止まらない優秀層の人材流出
目下、テレビ局にとって最大の危機は売り上げの激減やイメージ低下だけではない。「優秀な人材の流出」だ。
「このまま局員として働いている自分を想像したときに『モデルになる人がいなかった』のが、テレビ局を辞めた大きな理由です。僕だけではなく、周囲の若手も同じようなことを言っていましたね」
こう語るのは、元TBS局員の大前プジョルジョ健太氏(30歳)だ。’24年1月に退局した後、現在はフリーの映像ディレクターとして、動画配信サービス「ABEMA」で『世界の果てに、くるま置いてきた』を手がけている。
TBSに入社して5年目には自身が企画した『不夜城はなぜ回る』を担当。夜中でも明かりがつく建物を体当たり取材で明らかにするバラエティ番組で、’23年に優れたテレビ番組を表彰する「ギャラクシー賞」の月間賞を受賞した。
「上の立場にいる局員は会社に泊まり込むほど働いているのに、楽しそうに仕事に取り組む人はわずかしかいません。家族や日常を犠牲にしてまでVTRと向き合う上司を見て、『このままでいいのかな』と思って辞めました」(大前氏)
ここ最近、大前氏のように実力がありながら、局を去る決断をする敏腕ディレクターが増えている。『有吉の壁』を担当した元日テレの橋本和明氏や『ゴッドタン』を担当した元テレ東の佐久間宣行氏など、枚挙にいとまがない。
局を辞めたからこそわかる「テレビの力」
読売テレビの元局員で現在は株式会社「ケイコンテンツ」代表取締役の平山勝雄氏(47歳)は、『秘密のケンミンSHOW』や『ダウンタウンDX』といった番組のプロデューサーを務めていた。
’20年に退局後、YouTubeチャンネルの運営などを手がける「ケイコンテンツ」に注力。漫画に音声や効果音を入れた「コミックアニメ」の事業が好調で、オリジナルの『ヒューマンバグ大学 闇の漫画』などのチャンネルを手がけている。YouTubeを中心にコンテンツを作ってきたなかで、「テレビの力を再確認した」と平山氏は振り返る。
「機能上、YouTubeは一つの世代や一つのジャンルに特化した動画が評価される傾向があります。そのため狙い撃ちをすれば、50万~100万人のユーザーから人気を得ることができる。
一方、テレビは全世代を一気に巻き込む力があります。視聴率が下がっているとはいえ、いまもゴールデンタイムには何百万人もの視聴者がいます。番組中に出たワードが流行語大賞にノミネートされた『水曜日のダウンタウン』のように、社会的なムーブメントを作れる力はテレビのほうが優れていると感じます」
後編記事『「トーク番組ばかり」「テレビだからできることはない」ヒット番組を手がけた元局員たちが実名で語る「オールド・テレビ」の限界)へ続く。
「週刊現代」2025年12月22日号より