身体を温めるだけでなく、リラックス効果も期待できるお風呂。特にこの時期、疲れた身体を癒すべく温泉旅行に出かける人も多いのではないでしょうか。日本各地には数多くの温泉があり、まだまだ知らない湯処はたくさん。そこで、これまでに国内3800湯以上をめぐり、現役のフリーアナウンサーでありながら、温泉好きが高じて温泉ジャーナリストとしても活躍する植竹深雪さんに、おすすめの温宿を教えてもらいました。今回は、近年人気があるサウナも併設している“ととのう”温泉宿をいくつかご紹介します。
植物由来の「モール泉」モーリュを堪能
【北海道】森のスパリゾート 北海道ホテル
北海道十勝・帯広市の中心部にありながら、広大で緑豊かな森に囲まれた「森のスパリゾート 北海道ホテル」は明治32年創業の老舗ホテルです。敷地16ヘクタールの森に抱かれ、エゾリスやモモンガが遊びにくるほど、自然豊かなところにあります。帯広空港から車で約40分、帯広駅からは車で約5分とアクセス抜群。
この北海道ホテルで湯浴みできるのが、北海道遺産に認定された植物由来の「モール泉」。「モール泉」とは、太古に堆積した植物が黒炭に変化する過程で生じるフミン酸やフルボ酸という肌をすべすべにする有機物が地下水に溶け出して温泉になったもの。
紅茶のような独特な色で、植物由来ということもあり、芳醇な香りが心地よく、とても癒されます。温泉は源泉かけながし。世界的に見ても、また日本でもレアな温泉「モール泉」を、客室露天風呂付のお部屋でも、大浴場でも、余すことなく堪能でき、美肌へと導いてくれます。
大浴場にあるサウナは十勝のサウナ先進地を象徴するかのようなかなり本格的なもので、 ここでは「モーリュ」といって、モール泉の温泉を熱した麦飯石にかけるというのが最大の特徴。サウナのストーンからたちこめる蒸気と熱波で汗をたっぷりかき、全身に潤いも与えてくれます。壁の白樺に温泉水をかける「ウォーリュ」もあり、こちらは森の香りに包まれ、リラックス効果がアップ。
また、水風呂も温度にこだわり、サウナ学会推奨の16~18℃と、理想とする温度に設定されています。冬季だと外気がかなり寒いので外でも十分にととのいます。
北海道ホテルには客室にプライベートサウナがついた「ととのえ」ルームもあるので、サウナ好きならこのお部屋がおすすめ。食事はディナーも朝食も十勝の恵み満載で、ご当地ならではの美食を味わうことができます。
ひんやり源泉を使用した水風呂も魅力の湯宿
【秋田県】金浦温泉・学校の栖
秋田県の日本海側、にかほ市にある金浦温泉。ここは、鳥海山の麓にひっそり佇む湯宿で、明治7年から昭和55年まで大竹小学校として利用されていたところをリノベーションし、2021年に温泉宿「学校の栖」としてリニューアルオープン。
平屋建てで、中に入ると温かみのある空間になっていて、どこかタイムスリップしたかのようなノスタルジックさが感じられ、非日常感も味わうことができる環境です。
温泉は源泉が2つあり、ひとつは日本三大美人の湯のうちのひとつ「硫黄泉」、そして特別天然記念物の北投石(ラジウム鉱石)を含んだ「ラジウム鉱泉」があります。
単純硫黄冷鉱泉で泉温13.7℃ですが、このひんやりとした源泉をサウナ後の水風呂として利用し、ととのえることもできます。サウナにはセルフでのロウリュウがあり、ラジウム鉱泉をサウナのストーンにかけることができます。
またここでは、2つの異なる泉質の浴槽に交互に入り、「温冷交互浴」で自律神経のバランスを整え、副交感神経が優位になることでリラックスするという効果に期待ができます。高温サウナでしっかりと汗をかいて、その後のクールダウンが、源泉そのままのひんやり温泉に浸かってできるという環境はそうあるものではありません。
入浴後にいただいた地の食材、海鮮や由利牛などを使用した夕食はひとつひとつが味わい深いものでした。
