“ひとり焼肉”を楽しめる焼肉チェーン店としておなじみ「焼肉ライク」が閉店ラッシュに追い込まれている。この秋以降、神保町店(東京)や名古屋伏見店(愛知)、大宮西口店(埼玉)など都市部の店舗が次々と閉店を余儀なくされているのだ。
ちなみに今年度の新規出店を調べると、わずか1店舗のみ。現在191店舗を展開しているが、国内店舗数は半分以下の81店舗に留まっている状況だ。
同チェーンといえば、美味しい焼肉を気軽に、かつリーズナブルに楽しめる店として人気を集めたことで知られる。だが、ここ最近の口コミを見ると「コスパが悪い」など批判の声もよく聞かれるようになった。そのウラには、焼肉業界そのもの、また顧客視点の「大きな変化」があった。
【前編記事】『「いつも店内ガラガラ」焼肉ライクでついに《閉店ラッシュ》が始まった…フランチャイズ加盟店からも愛想をつかされて』よりつづく。
なぜ「コスパが悪い」と言われてしまうのか
「焼肉ライク」の苦境を語る上で、外せないのが競争の観点だ。焼肉ライクが“ひとり焼肉”のパイオニア的存在であることはご存じかもしれないが、今や大手チェーンの焼肉店もこぞって一人客用の座席やメニューを用意するなど、ひとり焼肉に力を入れてきている。中には、ひとり焼肉の独自ブランドを開発、事業化しているチェーンもあるほどだ。
だが実際のところ、これらひとり焼肉向けの店というのは、客席回転率の向上ばかりに気を取られるあまり、どこも落ち着かない雰囲気ばかり。何より薄利多売のビジネスモデルは、どうしても魅力的な収益モデルではなさそうだ。
たとえば焼肉チェーン「ワンカルビ」を展開する「ワン・ダイニング」も、ひとり焼肉の業態として「お肉屋さんのひとり焼肉」という店を6店舗出店している。だが、想定以上に店舗数は伸びておらず、他を見渡しても同じような状況だ。
となると、先行者優位で焼肉ライクの一人勝ちになるかと思いきや、そうとも言えない。たとえば、焼肉ライクが“コスパ最強”と謳う「平日限定ランチ」で考えてみたい。
同メニューは890円から焼肉セットが楽しめて、しかもスープ、キムチ、玉ねぎ付き。さらに岩手県産のブランド米「ひとめぼれ」を使用したご飯が食べ放題。一見すると、この低価格ぶりは焼肉として魅力的に映る。
だが消費者をヒアリングしてわかったことは、結局、値段相応に肉の量が少ないから「物足りない」と感じる人が多いという点だ。いくらご飯が食べ放題とはいえ、それだけではと好きな単品肉のハーフサイズを追加注文する。すると値段は1200~1300円くらいになってしまって、結局“割高感”のイメージが残ってしまう、というわけだ。
思えば、焼肉ライクの追加注文を促す仕組みづくりが、ある種、冒頭にあった「コスパが悪い」という批判につながっている可能性はある。
国産黒毛和牛をアピールする“中途半端”さ
円安の影響による仕入れコストの上昇から、想定原価率を順守するのは困難になっている。しかし、いくら安さを売りにしている店だとしても、品質を落としては顧客離反が起きるのは当然のこと。そこで、適切な値上げして品質を維持することが今の外食では必要だ。
その点、焼肉ライクはどのように対応しているかと言えば、前述の「平日限定ランチ」のような低価格セットをフロントエンド商品(安く気軽の注文できる商品)として誘引し、バックエンド商品(本格的商品)に誘導。そして、追加品目を促す仕掛けで客単価の向上を狙っているというわけだ。
焼肉ライクの特徴でもある、タッチパネル注文にもその姿勢は垣間見える。タッチパネルのトップページには、国産黒毛和牛使用をアピールした2000円以上の高価格メニューがずらりと並ぶ。つまり、かつての“効率追求型”から“効果追求”にシフトし、採算を重視していると読み取ることができるのだ。
しかし、すっかり低価格のイメージが定着したなかで、焼肉ライクの提案内容を見てみると、常陸牛や仙台牛などブランド牛を使った限定商品をアピールするなど、どこか中途半端な印象を受けざるをえない。「美味しいブランド牛を食べるなら、焼肉ライクではなく、それ相応の焼肉店に行く」という声が挙がることも容易に想像できる。
確かに、これだけ輸入牛が高騰すれば原価率が高くなり、低価格にこだわっていては利益を減らすだけということは間違いない。それに沿う形で焼肉ライクは追加点数を増やすようハーフサイズ品を増やしてはいるが、狭小店舗のため、席も狭くゆっくり寛げないイスでお客さんもいろいろ追加しながら焼肉を堪能するという店にはなっていない。
その結果、食べたらすぐ帰るというお客さんが多く、滞留時間も短くなってしまい、想定以上に単価が上がってこない。これが焼肉ライクの一番の課題のように思える。
今のビジネスモデルのままでは限界か
中小企業基盤整備機構によると、焼肉店1回の利用にかける費用は、最も多い回答は「3000円~5000円未満」が32.8%で、次いで「5000円~1万円未満」が23.5%、さらに「2000円~3000円未満」が19.4%と続いている。たとえば、焼肉業界では「焼肉きんぐ」が最も勢いがあり、出店を加速させているが、同チェーンは食べ放題中心で基本プランを、この「3000円~5000円未満」範囲に据えている。
そんな焼肉きんぐも、輸入牛肉に依存する食べ放題店である以上、今の円安は大きな痛手だ。そこで、食べ放題の追加が高騰する牛肉へ集中して原価が圧迫することを回避するため、サイドメニューを充実させてそれらへの注文に誘導するように仕掛けをしている。この相当の工夫ゆえ、確実に利益を確保し、店舗数を増やせるのというわけだ。
一方、同じく輸入牛肉を多く使用するものの、単品販売の焼肉ライクはそういった手法は取れない。追加単品の積み上げで単価を上げるか、もしくは低価格でも客席回転率を上げて一席当たりの売り上げを確保させなければ、利益の確保は困難だ。
しかしながら、先述の通り、お客さんも物足りないからと追加注文すれば結果的に高くなり、自分の予算上の制約から、なかなか注文できず我慢することになる。その結果、不満を抱きながら帰っているのではなかろうか。
今後、焼肉ライクには価格のリーズナブル性を維持しながら、効率よく食事を提供できるビジネスモデルの再構築が求められる。そこが店舗存続の分水嶺となるかもしれない。
【こちらも読む】『大阪名物「スーパー玉出」が閉店ラッシュに…激安「1円セール」ビジネスが通用しなくなった理由』