毎年強くなる紫外線。もはや男女ともにスキンケアが重要な時代に――。
ところが、日本の小中学校では、歯磨きや食事の大切さは教えても、残念ながら、スキンケアの重要性は教えてはくれません。じつに中学生の8割以上が「肌」について何らかの悩みを持っているという調査もあるのに、です。
なぜ、日焼け対策に日焼け止め(サンスクリーン)を塗るのでしょう。
スキンケア化粧品の中に入っている成分は実際にどのような効果があるのでしょうか。
そういったことを知識として知っておくと、科学的に正しいスキンケアが可能になります。
たとえばコラーゲンやヒアルロン酸といった、化粧品のCMやドラッグストアの宣伝などでよく見かける成分にはどんなはたらきがあるのでしょうか?
*本記事は、『スキンケアの科学 科学的に正しい皮膚の話』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
そもそも「皮膚の老化」とは
「25才はお肌の曲り角」というキャッチフレーズがメディアに登場したのは昭和38年、1963年のことです。ある化粧品メーカーの広告に現れたフレーズです。「25才からの若奥さまのクリーム」の宣伝文句でした。
ちょうど日本の高度経済成長期の真っ只中、貧しさから少しずつ抜け出して、人々が化粧品にもある程度のお金を使える時代になった頃です。このキャッチフレーズには、
最新のヒフ医学や美容科学で立証されているように 女性のお肌は25才をすぎるころから急に若さを失いはじめ 小ジワ 肌あれなどの老化現象が顔を出しはじめます
という恐ろしげな文章が付いていました。
実際、肌のふっくら感やハリに貢献する皮脂量は、女性では20代がピークで、それ以降は急激に減っていきます。また文字どおり肌にみずみずしさを与える水分量は年齢と共に直線的に低下すると言われています。
「老化」というのは少々大げさに響きますが、少なくとも女性の場合、25歳前後をピークとして肌の皮脂量や水分量が減っていくことは事実です。残念ながら、肌の状態はこのあたりの年齢をピークに悪いほうに向かっていきます。
自然に起こるのでどうしようもないことですが、この「自然老化」は環境要因によって加速します。環境要因の中でももっとも影響が大きいのが紫外線です。このことについては後で少し詳しく触れることにします。
表皮の構造は、年齢と共にどう変化するのか
表皮の構造が年齢と共にどう変化するのか、簡単に見てみましょう。
すでに述べたように、表皮細胞はターンオーバーすることで常に新しい細胞が皮膚上層に押し上げられています。ところが年齢と共にターンオーバーは遅くなり、それに伴い角層細胞は大きくなり、角層は厚くなります。また真皮の上部にある乳頭層の凸凹が少なくなるため、皮膚の皮丘と皮溝のメリハリが少なくなり、皮膚のキメが不均一かつ平坦になります(図「加齢による表皮構造の変化」)。
加齢と共に体内にある多くの細胞の機能が低下します。真皮にあり、コラーゲンを産生する線維芽細胞も例外ではありません。
また図「線維芽細胞の数の変化」に示すように、線維芽細胞の数自体も年齢と共に減少していきます。
図「コラーゲン量の変化」に、年齢と共に変化する皮膚内のコラーゲン量の変化を示しました。コラーゲンの量は20代中頃までは増加しますが、それ以降は減少し続けることが分かります。またコラーゲンは年齢と共に分解されるので、コラーゲン線維も短くなっていき、強度が低下してきます。
従って真皮の主成分であり、肌のハリと強度を維持する上でもっとも重要なコラーゲンの量も加齢と共に減少し、それに伴い真皮は薄くなり、ハリや強度が低下することになります。
最初に注意すべきは生活習慣
■ 皮膚に伸縮性を与える「エラスチン」…補充されないばかりか、機能も低下する
