面積世界第6位(排他的経済水域)、しかも北からの親潮やリマン海流といった寒流、南からの黒潮や対馬海流の暖流が交錯、世界でも名だたる好漁場として高いポテンシャルを持つ日本の海。その恩恵にあずかり、わが国では古くから豊富な魚介類を獲り、食し、和食文化を形作ってきた。
その日本の魚食・漁業がいま、危機に瀕している。
1990年代前半まで世界一を誇っていた漁獲高もいまではベスト10圏外から転落、すでに漁業大国とは言えない現状になっている。
なぜこのような事態に陥っているのか?
日本の漁業を30年以上取材し続けているベテラン記者が、新刊『国産の魚はどこへ消えたか?』(講談社+α新書)でそのリアルを明らかにする。
『国産の魚はどこへ消えたか?』連載第11回
『2000年以降は全世代で魚の消費が減少…人々の“魚離れ”に拍車をかけたのは意外にもアレの台頭だった!?』より続く。
30年余りで人気の魚は大きく変化
魚消費を語るには、食べ方の変化に加え、当然、売り方の変化も大きな要素となる。売っていなければ、消費者は食べられない。したがって、魚をどうやって食べるのか。決定要因は、スーパーが握っていると言っても過言ではない。
日本で魚の消費量が減り続ける中で、今人気がある、売れている魚は何なのか。総務省の家計調査報告を基に水産庁が作成した「生鮮魚介類の1人1年当たり購入量及びその上位品目の購入量の変化」(令和5年度水産白書)によると、1989年ごろによく食べられていたのは、イカを筆頭に、エビ、マグロ、サンマ、アジなどだった。
それが近年は、サケがトップで、マグロ、ブリ、エビ、イカの順となっている。水産庁は人気魚種の変化について、こう説明している。
「かつては、地域ごとの生鮮魚介類の消費の中心は、その地域で獲れるものでしたが、流通や冷蔵技術の発達により、以前はサケ、マグロ及びブリがあまり流通していなかった地域でも購入しやすくなったことや、調理しやすい形態で購入できる魚種の需要が高まったこと等により、これらの魚が全国的に消費されるようになっています」
流通・冷蔵技術の発達を背景に、切り身など加工された魚介の販売が増えた結果だが、もう少し説明を加えると、サケはチリで養殖されたギンザケや、ノルウェー産のサーモンが人気となっている点も見逃せない。さらに、ブリは天然物だけでなく、関東などで「ハマチ」と呼ばれる養殖ブリが、年中流通するようになったことも、順位の変更要因だ。さらに、サンマ人気が落ちたのは、間違いなく不漁のせい。値段が高く、ほっそりしたサンマしか獲れなくなったため、不人気となっている。
ほかにも、イカはかつてスルメイカがたくさん獲れて安く売られていたが、今はサンマ同様に大不漁。代替魚種として、アカイカなどが刺身用も含めて流通し、消費されていることを補足したい。
もう一点、根強い人気のエビについては、イセエビやクルマエビではなく、消費の大半は、ブラックタイガーやバナメイエビといった台湾、東南アジアなど海外で養殖されたエビであることも確認しておこう。
回転寿司の1番人気はサーモン
人気の魚が数十年の間に大きく変化し、魚離れが指摘される中、手ごろな価格で楽しめる回転寿司のネタで人気なのは何か。マルハニチロが2025年3月にまとめた「回転寿司に関する消費者実態調査2025」によると、全国3000人(有効回答者数)対象の調査で、回転寿司でよく食べるネタは、「サーモン」で14年連続1位となった。
2位はマグロ(赤身)で、3位がマグロ(中トロ)、4位はハマチ・ブリ、5位はエビ、その後にネギトロ、イカ、えんがわ、イクラ、マグロ(大トロ)というのがベスト10入りしたネタである。
サーモンがトップだが、マグロは部位ごとに分かれているため、赤身、中トロ、大トロの3種を足すと断然首位になる。とはいえ、14年連続でサーモンが首位という不動の人気を誇っていることは間違いない。
人気のネタを改めて見ると、国の調査と同じようなランキングとなっている。どれもスーパーの店頭でもお馴染みのラインナップだ。やはり、日本の代表魚であるマイワシ、サバ類といった青魚は入っていない。
回転寿司とスーパーの魚売り場で好まれる魚とは、流通・冷蔵技術の発展で、安定した価格、質、量が期待でき、どこでも食べられるようになった魚種ということになる。食べる魚に、地域差がなくなっているという言い方もできる。
総務省の家計調査報告で明らかになった消費量の多い魚や、回転寿司の人気ランキングを見ると、最近の魚の消費傾向がはっきりとわかる。サーモン、マグロ、ブリ、エビといった魚種の消費がともに好調で、イワシやサバなどの大衆魚、国内で多く水揚げされる魚は、あまり食べられていない。
人気がないからだろうが、そうした国産大衆魚は一部を除き、あまり売られていないというのが現状だ。小売店や寿司屋では、人気がある売れる魚を優先的に仕入れて売り上げを上げようとするのは当然だから、消費は偏ってしまう。たくさん獲れても、「仕入れない」「売らない」のだから食べようがないのだ。
『日本中どこでも「新鮮な魚」が食べられるようになったのに「魚の消費量」が増えないワケ』へ続く。