寒さが厳しくなってきたこの時期、腎臓の負担は最高潮に達する。正しいケアの方法を知らなければ、最悪の場合、待ち受けているのは人工透析だ。
前編記事『冬は腎臓に大ダメージ…健康を左右する「3つの数値」が軒並み悪化する季節なワケ』に続き、冬の腎臓の「守り方」を名医に聞いた。
坂本昌也(さかもと・まさや)/国際医療福祉大学三田病院糖尿病・代謝・内分泌内科教授。東京慈恵会医科大学医学部卒。専門は糖尿病や高血圧など。日本糖尿病学会認定指導医・糖尿病専門医、日本高血圧学会認定指導医・高血圧専門医ほか。著書に『世界中の研究結果を調べてわかった! 糖尿病改善のルール』などがある
夜にカレーを食べてはいけない理由
腎臓を守るために、まずは冬でも意識的に水分を摂るようにしてください。水分不足が血糖値を上昇させるのは説明した通りですが、加えて体内で水分が不足すると、腎臓に流れる血液が減って十分にろ過できなくなり、負担が大きくなってしまいます。
目標は可能ならば、ふだん飲む量に、1日ペットボトル1本、つまり500mlを追加することです。多いと思うかもしれませんが、朝起き抜けと昼食時にコップ1杯を余分に飲めばいいだけ。夜に飲むと頻尿を招くこともあるので、日中に飲んでおきましょう。
毎日血圧を測るだけでも、高血圧には効果的な対策になります。日々の体の状態を数字で確かめることで、自然と生活習慣を改善する意欲が湧いてくるものです。
ただし中には、毎回血圧計のバンドを腕に巻くのが面倒くさくて、途中で挫折してしまう人も少なくありません。毎日やるルーティーンだからこそ、工程を簡単にして心理的なハードルを下げるのが効果的です。具体的には病院で使うような、腕を入れると自動で測定してくれるタイプの血圧計を買うこと。最近は安価で売られていますから、無理せずラクに測れる機械を使いましょう。
食生活においては、もちろん高血圧の原因となる塩分を抑えるのが大事ですが、実際のところ自力でコントロールするのは難しい。2023年の「国民健康・栄養調査」によると、日本人の1日の食塩摂取量は男性10.7g、女性9.1gで、WHOが定める国際基準のおよそ2倍です。
みそ汁や漬物など、塩は日本人の食文化の基盤になっています。そのため「減塩=我慢」という感覚が強くて、途中で挫折してしまう人も少なくない。減らすに越したことはないですが、無理する必要はありません。
むしろ脂質のほうが、目に見えやすい分簡単にセーブできます。糖尿病にとって最悪なメニューは、「炭水化物+炭水化物+脂っこいもの」というメニュー。典型例はご飯に脂っこいルーをかけて、さらに肉やジャガイモが入ったカレーライスです。夕食に食べると血糖値が一気に跳ね上がり、脂質の影響でその状態が翌朝まで続いてしまうので、食べたいときは翌日の昼食まで待ってください。
クスリの「副作用」が腎臓を守る?
生活習慣を改善するのは大事ですが、そういった努力は決して「クスリの代わり」にはなりません。糖尿病も高血圧も、症状が重くなってくれば、クスリに頼るのをためらうべきではないでしょう。
選び方によっては腎臓にメリットもあります。たとえば、常用している人も多い降圧剤のレニベースやタナトリルといったACE阻害薬、あるいはアジルバやオルメテックなどのARBは、血圧を下げるとともに腎臓の負担を減らし、腎不全の進行を防いでくれます。
同じくアムロジンをはじめとしたカルシウム拮抗薬も、血圧を下げるだけでなく腎臓を保護する作用がある。近年ではミネブロなど、腎臓を守る働きがある血圧のクスリ・MRAも出てきました。状態によってはクスリの選び方次第で血圧と腎機能のどちらも改善できるのです。
数年前にアメリカ循環器学会が、「CKMS(心血管・腎臓メタボリックシンドローム)」という概念を提唱しました。糖尿病や肥満といった要因が、心筋梗塞や脳卒中、腎臓病などをもたらすことから、それらをまとめて一つの疾患と捉える新しい考え方です。
生活習慣が大きく影響する一方で、腎臓は体内で2つがカバーし合って働くため、悪化しても影響が表れにくい。肝臓と合わせて「沈黙の臓器」とも呼ばれる腎臓だからこそ、この冬からケアしてあげることが「肝腎」なのです。
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「週刊現代」2025年12月8日号より