出演者発表もポジティブな声は少数
12月が間近に迫り、『第67回 輝く!日本レコード大賞』(TBS系)の各賞が発表。大賞候補となる優秀作品賞、一度きりのチャンスとなる新人賞、歌手最高の栄誉とされる最優秀歌唱賞などの受賞アーティストが明らかになると、ネット上にはさまざまな声が飛び交った。
その1週前には『第76回NHK紅白歌合戦』(NHK総合)の出場歌手も発表。日本の年末を代表する両特番の出演者が発表され、期待感が募っていく……と思いきや、ネット上には一部のアイドルファンを除いて否定的な声が目立っている。
さらに民放各局のテレビマン、芸能事務所スタッフ、テレビ誌記者、芸能記者などと話していても同様。「出演者の顔ぶれに苦しさが表れている」「今年はますます迷走しているかもしれない」「自業自得のところがある」などの厳しい言葉ばかり返ってくる。
言葉の背景を掘り下げていくと、なぜ『紅白』『レコ大』への関心はますます薄れ、権威が落ちているのか、その理由が見えてくる。
ミセスで面目が保たれている状態
一般層だけでなく業界内でも「関心が薄れ、権威が落ちた」と言われる最大の理由は出演者の選考にある。
2010年代から「『紅白』は大物がいなくなった」「『レコ大』は偏りが大きい」などと言われてひさしいが、「オファーを断られる」「そもそも出ないことが前提」というアーティストのほうが多いことが視聴者に気づかれてしまった。
“旬”や“大物”のアーティスト側に選択権があり、しかも「断る」「出ない」ことが前提。実際、今回発表された中で“旬”や“大物”に該当しそうなのは、『紅白』が福山雅治、Mrs.GREEN APPLE、Vaundy、BE:FIRST、あいみょん、MISIA、Perfume、『レコ大』がMrs.GREEN APPLE、BE:FIRST、藤井風、Adoくらいだろうか。
これは業界内だけでなく一般層にも「それ以外の“旬”と“大物”には断られたと思われている」ということ。奇しくも某局のテレビマン、テレビ誌記者、芸能記者が「Mrs.GREEN APPLEが両方に出てくれるからかろうじて面目を保っている」と同じ見解を語っていた。
さらに、STARTO ENTERTAINMENTの“ほぼ不参加”も大きい。『紅白』は旧ジャニーズ事務所時代から多くのグループを選出して盛り上がりにつなげてきたが、創業者の不祥事によって状況が一変。「出演ゼロ」となり、今年はようやくKing & Princeが出演するが、トップの人気を誇るSnow Man、それに続くファンを持つSixTONES、timeleszらも出演しない。
『レコ大』に至っては「長年不参加が当然」という状態であり、「『カウントダウンライブ』や『生配信』を優先させて、むしろ出ないでほしい」というファンが大多数を占めている。STARTOグループのファンにとって『紅白』『レコ大』は関心がないどころか、嫌悪の対象となってしまったと言っていいかもしれない。
「何でもアリ」になった選考基準
“旬”や“大物”の少なさだけでなく、その他の出演者に「なぜ?」「不可解」「出来レース」などとツッコミを入れられることも「権威が落ちた」とみなされる理由の1つ。
ツッコミを入れられてしまう最たるところは、『紅白』がK-POP勢とグループアイドルの多さと昭和歌手の唐突な復活、『レコ大』が芸能事務所とレコード会社のあからさまな思惑。どちらもSNSに「ゴリ押し」「安易」「苦肉の策」「お金のにおい」などの辛らつなツッコミが容赦なく書き込まれている。
そんなツッコミの根底にあるのは選考基準のあいまいさ。売上の枚数や金額、ファン投票、音楽番組への出演数(局への貢献度)などの具体的な数字がない上に、「局地的な盛り上がり」「好き嫌いの差が激しい」「事務所がプッシュしている」アーティストが選出されることへの不信が感じられる。
今回の発表でそんなツッコミが最も多かったのは、『紅白』がILLITとaespaのK-POP勢、FRUITS ZIPPERとCANDY TUNEのKAWAII LAB.勢。局地的な人気はトップクラスながら「知らない」「嫌い」「出るなら見ない」などと書かれる一因となっていた。
一方、『レコ大』への不信は「大賞大本命」のMrs.GREEN APPLEと並び競う形で、ILLIT、M!LK、アイナ・ジ・エンド、FRUITS ZIPPER、CANDY TUNE、新浜レオン、純烈らが候補にあげられたこと。他局のテレビマンは「ミセスが大賞でなければ『レコ大』が終わってしまいそうな候補者」とまで言っていたが、それは一般層のほうが感じていることかもしれない。
さらに『レコ大』に向けられたツッコミで象徴的だったのは新人賞の顔ぶれ。今年デビューの本命・HANAは当然として、昨夏デビューのCUTIE STREETとBOYNEXTDOOR(日本デビュー)は新人なのか。SHOW-WA&MATSURIに至っては別グループの抱き合わせノミネートであり、デビュー時期もSHOW-WAが昨年9月、MATSURIが今年1月と異なる。
かつては「前年11月~当年10月デビュー」などの選考基準が視聴者にも浸透していたが、今回のような選出は「大手レーベルなら何でもアリ」などのツッコミが入るようになった背景の1つだろう。
出演者の早期発表と小出しのPR
また、業界内で世間の関心が薄れている理由としてあげられているのが、音楽特番の充実と出演者発表時期の早さ。
