導入「関数とは」
「今日数学の授業で習ったんだけど、『関数』って、どういう意味なの?」
皆さんはこのように子どもに質問を投げかけられたら、いったいどのように答えますか?
おそらくこの記事を読んでいる方の多くが、なんとなく「関数」という言葉を聞いたことがあることでしょう。「xとyの関係」「グラフで表す」など、なんとなくイメージがついている人もきっといるはず。授業で習って難しかった、必死にテスト勉強をした、なんて思い出がある人もいるかもしれません。しかし、いざ「関数とは何か」を説明しなさい、と言われると、困る方が多いのではないでしょうか。
今回の記事は、そのような数学が苦手な大人の方に向けて書きました。
実は「関数」は、数学の授業だけでなく、日常生活のいたるところに溢れています。
「関数」を理解することは、テストの点数を上げることだけでなく、社会で生きるうえで非常に役に立ちます。
今回は、数学が苦手な方でも「今日から話せる『関数』の魅力」についてお伝えしていきます。
さらに後半では、筆者が開発した“遊びながら関数が身につくゲーム”「関数大富豪」についても紹介するので、ぜひお読みください。
関数とは「ある入力に対して、1つの出力が決まる仕組み」
いきなり結論ですが、関数とはとてもシンプルな仕組みです。
「ある入力に対して、1つの出力が決まる仕組み」
これが関数です。
この説明だけで、授業で習う関数から、日常に溢れる関数までほぼすべてがカバーできます。
例えば、
y = x+3
という式を考えてみましょう。
この式の「x」に「1」を入れると「y」は「1+3 = 4」で「4」と決まり、「3」を入れると「y」は「3+3 = 6」で「6」と決まります。
このように、大きな値や「0」、マイナスの値、そして小数など、どんな数を「x」に入力しても、必ずその数字より「3」大きな数が「y」として出力されます。つまり、「y = x+3」は、「ある入力に対して、それよりも3だけ大きな数を出力する」という仕組みなのです。これをよく教科書では、「yはxの関数である」と表します。
いかがでしょうか。このように考えれば、ただ計算式を見つめるよりも少し「関数」の問題に取り組みやすくなるのではないでしょうか。そして、このような「関数」の関係性は日常生活、社会にもあふれているのです。
社会に溢れる関数
「関数」が生活に使われている例としてメジャーなものが、「タクシーの料金」です。
一般社団法人東京都個人タクシー協会によると、東京都23区内を走る一般的なタクシーの運賃料金は、
初乗(1.096kmまで)500円
加算(255mまでを増すごとに)100円
と定められています。(実際には、「時間距離併用制運賃」「深夜・早朝割増」などのルールもありますが、今回は割愛させていただきます)
数字が少し複雑ですが、ざっくりいうならば、「最初の1kmは500円、そこからは約250mずつで100円上がる(つまり1kmで約400円上がる)」ということだと分かります。これも実は、立派な「関数」の一つなのです。
例えば、あなたがここから3km離れた場所までタクシーで行きたいと考えたとしましょう。その場合、1.096kmの初乗料金に、加算料金が8回かかる計算となるため、値段は1300円だと推測できます。これがまさに、目的地までの距離という「入力」に対して、運賃料金という「出力」を出す仕組みなのです。
この「関数」を、x(入力)を「距離(m)」、y(出力)を「運賃(円)」として、数学的に式や表で表すと次のようになります。
y=500+[(x-1096)/255]×100 (x≥1096)y=500 (0<x<1096)
式で見ると、まぎれもなく「数学」ですね。数学と世の中はこのように密接にかかわっているのです。
もう一つ例を挙げてみましょう。
プレートの境界上にあり、「地震大国」と呼ばれるほど全国各地で頻繁に地震が起こっている日本。ニュースで地震の報道があるたびに、「マグニチュード」という言葉を耳にするのではないでしょうか。
マグニチュードとは、地震の「規模」を表す尺度であり、「M5.4」「M7.5」などのように、小数第1位までの数字として一般に表されます。これは余談ですが、地震の「揺れ」を表す「震度」とは別の概念であるため、震度が大きいほどマグニチュードが大きくなる、という関係性ではない場合もあります。
さて、では何が「関数」なのか。それは、この「5.4」や「7.5」という数字に着目すると見えてくるのです。
地震のエネルギーは非常に膨大です。エネルギーを測る単位として「ジュール(J)」というものがあるのですが、小さな地震でもこのエネルギーは「1兆ジュール」を超えており、さらに大きな地震となると跳ね上がっていきます。