温泉熱を利用したエコサウナのある素泊まり宿
【宮城県】鳴子温泉 旅館すがわら
東の横綱といわれ、泉質が豊富で特に温泉好きにはたまらない魅力で溢れている宮城県にある鳴子温泉。「旅館すがわら」は9つの多彩な浴槽の温泉が魅力的。湯量が豊富、天然保湿成分をサポートする「メタケイ酸」を豊富に含む湯で、源泉かけ流しの極上湯を余すことなく堪能できます。
旅館すがわらでは、年に数回見れるか見れない、天然でブルーの色をした湯になる「すがわらブルー」という現象が起こることがあり、温泉愛好家の間ではすっかりおなじみです。いつブルーになるかはわからず、神のみぞ知る……?という感じでなかなかお目にかかるのが難しく、出会えたらラッキー。きれいなブルーというだけではなく、しっとり保湿がかなう美肌湯というのも嬉しいポイントです。
こちらの旅館は2023年3月にリニューアルをし、現在は素泊まり専用の湯宿になっています。館内は以前の内装や設備、雰囲気を部分的に残しつつも、ワークペースやリラックスできるスペースが新たにつくられたので、カジュアルに過ごすことができます。
素泊まりですが、食材の持ち込みが可能なので鳴子御殿湯駅周辺の飲食店でお弁当やお惣菜を購入して宿で食べることができます。翌朝の朝食は、宿のすぐ目の前にある「菅原分店765」という朝から営業している居酒屋にて、お米や海苔にもこだわったおにぎりセットやおにぎりの具定食のようなメニューをいただくのもおすすめです。
こちらの湯宿には約98℃の温泉熱を利用したサウナがあり、じんわりと汗をかくことができます。ひのき張りで15分おきに源泉ミストが噴射、しっとりとお肌が潤う温泉を全身で浴びることができるのもうれしいポイントです。
サウナはもうひとつ貸切のフィンランド式のものがあり、90℃ほどのドライサウナで、セルフロウリュで熱波を浴びつつ、しっかり汗をかくことができます。水風呂は25℃の源泉を使用したもので、温泉でととのえることができ、温泉好きかつサウナ好きにはたまらない宿です。
薬湯とサウナ、日本酒にこだわった新ホテル
【新潟県】松之山温泉 Ponshu Hotel 睡夢
新潟県十日町市にある松之山温泉郷。東京から新幹線で約2時間半強のところにあり、冬は3メートルもの積雪に覆われる秘湯の里ともいえる温泉地です。
ここは日本三大薬湯といわれている温泉のひとつで、約1200万年前に地中に閉じ込められた海水が源泉で、濃厚な塩化物泉を楽しむことができます。肌にまとわりつくようなしっとりさ、ねっとりさを感じるような塩分濃度が高い温泉で、保湿効果がかなり期待できます。
そんな松之山温泉の地に、2025年5月にオープンしたのが「Ponshu Hotel 睡夢」。ここは古い旅館をリノベーションした温泉とサウナとお酒を存分に味わうことができるホテルです。
オーナーは姉妹宿に「酒の宿 玉城屋」「Hotel 醸す森」をもつ山岸裕一さんで、ご自身もきき酒師の上級資格である酒匠をお持ちで、お酒に対するこだわりが強く、そしてお酒好きを裏切らないような感動を提供しています。
多いときは40種類ほどある地酒、日本酒のほかビールや焼酎、ジンなどもあり、特に日本酒はフリーフローで冷蔵庫の中からセルフでとり自由に味わうことができます。
そんなお酒も堪能できる宿ですが、温泉は内湯のみで源泉かけ流し。そして、サウナはセルフでロウリュもできます。魚沼杉をふんだんに使ったドライサウナ室は爽やかな木の香りが心地よく、自然の中で深呼吸したかのよう。水風呂は15℃でシャキッと引き締まる感覚を味わうことができます。
夕食は自身で好きな具材を組み合わせて手巻きする「里山手巻き寿司」をいただくことができ、フリーフローの日本酒と共に楽しむことができました。サウナだけでなく、お酒好きな方にもおすすめしたい宿です。