毎年年末には、『ベストアーティスト』(日本テレビ系)、『FNS歌謡祭』(フジテレビ系)、『CDTVライブ!ライブ!クリスマススペシャル』(TBS系)、『ミュージックステーション SUPER LIVE』(テレビ朝日系)、『発表!今年イチバン聴いた歌~年間ミュージックアワード2024』(日本テレビ系)などの音楽特番が次々に放送されていく。つまり、『紅白』と『レコ大』は「1か月間多くの音楽特番が生放送されたあと」という不利な環境下であり、以前から存在感が薄れているのも仕方がない感がある。
もともと『紅白』も『レコ大』も出演することが収入や人生が変わるほどの名誉だったことから早めに発表されていたが、他の音楽特番が充実化したことで「その1か月間で存在感が薄れてしまう」という逆境に陥ってしまった。
そのため『紅白』は11月にすべての出演者を発表せず12月にも数回に分けて追加発表するようになっていた。これは「“旬”や“大物”を後出しする」というPR戦略だが、特に一般層からの評判が悪く、冷めた視線を送られがちな一因となっている。
他局のテレビマンに話を聞いても、「現在の視聴者には通用しない方法」「第1弾で発表されたアーティストに失礼」「『交渉を継続していた』がしらじらしい」などと否定的。さらに「『紅白』は小手先に頼らず堂々とPRしたほうがいい」「たとえば本当に歌が上手いアーティストをそろえるなど、われわれの音楽特番とは違うキャスティングで2~3週前くらいに一斉発表でいいのでは」などのアドバイスもあった。
「新たな音楽特番」との比較必至
もう1つ、2010年代後半あたりから一般層の目が厳しくなった理由としてあげられるのが、『紅白』の「男女対抗歌合戦」、『レコ大』の「年間1位を決めるアワード」という特番の形式。「ジェンダーの扱いや1位を決めるやり方が時代に合わない」「悪い意味でオールドメディアの象徴になっている」などと批判を浴びることが定番化していた。
さらに今年の『紅白』と『レコ大』を語る上で欠かせないのが『MUSIC AWARDS JAPAN2025』と『MUSIC GIFT2025 ~あなたに贈ろう 希望の歌~』の存在。どちらも新たな音楽特番であり、前者は5月22日、後者は8月9日にNHK総合で生放送された。
『MUSIC AWARDS JAPAN2025』は音楽主要5団体による新たなアワードで「アメリカのグラミー賞を目指す」などと公言。最優秀作品賞にCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」、最優秀アーティスト賞にMrs. GREEN APPLE、最優秀ニュー・アーティスト賞にtuki.、最優秀アルバム賞に藤井風『LOVE ALL SERVE ALL』、Top Global Hit From JapanにYOASOBI「アイドル」など、ネット上に「納得」の声があがるような結果だった。「視聴率や事務所の力などにとらわれない」などのフェアな選考が高評価されただけに『レコ大』にとっては否応なしに比較されるだろう。
もう1つの『MUSIC GIFT2025 ~あなたに贈ろう 希望の歌~』は新たな夏の音楽特番で放送時間は2部制の計2時間強。出演者もMCも『紅白』と同等レベルの上に、定番の朝ドラ『あんぱん』スペシャルステージもあるなど、「夏の『紅白』」とたとえられる音楽特番であり、第1回の評判はこちらも上々だった。
NHKとしてはどちらの音楽特番も年末『紅白』との共存を狙っているのだろう。しかし、視聴者は比較し優劣をつけていくだけに、今年の『紅白』は両特番とも戦わなければいけないのかもしれない。
メディアと一般層の温度差が拡大
一方、TBSにとって『レコ大』は微妙な位置づけに見える。同局における音楽番組の中心は毎週ゴールデン帯で2時間のレギュラー放送をしている『CDTVライブ!ライブ!』。さらに夏の大型音楽特番『音楽の日』も「他局を一歩リードしている」などの評価が定着し、「最も音楽に強い民放局」と言われるまでになった。
好調の要因はライブの魅力を押し出した演出と、それによって築かれたアーティストとの信頼関係だけに、「『レコ大』のようなアワードは今のTBSに合わないのでは」とみている業界関係者は多い。
最後にもう1つ『紅白』と『レコ大』への関心が薄れ、権威が落ちている理由としてあげたいのは、メディアと一般層の温度差。
『紅白』はそれでも視聴率トップの番組であり、『レコ大』も大みそかに放送されていた時代の名残りもあって、現在でも「別格」とみなすメディア関係者は多い。
また、両特番は「出演者の数が多いため記事が量産でき、賛否両方の声が集まりやすいためPVが期待できる」という点でネットメディアにとって好都合。メットメディアにとって『紅白』『レコ大』は国民的特番であり続けてほしい存在なのは間違いない。
しかし、記事を見る一般層にしてみればそこまでの期待感はなく、ネットメディアとの温度差が冷めた目線につながってしまう。前述した「他の音楽特番のほうが好き」という声も多いなど、「別格」ではなく「たくさんある候補の1つ」という現状がうかがえる。
だからこそ今年の『紅白』と『レコ大』は選んでもらうための策が必要であり、昨年の『紅白』でB’zがNHKホールにサプライズ登場したような演出をいかに仕掛けられるか。現在の反響を見る限り、例年以上の工夫と努力が必要なのかもしれない。