そこで、小さな数字で表すことができるように、マグニチュード(M)という単位が導入されました。つまり、「地震のエネルギー(J)」を入力すると、「マグニチュード(M)」が出力される関数といえるのです。
ちなみに、このマグニチュードが「1」上がるだけで地震のエネルギーは約32倍になります。つまり、「M9.0」の地震は、「M7.0」の地震のエネルギーの1000倍の大きさになるのです。これを式で表すと、このようになります。
log10 J=4.8+1.5M
これは「対数関数」と言い、多くの学校で高校2年生時に学習する関数の一つとなります。高校レベルの「数学」も、日常にこのように活用されているのです。
関数を「楽しく」学ぶために
ここまで、「関数」とは何か、そしてどのように世の中で使われているのかについて説明していきました。ここまで読んでくださった方は、「関数」を学ぶ意義、重要性を感じていただけたことでしょう。
しかし、「必要だと分かっていても、学ぶのが億劫だ」というのが正直なところ。そこで最後に、この「関数」を楽しく学べるカードゲームを紹介しましょう。
公式HP URL:https://www.functioncareerpoker.com/
筆者は、東京大学の友人と協力して「関数大富豪」というゲームを製作しました。これは一言でいえば、「遊んでいるだけで関数の考え方が身につくカードゲーム」です。
簡潔にではありますが、ここでルールを紹介しましょう。
「関数大富豪」という名の通り、「大富豪」というトランプゲームをモチーフにしています。
参加者(3~6人程度)全員に決められた枚数の手札が配られ、順番にカードを場に出していき、最初にカードをすべて出し切った人の勝利。いわゆるベタなカードゲームなのですが、このゲームならではの特徴が大きく分けて2つあります。
1 「関数」が手札に配られる
実はこのゲーム、以下のような「関数」が書かれた黒色のカードがプレイヤーの手札に配られるのです。
普通の大富豪であれば、配られた時点でカードの強さは決まっています。もちろんルールにも依りますが、「3,4,5」というような弱いカードをできるだけ早く手札から減らし、「A,2,JOKER」などの強いカードを切り札にする、というようにある程度戦術が固定されています。
しかしこの「関数大富豪」は、手札が「定数」ではなく「変数」であるため、強いカードを温存する、という発想が効かなくなるのです。
2 場に「x」の値を決めるカードがある
じゃあ、手札の強さはどうやって決まるの?と思った方、ご安心ください。
この関数にどんな値を「入力」するのか。それが、このような「x=1」「x=3」などと書かれた「代入カード」によって決められるのです。
このような、x=1やx=3と書かれたカードが合計9枚用意され、シャッフルしてランダムに場に出されます。すると、そのターンはこのxの値が用いられ、xの値を「代入」したyの値がそれぞれの関数カードの「強さ」となるのです。
この値が前の人よりも大きくなるようにカードを出し、誰もいなくなったら場が流れる。そしてその際にもう1枚代入カードがめくられ、xの値が変わる。このような流れでゲームが進んでいきます。
もうお分かりの方もいるかもしれませんが、このゲームのポイントは「xの値によって、どの関数カードが強いかが変わる」という部分です。
普通の大富豪とは違い、「常に強いカード」は存在しません。場に出ているxに合わせて、「今はこのカードが効果的だ」と判断してカードを出すスキルが重要となります。ここで必要となるのが、常に変化するxを逐一自分の手札に「代入」し、値の大きさを見極める「計算力」です。だからこそ、このゲームは楽しく学びながら「関数」の「ともなって数が変わる」性質を理解し、さらに計算力を身に付けることができるのです。
おわりに
実はこのゲームは、筆者が高校時代に作成したものをベースに作られています。当時高校2年生で、数学の授業でさまざまな関数が登場して「いざ勉強しなければ」となった際に、「せっかく学ぶなら、楽しく学べる方法を考えたい」と思い、クラスメイトとアイデアを出し合ってこの「関数大富豪」を作成しました。
そこから改良を重ね、実際に様々な学校で授業の導入としても使われるような立派なカードゲームとなりました。そして、今年の10月からは通信販売も始めています。
「関数」と聞くと難しいイメージを持つ人も多いかもしれませんが、関数は数学の授業だけでなく社会にも多く活用されており、またこのようにゲーム感覚で楽しく学ぶこともできます。
もし子どもに「関数」について聞かれて困ったことがあったら、ぜひこの記事を見せてあげてください。また、今回紹介した「関数大富豪」を用いて、親子で楽しく遊びながら数学の学びを深めてくださると幸いです。
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