不登校の子どもを前にすると、「学校に行ってほしい」と思う親は少なくない。受け入れたい気持ちはあっても、現実をなかなか認められず、つい叱ったり急かしたりしてしまうこともある。さらに父と母の気持ちや対応が違うと、その温度差に戸惑い、どう関わればよいか悩むこともある。こうした親の悩みに向き合い、具体的なアドバイスを届けているのが池添素さん。池添さんは40年以上にわたり、不登校の子どもとその親4000組以上に寄り添ってきた相談員で、親子の悩みや不安に丁寧に耳を傾け、支え続けてきた。
2025年10月29日、文部科学省が発表した「問題行動・不登校調査」によると、2024年度に不登校となった小中学生の数は過去最多の35万3970人にのぼり、12年連続で増加している。こうした現状を背景に、池添さんの経験と考え方をまとめた書籍『不登校から人生を拓く――4000組の親子に寄り添った相談員・池添素の「信じ抜く力」』(講談社)が2025年9月4日に発売された。ジャーナリストの島沢優子さんが丁寧に取材し、池添さんの言葉と具体的なエピソードが1冊に収められている。
さらに11月3日には、紀伊國屋書店 新宿本店で池添さんのトークイベントが開催。立見席もいっぱいになるほどの盛況だった。トークショーでは、参加者から寄せられた質問すべてにその場で答えながら、長年の経験に基づく具体的なアドバイスを語った。
来られなかった方のためにも語られた言葉を記事化する連載第8回では、「不登校を受け入れられない夫とどう向き合えばいい?」という質問に対する回答をお届けする。
夫婦で力を合わせて子どもと向き合うには
【質問】
不登校の家庭の相談に乗っています。お母さんは理解が早いのですが、お父さんの理解がなかなか進まず、家庭が不穏になることが多いです。何か良い方法はないかと模索中です。
池添素:別れるかな……ってなるわけにもいかないのが、しんどいところですよね。家族というチームは、簡単には“解散”できません。だからこそ、「どうすればチームとしてうまくやっていけるか」を考えることが大切です。今、私が相談に乗っているご家庭でも、お父さんがうまく関われず、家の中で引きこもってしまっているケースがあります。なぜお父さんがうまく関われないか、なぜ共通言語で話せないのか。もちろん、お父さんの性格もありますが、根っこには不安があると思うんです。そしてその不安は、いつも子どもの近くにいるママとは種類が違う。
だから、まずはなぜ不安なのか、カウンセラーになったつもりで聞いてあげるしかないと思います。ただし、ただで聞いていたら自分もしんどくなります。だから必ず“見返り”を用意してください。それはお父さんに求めるのではなく、自分に「ご褒美」をあげる形でいいです。“仕事として”やるくらいがちょうどいいと思います。
お父さんを「ミック・ジャガー」だと思え
家族というチームを維持して、機能させていくためには何が必要かという視点で考えないといけないと思います。野球でいえば、監督のような気持ちで考える。ドジャースのロバーツ監督になったつもりで采配する、という感じですね。
ジェーン・スーさんが『介護未満の父に起きたこと』(新潮社)という本で、「父親をミック・ジャガーだと思え」と書いていて、共感しました。お父さんとの関係もフジロックで来日した人と、それを支えているスタッフの関係のように考えたらいいんです。ミック・ジャガーだと思えば、ちょっとくらいわがままを言われても「まあ、聞いたろか」と思えるでしょう。相手の理解の仕方を少し変えることでしか、チームは維持できないのです。
相手は違う人間ですから、思い通りにならないのが前提です。その上で、どうやってチームとしてやっていくかを考えるしかない。そこに答えはありません。なぜなら、家庭によって全部違うから。だから「我が家流」でいいと思います。「うちはミック・ジャガーでもロバーツ監督でもない、じゃあ誰に例えるとしっくりくるかな?」そんなふうに考えながら、少しでも楽しむ余裕を持てるといいと思います。
質問は不登校支援の立場として何ができるか、でしたね。お母さんに対して、今のようなお話をしてあげるといいと思います。お父さんというのは、すごくプライドが高いものです。学校の面談などではスッとした顔をして「わかりました」と言って帰るんですが、家に帰ってから一気にストレスが爆発してしまう。そのはけ口が、お母さんに向いてしまうこともあります。お母さんも、家庭内のそうした“ブラックな部分”は他人に言えません。だからこそ、支援者はそこまで見通して支援しなければいけないと思います。
支援者の言葉が、そのあと家族や子どもにどう影響するか。それを考えながら関わらないと、間違った方向に進んでしまうこともあります。もし「ここは怖いな」「これ以上は踏み込めないな」と思ったら、そこは触れないでいいと思います。
お母さんの愚痴を聞く。ときにはお父さんの愚痴を聞く。具体的な支援をしていないように見えても、それが実は大きな解決につながることがあります。なぜなら、話してスッキリするだけで、みんな少し元気になって帰れるから。その「気持ちよく帰れる」ということが、家庭の安心・安全につながるのだと思います。
●池添素さんの言葉
「家族というチームを維持していくためには、夫のことは“ミック・ジャガーだと思う”くらいの気持ちでいることが大切です。支援者は、親の愚痴を聞くことで、そこから解決につながることもあります」
◇12月11日(木)公開予定の第9回では、「ゲーム中心に生活している子ども、どうしたら救い出せる?」という質問に池添さんが答えます。