「竹内涼真がハマり役すぎる!」
「勝男と鮎美が笑い合ってる姿を見るだけで泣ける……」
「私だったらどうしていた? と考えたくなるし、登場人物みんなが好きになる作品」
「もう最終回、寂しい……。すでにロスかも」
こんな声がSNSに溢れているTBS火曜ドラマ『じゃあ、あんたが作ってみろよ』が12月9日(火)に最終回を迎える。TVerの再生数は、平均視聴率19.9%を超えたTBS日曜劇場『VIVANT』を抜いて、TBSドラマ史上最高記録を更新した。12月2日放送の第9話では、勝男(竹内涼真)が会社を出勤停止になる原因となった「おにハラ(おにぎりハラスメント)」がトレンド入りするなど、大きな話題となっている。
そんなドラマに「ハマっている!」というのが、漫画家・小説家の折原みとさん。ドラマフリークで、毎シーズン、新しいドラマが始まるとチェックを欠かさない。
FRaUwebで連載中の「折原みとの『60代おひとりさまの本音』」では、折原さんが、60代バツなしおひとりさまになるまでと、現在のリアルを綴っている。連載第8回では、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』について、その魅力を言語化する。変わっていく勝男と鮎美(夏帆)を前に、折原さんが抱いた思いとは。
「男らしさ」「女らしさ」の正体って?
今期、ハマっているドラマのひとつ、『じゃあ、あんたが作ってみろよ』。
「料理は女性がするもの」
「家で料理を作って愛する人の帰りを待つのが女の幸せ」
なんていう、超保守的なジェンダー観を持つ「化石男」が主人公の、このドラマ。
「いるいる! こういう男」「わかるわかる!」と、うなずきながら観ている女性も多いのではないだろうか。
令和の時代になっても、「昭和の価値観」は、人の心に根強く残っている。
「男らしさ」「女らしさ」という決めつけや呪縛。その正体は何なのか?
そこから解放されるためには、どうすればいいのか?
今回は、そんなことを考えさせてくれる、このドラマについて語ってみたい。
ナチュラルモラハラ男「勝男」
まずは、ドラマを観ていない方たちのために、ざっくりあらすじを紹介しよう。
海老原勝男(竹内涼真さん)は、イケメン、高身長のエリートサラリーマン。
都内のおしゃれマンションに住み、仕事も充実。順風満帆、完璧な人生を送っている。
同棲中の恋人、山岸鮎美(夏帆さん)は、企業の顔とも言える受付嬢を務める、清楚な美人。
ふたりは、故郷、大分の大学時代から交際していて、「パーフェクトカップル」と呼ばれていた。
勝男のために毎日料理を作り、彼の帰宅時には、跪いてスリッパを出す鮎美。
勝男は、そんな関係が当たり前だと思っていて、鮎美の料理に、無神経なダメ出しをしたりする。
そんな勝男に従順に尽くしていた鮎美だが、ある日とうとう、我慢の限界に!
プロポーズを断って、彼の元を去ってしまった。
鮎美との幸せな未来を疑ったこともなかった勝男にとっては、青天の霹靂。
完璧な人生は一変し、そこから「化石男」の苦難と奮闘の日々が始まる。
……というストーリーだ。
この主人公の勝男が、最初の頃は、まあ酷い!!
「男が朝から料理するわけないだろ」
「お前の彼女、料理作ってくれないの?」
なんて言って、会社の後輩をドン引きさせたり。
鮎美が作った料理に、
「全体的におかずが茶色すぎる。もうちょっと彩りを入れたほうがいい」
なんて、上から目線の注文をつけたり。
まさに、「じゃあ、あんたが作ってみろよ!」と言いたくなるような、ナチュラルなモラハラ男なのだ。
「料理を作る」ことで変わる勝男
でも、そんな勝男の世界は、鮎美に振られた途端に一変する。
合コンに行けば、女性に料理のとりわけを要求し、場を凍り付かせる。
逆ナンしてきた女の子たちに、
「家庭料理の基本は和食だから、筑前煮とか作れるようになったほうがいい」
と、言って、逃げられてしまったりするのだ。
かつてはモテモテだったはずなのに、いつの間にか、周囲の反応が変わっていることに気づいて、愕然とする勝男。
しかし、
「自分で筑前煮を作ってみれば、元カノの気持ちがわかるんじゃないですか?」という後輩女子の言葉をきっかけに、料理にチャレンジするようになる。
そして、モラハラ自己中化石男は、少しずつ変わり始めるのだ。
初めてのことに悪戦苦闘し、失敗し、腹を立て、一度は投げ出したりしながらも、懸命に料理に取り組んでいくうちに、勝男は、当たり前のように思っていた鮎美の自分への献身が、どれほどありがたいものだったかに気づく。
勝男は、根は悪い人間じゃない。
他人の気持ちに鈍感で「オレさま」な所もあるが、実は、素直で純粋。
鮎美のことも、ちゃんと心から愛していたのだ。
竹内涼真さんの演技に心掴まれる!
