いまから約138億年前、ビッグバン直後の宇宙には、光を放つ星も銀河もまだ存在せず、ただ暗闇が広がる「暗黒時代」が続いていました。やがて、最初の星や銀河が生まれ、「宇宙の夜明け」が訪れます。そこから数億年かけて、宇宙は少しずつ光で満たされていきました。
では、この決定的な転換は、いつ、どのように起こったのでしょうか。
じつは、宇宙暗黒時代の記憶を私たちに届けてくれる微弱な電波があります。「21cm線」と呼ばれる中性水素からの微弱な電波です。
古代から現代にわたる人類の宇宙観から、天文学・宇宙研究の最前線までの幅広いテーマを、21cm線によって解明された最新の成果とともにご紹介するのが、『宇宙暗黒時代の夜明け 21cm線電波で迫る、宇宙138億年史』(講談社・ブルーバックス)。本記事シリーズでは、この『宇宙暗黒時代の夜明け』からの興味深いトピックをご紹介していきます。
今回は、前回の記事で出てきた、種族IIIや種族Iなど、「星の種族」。どのように分類されているのか、ご説明していきます。
*本記事は、『宇宙暗黒時代の夜明け 21cm線電波で迫る、宇宙0138億年史』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
新しい星と古い星
この宇宙最初の星、ファーストスターは、天文学では「ファーストスター」という呼び方よりも「種族IIIの星(Population III、Pop. III)」という専門用語がよく使われています。
この用語は1970年代後半から1980年代前半に登場し、現在の論文では標準的に使われています。一方、太陽のような現代の星は「種族Iの星(Population I、Pop.I)」と呼ばれています。
それでは、「種族Iの星」と「種族IIIの星」は何が違うのでしょうか。
最大の違いは「星の組成」にあります。ファーストスター(種族IIIの星)ができた頃の宇宙には、炭素や酸素などの重い元素(重元素、重金属とも呼ばれる)は存在していませんでした。したがって、種族IIIの星は、ビッグバン時に作られた水素(約75%)とヘリウム(約25%)だけで構成されていました。
一方、太陽をはじめとする現在の多くの星(種族Iの星)は、星の世代交代、つまり「星が生まれては死ぬ」というサイクルを繰り返す中で、重元素を豊富に含むようになっています。
重元素は星の内部で起こる核融合反応によって作られ、星の進化の最終段階で起こる超新星爆発によって星の内部から宇宙空間にまき散らされます。宇宙空間に放出された重元素を材料に次の世代の星が作られるため、新しい星には自然と重元素が含まれることになります。
さて、種族Iと種族IIIの間には「種族IIの星(Population II、Pop. II)」も存在します。
古いけれど、種族IIIの星よりは重元素が多い星たち
これは「わずかに重元素を含んでいるが、その量は種族Iの星よりはるかに少ない(1/10~1/1000程度)」という特徴を持っています。種族IIの星は、種族IIIの星の形成や初期宇宙の環境を探るうえで重要なヒントを与えてくれる存在です。
●星の種族
アメリカの天文学者バーデ(W. Baade)が1944年に提唱した分類
項目種族I
Population I種族II
Population II種族III
Population III特徴若い星、新しい世代古い星、初期の世代宇宙最初の星(理論上)金属量多い(太陽程度かそれ以上)少ない(太陽の1/10〜 1/1000 以下)ほぼゼロ(水素・ヘリウムのみ)年齢数百万〜数十億年100億年以上宇宙誕生直後(約130億年前)分布場所銀河円盤(渦巻腕)ハロー、バルジ、球状星団初期宇宙代表例太陽、O型・B型星、散開星団球状星団の星直接観測なし。ブラックホールの種になった可能性
ファーストスター(種族IIIの星)が重元素を含まないという事実は、星の性質に大きく影響します。星が誕生するには「ガスの冷却」が不可欠です。ガスが冷却されて温度が下がると、圧力が弱まり、自身の重力でガスが収縮して星を作ることができます。ファーストスターの場合、冷却の役割を果たすのは水素分子だけでした。しかし、現代の星(種族Iの星)は重元素を冷却材として利用できます。
ここが重要なポイントですが、重元素によるガスの冷却は、水素分子による冷却と比べて圧倒的に冷却効率が高いです。ガスがよく冷えると小さなガスの塊に分裂しやすくなり、そのため比較的軽い星が数多く誕生します。種族Iの星には太陽の質量の1/10から数倍程度の軽い星が多いのはこのためです。
謎だらけのファーストスター…活発な議論が続く
一方、ファーストスターの場合は、水素分子による冷却が効率的でないためガスが冷えにくく、分裂もしにくいという特徴があります。そのため、大きなガスの塊がそのまま収縮し、巨大な星が生まれる傾向が強くなります。環境によっては、太陽の10万倍もの質量を持つファーストスターが形成された可能性も考えられています。
ただし、近年の研究では、ガスが分裂して太陽質量程度の軽いファーストスターもできる可能性が示唆されています。ファーストスターの質量や性質については、今もなお活発な議論が続いており、研究が進んでいる分野です。
質量については、「星の最期」の迎え方にも違いが生じるので、ファーストスターがどのような最後を迎えるのかについても関係してきます。筆者の『宇宙暗黒時代の夜明け』では「ファーストスターの寿命の迎え方」について、質量ごとに検証していますので、ぜひお読みになってみてください。
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研究が進むファーストスターと初期宇宙。続いては、そんな研究の中から、最近の発見について、ご紹介しましょう。
宇宙暗黒時代の夜明け 21cm線電波で迫る、宇宙138億年史
誕生初期、暗黒だった宇宙の記憶を、現代の私たちに届けてくれる微弱な電波21センチ線。可視光では見えない宇宙の深淵を、この21センチ線という窓から覗くことができるのです。21センチ線を用いた観測によって宇宙の黎明を探る研究を、最新の成果とともに紹介。
夜空を見上げる視線が変わる、最前線の宇宙物語。