寒さが厳しくなってきたこの時期、腎臓の負担は最高潮に達する。正しいケアの方法を知らなければ、最悪の場合、待ち受けているのは人工透析だ。冬の腎臓の「守り方」を名医に聞いた。
坂本昌也(さかもと・まさや)/国際医療福祉大学三田病院糖尿病・代謝・内分泌内科教授。東京慈恵会医科大学医学部卒。専門は糖尿病や高血圧など。日本糖尿病学会認定指導医・糖尿病専門医、日本高血圧学会認定指導医・高血圧専門医ほか。著書に『世界中の研究結果を調べてわかった! 糖尿病改善のルール』などがある
健康の指標「ABC」は冬に悪化する
今年の夏は40℃超えも珍しくない酷暑でしたが、12月からは一転して厳しい寒さがやってくると予想されています。実は人間の体内環境は、気温の変化に大きく左右されるのですが、意識して暮らしている人はそう多くないでしょう。
夏場と比べて、冬は血糖値や血圧、悪玉コレステロールなどの数値が上昇する傾向があります。血糖の平均値を示すヘモグロビンA1c、血圧(Blood Pressure)、悪玉コレステロール(LDL Cholesterol)を合わせた「ABC」が、まとめて悪化してしまう季節なんです。
諸説ありますが、メカニズムはこうです。
気温が下がると、体から熱を逃がさないように血管が収縮するため、血圧が上がります。同じく寒さによって、緊張・興奮を司る交感神経が刺激されると、血糖値を上げるホルモンも分泌されやすくなる。また冬は交感神経が優位な状態が続くため、ホルモンバランスが変動し、中性脂肪や悪玉コレステロールも上昇しやすくなるのです。
こうした生理的な条件に加えて、冬場の生活習慣も拍車をかけます。
冬は空気が乾燥して体内の水分量が減りやすくなるものの、夏場よりも水分補給の頻度が下がります。そのため血液が濃くなって、相対的に血糖値が高くなります。そのうえインフルエンザなどの感染症にかかれば、より深刻な脱水状態に陥ることもある。
さらに忘年会などで暴飲暴食する機会が増えますし、鍋物を食べると塩辛いスープまで飲みたくなるので、どうしても塩分摂取量が多くなります。また冬は寒くて日照時間が短いため、一般的に睡眠の質が落ちるのも、ABCを悪化させると考えられます。
1回の健康診断だけで判断してはいけない
これらが要因となって、冬場は高血圧や糖尿病が悪化していきますが、最終的にその「ツケ」を払うのが、体内で老廃物の排出を担っている腎臓なのです。
高血圧は腎臓の血管を傷つけて腎機能を低下させますし、高血糖が引き起こす糖尿病も、糖尿病性腎症を招きます。また悪玉コレステロールに関しては、脂質異常症が腎臓の糸球体を傷つけ、腎機能の低下が症状をさらに悪化させてしまう。
日本高血圧学会はじめ各学会が作成したガイドラインでは、血圧や血糖値などの目標値が定められていて、それを意識しながら生活している人もいるでしょう。ところがABCのどれか1つは基準値を守れていても、冬に3つすべて守れている人は2割にも満たない。健康に暮らしているつもりでも、どこかで見落としがあるわけです。
冬場には、腎臓にあらゆる負担が集中し、いわば「過労」に陥ってしまいます。この点をしっかり理解することこそ、冬の腎臓ケアの第一歩だと言えるでしょう。
まずは自分の腎臓の「現在地」を把握するところから始めてください。具体的には、健康診断の結果の「eGFR」の数値を見てみましょう。これは腎臓がどの程度のろ過能力を持っているか推定した数字で、90以上が正常値。60を下回ると「慢性腎臓病」だと診断されます。
ただし1回の結果だけを見て、一喜一憂してはいけません。数回分のデータを並べて、その変化の傾きをチェックするのが重要です。人間は20代から腎機能が落ちていくので、eGFRの数値も下がって当たり前。私たちは「eGFRスロープ」と呼んでいますが、その幅をいかに緩やかにするかがポイントなのです。
後編記事『冬に大ダメージな「腎臓」を守る「驚きの方法」があった…! 専門家が解説する健康法』へ続く。
「週刊現代」2025年12月8日号より