算数分野の最高峰「算数オリンピック」で多くのメダリストを輩出してきた田邉亨氏(りんご塾代表)は、「勉強に集中するには、人間関係がシンプルなほうがいい」と言う。従って彼は、子どもが学習に没頭できるよう、保護者は余計なことを言わず、可能なかぎり後景に退いて、と提案する。自らの半生から導き出された教訓を、田邉氏の新刊『本物の算数力の育て方』から抜粋・再編集してお届けする。
田邉氏の新刊『本物の算数力の育て方 子どもが熱中する「りんご塾」の教育法』は書店・ネット書店で好評発売中!
前編記事『塾で友達はつくらないほうがいい! カリスマ塾講師が教室の人間関係をあえて「希薄」にする深いワケ』より続く。
マウントや他の子との比較は厳禁
さくらももこ先生の『ちびまる子ちゃん』では、まる子とお姉ちゃんが部屋を共有していたが、そんな感じできょうだい同士がすぐ近くで勉強している、なんて家があるかもしれない。そういう場合は、マウントの取り合いにならないように気を配ってあげることをおすすめしたい。
学力別にクラスわけをして集団指導を行っている学習塾でたまにあるのだが、隣に座っている子のテキストをのぞき込んで、
「まだそこやってんの? オレはもうここまで進んだよ」
なんて自慢を始める生徒がときどきいる。この言葉は、言われた子どものやる気を著しく削いでしまう。そんなことが起こらないよう、おのおの別の場所で勉強させるか、衝立(ついたて)などで仕切りを設けられないか検討したほうがいいと思う。
言うまでもないが、大人が「〇〇くんは、ここまで進んだのに」と、他の子と比べるようなことを言ってはいけない。親に比較されるのは、子どもの心を最も深く傷つけるからだ。絶対にやめておいて欲しい。
ただし、子ども同士で一緒に勉強させてはダメだ、と言うつもりはない。たとえば勉強熱心で集中して取り組める子がいると、その熱にあてられるのか、近くに座っている別の子も熱心に学ぶようになることがある。
「りんご塾」では、算数が大好きでメダル獲得を本気で目指している小学生と、未就学のやんちゃな幼児をあえて一緒の席にして、先生ひとりで指導にあたることもある。それで勉強になるのかというと、まったく問題ないのだから面白い。
小学生は何をすればいいかわかっていて勉強に打ち込んでいるから、自分でどんどん問題を解き、マルをつけて先に進む。ときどき質問が出るが、こまごまと世話を焼く必要がないので、先生は幼児の指導に集中できる。きょうだい児がいる家では、こういう組み合わせの妙が生まれないか、試してみるのもいいかもしれない。
「サードプレイス」を見つけておく
ここまでは家で学ぶことを想定して書いてきたが、僕は必ずしも勉強を家でする必要はないと思っている。自宅は「ただひたすらリラックスする場所」としてとっておき、それ以外のところ─喫茶店、カフェ、ファストフードのチェーン店、図書館、そして塾など─で勉強するのもおすすめだ。
職場でも家でもない、それなりに気持ちよく過ごせる第三の居場所を「サードプレイス」と呼ぶが、「学びのサードプレイス」があれば、子どもも学習がはかどるかもしれない。生徒数が増え、多忙になったいまはやめてしまったが、昔「りんご塾」がまだ街の小さな塾だったころは、学校のテスト前に生徒たちと「勉強合宿」をするのが恒例だった。
合宿といっても泊まり込むわけではなく、休日に朝早く塾に来て、夜遅めの時間まで勉強し、それから帰る、というのを2日間やるだけだ。そのときには、子どもたちを近所のファストフード店へ連れていき、僕の奢り(おごり)でお昼を食べながら勉強したりもしていた。
あえて飲食とのケジメをつけず、ダラダラと勉強する。場所の変化がプラスに作用するのか、みんないつもより長い時間、学びに没頭していた記憶がある。ときにはこの合宿に似たようなことを、家庭などで試してみるのも面白いと思う。
ただし、最近はカフェに長居したり、テーブルにゴミを残していったりする客が問題になっているから、店舗や施設に迷惑をかけないよう、よく気をつけなければいけない。その意味では、飲食店よりも、子どもが安心して利用できる自習スペースやフリースクール、あるいは塾などを探したほうが早いかもしれない。
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