未練たらたらな勝男は、別れても鮎美のことを思い続け、他の男と付き合い始めた彼女を、影からこっそり見守ったり、励ましたり。
最初は身勝手で自信過剰で鼻持ちならない男だと思っていた勝男が、だんだん可愛く見えてきて、応援したくなってしまう。
それは、脚本や演出の上手さももちろんだが、主人公を演じる竹内涼真さんの魅力によるところも大きいだろう。
長身の彼がキッチンに立って料理をしている姿は、それだけで絵になるし、そのかっこよさとは正反対の不器用さや、情けなさが、またツボなのだ。
こんなにコメディーも似合う役者さんだとは知らなかった!
一見オラオラ系のように見えるのに、実は一途で優しい勝男のキャラクターは、竹内さんの個性にぴったりのように思える。
特に、「泣き」の演技がいい!
勝男は、以外にも涙もろい男だ。
男らしさにこだわっているわりには、結構よく泣く。
何度か出てくる「泣き」のシーンの中でも、必見なのは第3話だ。
マッチングアプリで出会ったバリキャリ美女の椿(中条あやみさん)に、自宅でおでんを振る舞うものの、前日から心を込めて作ったおでんに対して、椿の反応は冷たい。
がっかりして腹を立てる勝男だが、そんな椿の態度は、かつての「自分」だということに、はたと気づく。
鮎美の気持ちを想像することもなく、せっかく作ってくれた料理に、偉そうに文句をつけていた自分。
そうやって、知らないうちに、彼女の気持ちを踏みつけていたことに気づいた瞬間、勝男の目から涙が吹き出した。
声を詰まらせ、子供みたいに泣きじゃくる、元オレさま男。
そのギャップの可愛さと、まるで素のままようなマジ泣き!
この号泣シーンで、完全に心を鷲掴みにされてしまった。
竹内涼真さんは、これまでも、いくつものドラマに出演し、若手人気俳優としての地位を確立しているが、今回のこの役は、間違いなくハマり役!
彼の代表作になるのではないだろうか。
勝男と鮎美を縛っていたものは何?
ところで、勝男の元カノ、鮎美だが、彼女は彼女で、様々な背景と思いを抱えている。
控えめで、清楚で、可愛らしく、男ウケは抜群。
「耳の下で揺れるピアスを利用して、全男性を催眠術にかける」とまで同僚に言わしめる、完璧な女、鮎美!
しかし、その完璧な「理想の女性像」は、子供の頃からの努力と計算によって作られたものだった。
両親が不仲で、母親の愚痴ばかり聞いて育った鮎美は、安定した結婚と人生を手に入れたいと願っていた。
条件の良い男性から選ばれるために努力し、「どうしたら男性に好かれるか」ばかり考えて、他人に合わせ、自我を殺して生きてきた。
そのうちに、「自分自身が何をしたいのか」が、わからなくなってしまっていたのだ。
このドラマでは、「男らしさ」に縛られていた勝男の変化と、「女らしさ」に固執していた鮎美の自立が、並行して描かれていく。
では、彼らを捉えていた「呪縛」は、そもそもどこから生まれていたのだろうか?
物語の後半に、2人が実家の大分に帰省するエピソードが出てくる。
勝男の父は、建設会社の社長。
亭主関白で高圧的、典型的な「昭和の親父」。
勝男は、そんな父親の姿を見て育ち、無意識に父親の真似をしていたのだ。
令和の時代になっても変わらない「価値観」というものは、結局、親から子へ。世代を超えて脈々と受け継がれてきたものなのではないだろうか?
親に限らず、世間からも。「常識」や「慣習」として伝えられてきた「呪い」が、今でも時に、私たちを縛りつけることがある。
最近では、それらを払拭しようという社会的な取り組みも行われているようだが、人の心は、そう簡単に変えられるものではないだろう。
『じゃあ、あんたが作ってみろよ』が教えてくれること
実は私自身も、時々、「男のくせに」とか「男らしくない」とか、思ってしまうことがある。
自分も「女のくせに」と言われたらムッとするし、そういう考え方はしたくないと意識しているのに。
やはり心の底には、未だにそういう観念が染み付いているのだろう。
長い年月をかけて醸成されてきた「固定観念」を変えるのは、容易なことではない。
だが、希望はあるはずだ。
それを変えていく「鍵」は、何なのだろうか?
このドラマは、私たちにそれを提示しようとしてくれているのかもしれない。
昭和の化石のようだった勝男は、料理を始めたことがきっかけで、新しい世界を広げ、自分の心の扉を開いていく。
人生の幸せは、結婚する相手によって決まると信じていた鮎美は、自分の人生を、自分の力で選んで生きていこうと決心する。
「決めつけないこと」
「相手を思いやること」
「自分の気持ちを、ちゃんと相手に伝えること」
このドラマには、人と人とが心を通わせ、一緒に生きていくために大切なことが、たくさんちりばめられている。
笑って泣いて、キュンとしながら、そのメッセージを受け取ってみて欲しい。
『じゃあ、あんたが作ってみろよ』は、12月9日が最終回。
かつては、「化石男」と「忍耐女」だったふたりが、お互いの変化を認めあい、どんな結末を迎えるのか。どんな未来を歩き出すのか……。
楽しみにしている!