める狙いがある。
トランプ政権によるベネズエラ攻撃は、中南米地域での中国の影響力拡大を阻止する狙いもあったとみられる。
トランプ大統領の圧力
この攻撃後、トランプ大統領は石油メジャーに対して最低1000億ドルの投資を求めた。
今後、中国から手を引き、米国が影響力を拡大する地域にヒト、モノ、カネを再配分するよう、米国企業などに強い要求を行う可能性は高い。トランプ氏は2019年に、米国企業は米国内への生産移管を含め、中国の代替先を探さねばならないとSNSに投稿している。
ドンロー主義に基づく、米国の外交・安保政策が進むとともに、台湾問題、鉱物資源などを巡る米中対立の先鋭化は避けられそうにない。
対中輸出が多いエヌビディアやAMDのケースは象徴的だ。米国政府は海外製造の先端チップを検査のために一度米国へ持ち込ませることで、実質的な“上納金”として25%の関税を徴収する方針を強めている。今後は対象分野が拡大する可能性もある。
そうした展開に対応し収益性を高めるため、価格競争が深刻な中国事業の縮小や撤退を目指す多国籍企業は増えるだろう。
同じことは中国企業にも当てはまる。
アパレルや家電、スマホ、EVに加え、ソフトウェア分野でも、政府の規制を逃れるため中国企業の海外進出は急加速している。1月、TikTokはミニドラマ(微短劇)専用アプリ、“パインドラマ”をリリースした。これは、中国のソフトパワーの輸出とも解釈できる。今後、TikTokなど中国製アルゴリズムを巡る米中対立も激化しそうだ。
マレーシアの重要性
現在、多国籍企業の中国事業は二極化している。グーグルやエスティーローダーは、開発拠点の移転や事業の縮小を進めつつも、中低価格帯の製品やはん用型の製品で一定の中国需要を取り込む。
一方で、高付加価値型の商品や先端分野では脱中国を加速させる企業が増加中だ。その上で、彼らは個人消費が相対的に底堅い米国、中長期的な成長が期待できるインドやアセアン地域の新興国で事業運営体制を拡充している。
チャイナリスクに対応するため、対中依存度の引き下げや撤退など脱中国体制を整備する企業は今後さらに増えるだろう。
世界の工場としての中国の地位が低下・変質する中、米国企業はソフトウェア開発を自国で行う体制を拡張するはずだ。さらに、インドやベトナムで、受託製造企業と協働してハードウェアを製造する企業は加速度的に増えている。半導体の製造能力で考えると、マレーシアの重要性も高まるだろう。
気になるのは、中国事業を見直す企業の製造拠点が、わが国以外の地域に向かっていることである。
これは、わが国にとっても重大な変化と考えるべきだ。
「世界の下請け」は避けるべき
わが国の企業の強みはモノづくりにある。それを磨くことで、米国企業などの最新ソフトウェアの実用化を支える画期的なハードウェアを創出できれば、競争力が高まるチャンスはある。
そのためには、過去の延長線のような発想ではなく、果敢に新しいモノを創出し、世界の企業にマーケティング攻勢をかける必要がある。
わが国の企業にとって、脱中国は喫緊の課題だ。
アセアン地域に拠点を設けて米国企業などの需要を取り込む必要性も高まる。しかし、その発想だけでは、わが国の企業はますます世界の下請け的な存在になってしまうかもしれない。
脱中国によって捻出したヒト、モノ、カネを、先端分野に配分し新たな需要創出に取り組むことこそが、世界経済の新時代を乗り越え、長期的な成長を目指すために重要になるはずだ。
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