ウナギの貿易規制案が話題に
食料品の高騰が止まぬ今、先日、日本の食文化を揺るがしかねない事態が起こりました。それは、今年11月に開催されたワシントン条約の会議において、ニホンウナギを含むウナギ全種の国際取引を規制対象(附属書II)にするか否かの採決が行われたこと。結果は否決となりましたが、これを一安心と考えるのはあまりに安易であり、今後いつ状況が変わってもおかしくはありません。むしろこれを機に、ウナギについて正しい理解と現状把握をすべきであるという声があがるなど、ウナギへの注目度は高まっていると言えます。
そもそもウナギは、環境省のレッドリストにおいて「絶滅危惧 IB 類(EN)(IA類ほどではないが、近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)」に登録され、深刻な危機にさらされている野生生物です。また現時点において人口繁殖や完全養殖が商業化されていないため、私たちが普段口にする養殖うなぎはすべて野生のシラスウナギに依存していることになります。つまり今後野生のウナギが絶滅してしまえば、これまでのように気軽にウナギを食べることができなくなるかもしれません。
ウナギに関する深刻な問題についてはこのくらいにして、まずは多くの人々が鰻について興味や関心を寄せてもらうことを目的として、おいしい鰻の話をしたいと考えました。私は先日、日本一の養殖うなぎの産地である鹿児島県を訪れ、“うなぎの町”として知られる「大崎町」で養鰻場や加工現場を見学しました。そしておいしいうなぎ選びのために役立つ話をたくさん聞いてきましたので、うなぎの基本知識や鹿児島県産うなぎの話を中心に、5つのトピックスをご紹介していきたいと思います。「こんなの知っているよ!」という話は、どんどん読み進めてください。
①さばき方以外にも関東・関西スタイルがある
関東は背開き、関西は腹開きという話を聞いたことがあるかもしれませんが、実は他にも様々な違いがあります。店選びをする上で知っておくと、好みのテイストに近いうなぎ料理を味わうことができます。
・串打ち
東ではうなぎを切ってから蒸すため竹串が使われるが、西では長いまま熱伝導率の良い鉄串で打つのが定番。
・焼き
東では何度も返して丁寧に焼き上げる「万遍返し」をした後蒸すことでふわとろ食感が生まれる。その後タレをつけて本焼きで仕上げる。西では蒸さずにじっくりと火を入れ、焼きだけで仕上げる地焼きが主流。。
・タレ
江戸前のタレの基本は醤油とみりんが1対1。あっさりした色合いと味が特徴。西ではたまり醤油や三河みりんを使うため、見た目が濃いめの色になり、味は甘く濃い場合が多い。
②市販の蒲焼きをおいしくするコツは、“洗って焼く”
スーパーなどで販売されているうなぎ蒲焼きを湯煎にかけてそのまま食べている人は多いのではないでしょうか。これらのうなぎの多くは、乾燥を防ぐために粘度の高いタレがたっぷりかかった状態であり、このまま食べてしまうとうなぎ本来のおいしさを堪能することはできません。まずはタレを流水でしっかり洗い流すのが最大のポイント。その後アルミホイルを一度くしゃくしゃにしてから広げ(くっつきや焦げの防止)、皮目を下にして蒲焼きを置いて、付属のタレを2~3回に分けて塗りながらオーブントースターで焼くと見違えるほどおいしく仕上がります。
③山椒は、“うなぎとごはんの間”に忍ばせる。
うなぎ大好きドットコムを運営するうなぎ愛好家である高城久氏に、うな重のおいしい食べ方を聞いたところ、おすすめの山椒のかけかたがあるとのこと。それは、うなぎの上に闇雲に振りかけるのではなく、まずはシンプルにうなぎだけを食べた後、うなぎをどけてごはんの上に山椒をかけるという食べ方。この方がうなぎの味がより引き立ち、タレのかかったごはんもしっかり美味しく感じられるそうで、私も実際に試してみたところ強く納得しました。最近のうなぎは昔に比べてにおいやクセが少ないため、現代のうなぎに合う食べ方として理にかなっていると言えそうです。
④うなぎは産地よりも、店名や銘柄で判断すべし。
鹿児島県大崎町には多くの養鰻場や鰻加工場があり、私は同エリアで生産される8種類の加工うなぎを食べ比べてみました。そこで分かったのは、同じ鹿児島県産であっても製法、見た目、味において個性に大きな違いがあるということ。これは養鰻場の水質やエサ環境が異なることからも納得がいく話で、産地だけで判断するのではなく、店名や銘柄で判断した方が賢明であることが分かりました。
味わいを判定する上で重要なのは、脂乗り、旨味、タレの濃さの3つ。例えば大崎町のうなぎについて前述の高城氏が監修したうなぎマップは、自分好みのうなぎを選定する上で参考になります。さらに食べ比べを体験してわかったのは、おいしいと感じるバランスは人それぞれ異なり、私はタレが程よく濃く、脂乗りと旨味のバランスが取れたものが好みであること。つまりうなぎは産地で選ぶのではなく、自分好みの味バランスを把握して、それを頼りに店や商品を選ぶべきなのです。
⑤うなぎの産地で食べると安い!ふるさと納税の選択肢も豊富
大崎町を訪問してわかったのは、うなぎ養殖の産地では新鮮なうなぎ料理がリーズナブルに味わえること。例えば同町にあるうなぎの加工販売を手がける千歳鰻の直営店「うなぎ処 栄」のうな重は本格的な関西スタイルで1尾使っているうな丼が2300円から。東京の半額程度という信じられない価格に驚きました。今後うなぎが安くなることは考えにくいため、産地を訪れたら食べておいて損はないでしょう。またふるさと納税の返礼品を見ていくと、うなぎは筆頭にあがるほど人気商品の一つ。おいしいうなぎは賢く選ぶというのが、これからの常識になりそうです。
養鰻にとって理想的な自然条件
大崎町は温暖な気候と広い土地、シラス台地の湧水に恵まれ、養鰻には理想的な自然条件が整っています。また養鰻から加工、流通までの一貫体制によって鮮度を維持する強みを持ち、さらなる養鰻技術や品質(低投薬・無投薬など)の向上にも積極的です。これらに加えて環境配慮や流通の透明性が評価されることで、今後は大隅産・大崎町産の鰻が競争力をますます高めていくことでしょう。
今後は2010年に初めて成功した完全養殖の実用化についても注視しながら、日本における養殖うなぎの未来に注目していきたいところです。
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