今年も残り1カ月を切り、忘年会、新年会の案内が届く時期になりました。職場によってはSlackやチャットで呼びかけているかもしれませんが、メールで案内するケースもあるでしょう。
幹事を任された若手ビジネスパーソンの中には、このメールでの呼びかけが苦手だと感じる人もいるのではないでしょうか。それもそのはず。メールの件名一つとっても、「よくない」書き方があるのです。
15年にわたるWebメディア編集者の経験から、「短い言葉で心をつかむ法則」を体系化した武政秀明氏。その知見をまとめた著書『22文字で、ふつうの「ちくわ」をトレンドにしてください』(サンマーク出版)で示した法則は、忘年会・新年会のメールにも応用できます。著者本人にその極意を聞きました。
やってはいけない「件名」
先日、知人の20代ビジネスパーソンと雑談をしていた時、こんな話になりました。
「メールの件名って、われわれの世代にとっては意外と難しいんですよ」
考えてみれば、確かにそうかもしれません。LINE、Slack、Teams、Googleチャットといった、件名も宛名も必要なくやり取りができるコミュニケーションツールが当たり前で育ってきた世代にとって、メールを書くのは億劫な面があるのでしょう。
ただ、ビジネスシーンでは、メールは依然として重要な連絡手段です。そしてメールには必ず件名があります。その件名に何を書くか。どう用件を伝え、相手に行動してもらうか。意外と判断に迷うポイントではないでしょうか。
忘年会の案内メールを例に考えてみましょう。
職場のメールボックスには、こんな件名のメールが届くことがあるはずです。
「忘年会について」
「忘年会のお知らせ」
「12月の懇親会の件」
忘年会や新年会は、多くの場合、参加は任意です。だからこそ、件名で関心を持ってもらえなければなりません。
ところが、上記のような件名では、緊急性も面白さも感じられないのではないでしょうか。それは相手が判断するために必要な情報が欠けているからです。「いつなのか」「どこでやるのか」「会費はいくらなのか」「返信期限はいつまでなのか」――。
こうした情報が件名から読み取れなければ、受け取った側は本文を開いて確認しなければなりません。しかし、人によっては1日に数十通もの大量のメールを受け取る中で、すべてに詳しく目を通している時間はありません。件名だけで「関係なさそう」「緊急性が低そう」と判断されてしまえば印象に残らず、スルーされてしまうかもしれません。逆にうまく書ければ目に留めてもらい、「この人デキるな」という印象になることもあるでしょう。
メールの件名は中身を詳しく見てもらう前に相手の目に触れる言葉で、その後の反応を左右することがあります。タイトルや見出し、キャッチコピーと同じです。それは「言葉のプロ」の専売特許ではありません。限られた文字数で相手の関心を引き、行動を促すという本質は同じだからです。一般のビジネスシーンでは、他に報告書に題名をつける。プレゼン資料にキャッチコピーを入れるなども当てはまります。
私はWeb編集者として7000本超のタイトルを考案し、数万本に及ぶアクセス傾向の分析から、「短い言葉でどう人は反応するか」という法則を導き出してきました。そこからちょっとした案内メールの件名であっても、目に留めてもらいやすくできると思っています。
小学校の作文に立ち返る
では、どう書けばいいのでしょうか。
小学校の時、国語の授業で作文を書く際、「いつ、どこで、誰が、何をしましたか」ということを書きましょうと教わった人も少なくないはずです。
ビジネスの世界では、これをより体系的に5W1H——When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、What(何を)、How(どのように)、Why(なぜ)——として使うことがあります。
タイトルや見出しを考える際、WhyやHowから発想すると面白い切り口が生まれることもあります。しかしメールの件名に関していえば、HowとWhyを除く4W、つまり「いつ、どこで、誰が、何を」という情報をまず入れることを意識するといいでしょう。
そこに、もう一つ加えたい要素があります。それが数字です。
数字といっても、様々な種類があります。
日時:12/26、19時、
2時間金額:会費5000円、
飲み放題付き人数:先着20名、
現在15名参加締切:12/20まで、
あと3日
その他:駅徒歩3分
こうした数字が入ることで、件名は一気に具体性を増します。
ここで重要なのは、「正解は一つではない」ということです。
同じ事実でも、何を優先するかによって表現は変わります。忘年会の案内メールを書く時も同じです。同じ忘年会でも、伝え方はいくらでもあります。
「12/15(金)18時〜@新宿個室居酒屋/忘年会」
→ 日時・場所を優先したパターン
「会費3000円・途中参加OK/忘年会」
→ 条件・参加しやすさを優先したパターン
「今年の失敗談を肴に飲む忘年会」
→ 趣旨・雰囲気を優先したパターン
「○○さん送別も兼ねた忘年会(12/20締切)」
→ 目的と締切を優先したパターン
どれも同じ忘年会の案内ですが、受け取る印象はまったく違うはずです。
では、どれが正解なのでしょうか。
実は、どれも正解なのです。
参加者の顔ぶれ、忙しい時期かどうか、予算の制約があるかどうか。状況によって、何を優先すべきかは変わります。日時の調整が難しそうなら日時を明記すべきでしょうし、予算を気にする人が多いなら金額を前面に出すのがいいかもしれません。
本文には、こうした情報がすべて盛り込まれているはずです。件名は、その本文の「予告編」と考えることができます。どの情報を予告として見せるか。それを選ぶのが、件名を書く際の判断になります。
もう少し例を見てみましょう。
「12/26(木)19時@渋谷/今年の打ち上げ 会費5000円(締切12/20)」
「1/10@博多焼肉/新年の決起集会 4000円・先着20名」
「1/15(水)18時半/栄の居酒屋/新年会 2時間飲み放題付(現在12名)」
@マークや/(スラッシュ)で区切ると、スマートフォンで見た時も視認性が良くなります。「忘年会」という言葉を「今年の打ち上げ」と言い換えたり、「新年会」を「決起集会」と表現したりすることで、少し新鮮に感じられる効果もあるでしょう。
重要なのは、4W+数字という枠組みを使いながら、「この忘年会で一番伝えたいことは何か」を考えることです。
日常業務にも応用できる
この法則は、忘年会や新年会に限りません。日常の業務メールでも同じです。
△「今週の報告」
○「12/1週 A社商談3件・B社契約締結」
△「資料作成のお願い」
○「12/15まで/営業会議用・競合分析3社分」
△「会議の件」
○「12/10(火)14時@会議室B/来期予算30分」
いつ、何を、どのくらい——この情報が件名に入っているだけで、本文を開く前に、そのメールの重要度や緊急度を判断できます。
相手の立場で考える
4W+数字という枠組みを使いながら、何を優先するか。それは、相手の立場になって、相手の頭で考えることで見えてきます。
忙しい相手なら、判断に必要な最小限の情報を。初めての相手なら、安心できる情報を優先する。予算を気にする人が多いなら金額を、日時調整が難しそうなら日時を前面に出す。
メールの件名は、相手への思いやりでもあります。限られた時間の中で、相手が効率的に情報を処理できるように配慮する。それが、ビジネスコミュニケーションの基本ではないでしょうか。
「ほかの言い方はないだろうか」と立ち止まる習慣をつけることで、忘年会の件名だけでなく、あらゆるメールで相手のことを深く考え、本当に大切な情報を確実に届けることができるようになります。それは今日からでも実践できることなのです。
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