コラーゲンと共に真皮の中にあって、皮膚に伸縮性を与え、皮膚の柔軟性に大きく貢献しているエラスチンも量・質共に、加齢と共に低下します。コラーゲンと異なりエラスチンは非常に長い寿命を持つので、若い頃に作られたエラスチンはほとんど補われません。
従って、皮膚が繰り返し伸縮することで起こる物理的な傷みや、紫外線などの外界からの悪影響により、加齢と共に次第にその量も機能も失われていきます。
図「エラスチン量の変化」に示すように、25~27歳でピークを迎えるエラスチンの量はその後、急激に低下し、40歳になる頃にはかなり失われてしまいます。まさに「25才はお肌の曲り角」です。エラスチンは再生が難しいので、エラスチン減少に対するスキンケアでは、エラスチンの保護(大事にする)に重点が置かれています。
■ 真皮の弾力やまさにみずみずしさに関係する「ヒアルロン酸」…年齢と共に減少する
真皮の弾力やまさにみずみずしさを保つ上で重要な細胞外マトリクスがヒアルロン酸でした。コラーゲンやエラスチンと同じく真皮に存在する、この重要なヒアルロン酸の量もやはり年齢と共に減少します。
図「ヒアルロン酸量の変化」に示すように、生まれてすぐにもう減少は始まり、青年期にも減り続けます。70歳代では、19~47歳の青年・壮年期に比べ、その量は50分の1近くまで減少してしまいます。
■ 角層の表面を乾燥から保護する皮脂…50歳を過ぎる男女間の差が拡大
皮脂腺から分泌される皮脂は角層の表面を乾燥から保護しています。
図「分泌される皮脂の変化」に示すように、女性では、皮膚で作られる皮脂の量が50歳あたりからかなり減少します。一方、男性の場合は、結構高齢になるまで分泌される皮脂の量は変わりません。もともと皮脂は男性では女性より20~50%ほど多く分泌されますが、50歳を過ぎるとさらに男女間の差は大きくなります。
従って、この年齢以降は皮脂に関するスキンケアにおいて男女のあいだで大きな差が出ることになります。
外因性老化を食い止める…注意すべきは生活習慣
ここまで述べてきた老化による現象は、単純に歳を重ねることだけで起こるものです。これを「内因性老化」または「自然老化」といいます。そして、この自然老化は様々な外的な要因で著しく加速されます。
内因性老化を大きく加速する要因には、紫外線、大気汚染、ストレス、食事、喫煙、アルコールそして電離放射線(X線やガンマ線)などがあります。このような外的要因で起こる老化を「外因性老化」と呼びます。「外因性老化」の多くの要因は生活習慣によりますので、私たちはそれらに注意して可能な限り「外因性老化」を最小限に止めることで、体全体の老化や皮膚の老化を最小にすることができます。
スキンケアを効果的に行うためには、まずは老化を促進する外的要因を最小限にする生活習慣が重要です。どんなに高級な化粧品や薬品を使っても、肌の老化を促進する生活習慣を送っている限り、その効果はあまり期待できないと言ってよいと思います。
スキンケアは肌の老化を可能な限り遅らせることを目的とした手段ですので、薬のような治療的な手段というより、予防的な手段です。つまり「老化」してから手当てをするのではなく、「老化」を遅らせる、あるいは「老化」をしにくくするための手段ですから、「老化」の兆しが見える前から行うほうがいいのです。極論すれば、「皮膚にできたシミを除くのが目的ではなく、シミができる前にシミができないように努めるのが目的」です。
老化は色々な形で肌に現れます。肌に現れる形態の変化によって私たちは異なる対策をとる必要があります。
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続いては、「外的老化」の厄介な要因である「紫外線」についての解説をお送りします。
スキンケアの科学 科学的に正しい皮膚の話
毎年強くなる紫外線。もはや男女ともにスキンケアが重要な時代に。 ベテラン化学者が科学的に記述した 「本当に正しいスキンケア」。化学成分の働きを知ることで 「本当に良いスキンケア」がわかる!