賢人とも呼ばれた古代ギリシアのピタゴラスが、実は優秀な“塾経営者”だったことをご存じだろうか。異国で長年学んだ後、故郷に戻って身一つから多くの弟子を集め、“学派”成すに至ったのは有名な逸話である。彼はどのように“生徒”を集めたのか。田邉亨氏の著書『本物の算数力の育て方』から興味深いエピソードをお届けする。
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伝説の「数学者」はこんな方法で生徒を勧誘した
ピタゴラスといえば「三平方の定理」にその名が残る数学者(正確には宗教家)だが、その彼についてこんな逸話が残っている。
異国で学問を修めたピタゴラスは、帰郷して数学を教える学校を開設した。ところが生徒が集まらない。そこで彼は人の集まる市場へ出かけて行き、利発そうだがいかにも貧しい感じの青年を見つけて声をかけた[以下は片野善一郎『素顔の数学者たち』4頁より引用]。
「君は暇なようだが、私の学校へ来て数学を勉強してみないか。君が数学の定理を1つ理解するごとに3オボロスのお金をあげるがどうかね」
青年は数学がどんなものか全く知りませんが、お金をもらえると聞いて、喜んで承知しました。翌日から青年はピタゴラスから数学を教わりますが、定理を1つ教わって理解するごとに約束どおりお金をもらえたので、青年は毎日学校へ通って一所懸命数学を学びました。
何か月かたって、青年の学力はかなりついてきました。ピタゴラスはこの青年は自分が教えなくても一人で数学の勉強を続けるにちがいないと思い、青年にいいました。
「君のような青年がいつまでも仕事につかないでいるのはよくない。このへんで一時数学の勉強をやめて何か仕事についたらどうかね」
すると青年は次のようにいいました。
「先生、これからも続けて数学を教えてください。今日からは先生が定理を1つ教えてくれるごとに、私が先生へ3オボロスのお金を払いますから」
ちなみに3オボロスは、貧者の数日の生活費が賄える額だったというから、けっこういい待遇だったのかもしれない[イアンブリコス『ピタゴラス的生き方』27頁訳注]。
こうして青年は数学の面白さに目覚めたのだった。
検定試験は使い勝手がいい
昔々のことだから、この逸話が事実かどうかはわからない。しかし、仮に事実だとしたら、ピタゴラスはいまで言うキャッシュバック制度でうまく塾生を勧誘したことになる。
もちろん、「お金で釣るのはいかがなものか」といった批判はできるし、(きっかけにはなっているが)その後も長く数学を学び続けるインセンティブになったかどうか、まではわからない。だが、こんなふうに生徒を算数の「沼」にハマらせることができる「仕組み」があると心強いのは確かだ。
そのような仕組みとしてぜひ活用して欲しいのが、検定試験だ。受けたことのある人も多いと思うが、世のなかには実用英語技能検定(英検)や日本漢字能力検定(漢検)など、各種団体が定期的に開催する検定試験がたくさんある。それらの試験は、どれも共通して次のような特長をそなえている。
・いろいろな種類があり、級などの段階が設けられていて頻繁に受けられる
・好きなペースで何度でもチャレンジできる
・合格すれば認定証などの賞状がもらえる
・不合格でもショックは小さく、人生への影響も少ない
これらをうまく利用して、子どもに小さな達成感を積み重ねてもらう。そして自信をつけさせ、より難しいものにチャレンジする意欲を持ってもらうのが狙いだ。
「りんご塾」では、算数検定、算数・数学思考力検定(以下、思考力検定)など、いろいろな検定を利用して学習を進めているが、ここでは塾の例をもとに、具体的に説明する。
後編記事『合格率は驚異の「92%」! 算数塾のカリスマ講師がつくりあげた「どう転んでも失敗のない」勉強法ちとは』へ続く。