毎年強くなる紫外線。もはや男女ともにスキンケアが重要な時代に――。
ところが、日本の小中学校では、歯磨きや食事の大切さは教えても、残念ながら、スキンケアの重要性は教えてはくれません。じつに中学生の8割以上が「肌」について何らかの悩みを持っているという調査もあるのに、です。
なぜ、日焼け対策に日焼け止め(サンスクリーン)を塗るのでしょう。
スキンケア化粧品の中に入っている成分は実際にどのような効果があるのでしょうか。
そういったことを知識として知っておくと、科学的に正しいスキンケアが可能になります。たとえば紫外線は、「老化の最大の敵」とされていますが、そのメカニズムをご存じでしょうか?
*本記事は、『スキンケアの科学 科学的に正しい皮膚の話』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。1
外因性老化「最大の敵」
太陽光は電磁波です。電磁波はその波長によってエネルギーも性質も異なります。太陽光の電磁波の波長範囲はおよそ200~2500nmです(1nmは10⁻⁹m)。このうち、私たちが色として感じる電磁波は可視光線と呼ばれ、その波長はおよそ400~780nmの領域にあります。
波長が780nm以上の電磁波は、可視光線の赤の色より波長が長いことから赤外線と呼ばれます。波長が400nm以上の電磁波は太陽光からの電磁波の強度であれば、人体には影響を与えません。
一方、波長が400nm以下の電磁波は可視光線の紫の光より短い波長を持つことから、紫外線と呼ばれます。電磁波は波長が短いほどエネルギーが高く、波長の短い紫外線は人体に有害です。
紫外線は基本的に生物に有害で、殺菌などに用いられます。紫外線は波長が280nm以下のUVC、波長が280~315nmのUVB、そして波長が315~400nmのUVAに分類されます。波長がもっとも短いUVCはもっともエネルギーが高く、人体にとってももっとも危険ですが、幸いなことに地球上空にあるオゾン層で吸収されてしまうので、地上には届きません。
従って、UVBとUVAが日焼けの原因になり、肌の老化、すなわち「光老化」を引き起こします。外因性老化の中で「光老化」はもっとも大きな原因であることが分かっています。肌に当たる太陽光を効果的に遮断することは、スキンケアの中でもっとも重要です。
わずかでも、表皮に強い炎症を起こすUVB
さて波長がより短いUVBの大部分は大気圏で吸収されますが、吸収しきれなかったUVBは地上に届きます。
UVBは肌の表皮でほとんど吸収されるため真皮までは届きません。しかし、エネルギーが高いので、表皮に強い炎症を起こします。少量でも日焼けを起こす力はUVAよりずっと強力です(500倍以上)。
また、UVBは細胞の核の中にあるDNAに直接損傷を与え、突然変異を起こし、皮膚がん発生の原因にもなります。UVBは皮膚が赤くなる日焼け(サンバーン)を起こします。「日焼け」とは実質的には「やけど」と同じことです。
コラーゲンやエラスチンを変性・損傷させるUVA
地球上に降り注ぐ紫外線のおおよそ95%を占めるUVAは少し波長が長いので、皮膚の真皮にまで深く届き、真皮にある細胞外マトリクスであるコラーゲンやエラスチンを変性・損傷します。かつてUVAはDNAには損傷を与えず、皮膚がんの原因にはならないと考えられていましたが、間接的なルートでやはりDNAは損傷されるため、皮膚がんの原因の1つです。
UVAを浴びると皮膚は直ちに灰褐色になります。これは「即時黒化」と呼ばれる現象で、皮膚が黒くなる日焼けのことを「サンタン」と呼びます。色が黒くなる(サンタン)のは、DNAを含め、皮膚に損傷を与えた結果であるということに注意してください。皮膚にまったく損傷を与えずに、小麦色に焼くことはできないのです。
皮膚が黒くなる変化は、UVAが皮膚にある色素のメラニンを酸化することで起こります。UVAはさらに表皮の基底層に存在するメラノサイトというメラニンを合成する細胞を活性化し、メラニンの生産量を増やします。実はメラニンは紫外線を吸収して細胞を守る働きをします。つまり紫外線を浴びた私たちの皮膚の細胞は紫外線を吸収し、体を守るためにメラニンを生産するのです。
UVA吸収による「即時黒化」は数時間後には消失しますが、浴びるUVAの量が多いと、皮膚は赤褐色に変わり、赤みのある炎症に進みます。これを「紫外線紅斑」(サンバーン)と呼びます。この「紫外線紅斑」を用いて日焼け止め(サンスクリーン)の機能評価を行います。
UVAによって受ける皮膚の影響
即時黒化(サンタン):灰褐色 → 紫外線紅斑(サンバーン):赤褐色
UVBでも起こる「紫外線紅斑」
「紫外線紅斑」はUVBでも起こります。通常は紫外線を浴びてから24時間後に最大になり、その後次第に消えます。この「紫外線紅斑」が消える頃に、皮膚は黒くなります。これがいわゆる「日焼け」の状態です。
UVBの吸収によってもメラノサイトは活性化され、メラニンが多く作られます。メラニンはさらにその周囲の角化細胞に色素の沈着を起こし、黒っぽい色になります。メラニンを含んだこれらの角化細胞は紫外線を吸収できるため、皮膚への紫外線の侵入を防ぐ役目を果たします。
またヒスチジンというアミノ酸の一種の分解や、表皮の顆粒層でフィラグリンというタンパク質から作られるウロカニン酸という分子も角層で紫外線を吸収して、体を守る働きをします。図にメラニンとウロカニン酸の化学構造を示しました(図「メラニンとウロカニン酸の化学構造」)。
メラニンは、アミノ酸の一種であるチロシンから作られるインドール-5, 6-キノンという分子が複数結合した(重合した)複雑な構造を持っています。
一方、ウロカニン酸は図のようにすっきりした構造を持つ分子です。
このようにUVAやUVBといった紫外線は最大の「お肌の敵」です。しかし、全く浴びないというわけにもいきませんし、じつは紫外線にも体の健康維持に大きな役目をになっているのです。
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記事中に出てきた「紫外線がどのようにしてDNAに損傷を与えるのか」については、『スキンケアの科学』で丁寧に説明しています。不安を覚えた方、ぜひその目でお確かめください。
さて、続いては、こんな恐ろしい影響を与える「紫外線の量が、近年増加している」という、ショッキングな事実をご紹介します。
スキンケアの科学 科学的に正しい皮膚の話
毎年強くなる紫外線。もはや男女ともにスキンケアが重要な時代に。 ベテラン化学者が科学的に記述した 「本当に正しいスキンケア」。化学成分の働きを知ることで 「本当に良いスキンケア」がわかる!