「焼肉店」がかつてないほどの苦境に追い込まれている。東京商工リサーチが1月7日に報じたところによれば、2025年の焼肉店の倒産は過去最多となる59件に達し、これまで最多だった2024年の45件をさらに上回る形となった。
円安を背景にした輸入牛肉の価格高騰を中心に、焼肉とは切っても切り離せない関係のコメの値上がり、そして外食業界全体が頭を抱える光熱費や人件費の高止まり……。様々な要因が襲いかかり、かと言って安易に値上げをすれば客離れ必至ということで、昔ながらの小規模経営店はバタバタと閉店を余儀なくされている。
経営状況が厳しいのは、大手チェーンも同じ。コロナ禍以降、上手く環境に適応し、売り上げを飛躍的に伸ばすチェーンがある一方、旧来の業態に固執し、順応ができなかったばかりに低迷するチェーンも少なくない。かつてバイキング形式の焼肉食べ放題のパイオニアとして一世を風靡した「すたみな太郎」もそのひとつだ。
2026年を迎えても閉店が続くが…
コロナ禍前の2019年初頭には、「バイキングレストラン」という業態では国内最多の142店舗を有していた「すたみな太郎」(運営元は1978年に創業した飲食店・宴会場を運営する株式会社江戸一)。郊外ロードサイドを中心に大型店舗を展し、家族連れや学生ら幅広い客層向けに、焼肉を中心とした豊富で多彩なジャンルのメニューを低価格・食べ放題で提供してきたチェーン店だ。
ところが、コロナ収束後、競合他社が次々と業績を回復させていった一方、同チェーンは、ビュッフェ形式の会食自粛要請の痛手が深かったためか、再開後もうまく軌道に乗せられず、店舗数を減らしてきた。すでに同社の中核ブランドである、すたみな太郎の店舗数は、ピーク期の約3分の1、43店舗にまで縮小している。
悲しいかな、すたみな太郎の「閉店ラッシュ」の流れは2026年を迎えても変わらない様子だ。1月12日に須坂インター店(長野)、25日に守谷店(茨城)、31日にガーデン前橋店(群馬)、2月8日に浜松西インター店(静岡)と、ほぼ1週間おきに、日本のどこかのすたみな太郎が閉店している計算になる。
念のため補足をするならば、ここ数年の閉店にも大きく2つの種類がある。ひとつは完全閉店、もうひとつは“スクラップ&ビルド”、すなわち、一度閉店した上でワンランク上の業態への転換するケースだ。
実際、すたみな太郎は店舗網を再編中で、通常より内装を洗練させ、メニューを高級・充実化させた「すたみな太郎PREMIUM BUFFET」や、ロードサイド店とは一線を画し、駅チカなど好アクセスをウリにした次世代型店舗「すたみな太郎NEXT」へのリニューアルを積極的に行っている。
意外にも「安かろう悪かろう」じゃなかった
確かに従来の路線から一転、高付加価値路線へと舵を切る戦略自体は、これまで低価格をウリにしてきたチェーン店にこそ、今まさに求められていることに間違いはないだろう。事実、筆者は“プレミアム太郎”について、一定の評価をしている。
まず、価格戦略だが、同チェーンの価格は店舗によって異なるが、おおよそ通常のすたみな太郎が平日1978円、土日2748円を基準とするのに対し、プレミアム(90分)は平日2178円、土日3278円となっている。ここでポイントとなるのは、値上げをしても客離れのリスクが比較的低い「立地別価格」を導入している点だ。
たとえば値上げをしても客数に変化が起きにくい都市部や観光地では価格を高めに設定し、逆に郊外では価格を抑えるという、各々の地域の需要と競争の実情に応じたプライシングだ。マクドナルドやスターバックスも立地別価格を導入しているが、すたみな太郎も上手く価格設定を行っている。
運営戦略についても、一般的にすたみな太郎に対して「安かろう悪かろう」のイメージが根強いが、実態は少し違う。外食チェーンの多くが《効率》を追求するべく、セントラルキッチン方式で仕入れの集約と一括調理を行うのに対して、すたみな太郎は《効果》を優先している。
具体的には、肉はブロックで調達し、各店舗の厨房で加工。サーモンやマグロなどの寿司ネタも同様に店内で調理しており、「鮮度へのこだわり」や「手づくり感の創出」を実践している。丸亀製麺やスシロー、ロイヤルホストなどのチェーン店は消費者からも「品質がいい」と考えられているが、彼らと同様すたみな太郎も、調理コストは上がっても店内加工にこだわっているのだ。
冷静に考えれば、すたみな太郎は“戦略そのもの”は十分良いチェーン店だとわかる。それでも業績がなかなか上向かない理由は何なのか――。その原因は、すたみな太郎を特徴づける「バイキング形式」そのものに他ならない。
つづく【後編記事】『なぜすたみな太郎は「焼肉きんぐに駆逐された」のか…バイキングは時代遅れ?業界も客も見捨てた残酷な理由』では、食べ放題のスタイルをめぐる業界の“明暗”について解説していく。