いまどきのフェリーは快適なのか? 新造船「けやき」潜入
本州から北海道まで、長距離フェリーに乗って20時間以上。スマホの電波も途絶えて遊ぶ場所もなく、雑魚寝のような寝室でずっと寝るだけ…そんな空間を想像していないだろうか?
いまどきのフェリーは、ラグジュアリーホテルのような広々とした船内を巡り、美味しいレストランとアクティビティで楽しみつつ、スマホも繋がる。そして、格安の大部屋でぐっすり寝て、約21時間はあっという間に到着してしまうという。
そんな「大型フェリー」の最新鋭・新日本海フェリー「けやき」が、11月14日に京都・舞鶴港~北海道・小樽港に就航するに先駆けて、報道陣向けの船内公開を行った。まだ誰も寝泊まりしていない大型フェリーに、特別に潜入してみよう。
3フロア吹き抜けのエントランス、滝のようなフォワードサロン
フェリー「けやき」に一歩足を踏み入れると、4階から7階までを一挙にぶち抜いた、シースルーエレベーター付き吹き抜けフロアの解放感に驚く。
「海の京都」と呼ばれる日本海側随一の良好・舞鶴に発着しているだけあって、船内のデザインは「京都の海」をイメージしたシックなもの。海を眺めながらひと息つける共有スぺ―スも各種あり、船が進む前方を眺める「フォワードサロン・白竜」も、宮津市の「白竜の滝」から名付けられただけあって、滝のような落差の2階建てから、色々な角度で海を眺めることができる…長距離フェリーの船内は快適に過ごす工夫がなされ、まさに「海上を動く、ちょっといいホテル」そのものだ。
宿泊する部屋にしても、船の面積が限られているがゆえに、昔の「一等室」だとベッドも狭い…ことはない。「けやき」のスイートは海をたっぷり眺められるバルコニーデッキに、専用バス・トイレ・大型モニターに、広々としたベッド。美容機器「ReFa」のドライヤー・シャワーヘッド・バスアイテムをえるとあっては、普通のホテルのスイートルームのサービスと変わらない、贅沢な空間だ。
ほか、デラックス・ステートなどの部屋は、ほぼ全て個室仕様。最安値の「ツーリストA」でも半個室仕様で、カプセルホテル並みにプライベートは確保されている。かつ、昔と違うのは、ちゃんとした寝具とコンセントまである。昔のフェリーの最安値は、毛玉だらけのカーペット敷きの床で寝転ぶ「雑魚寝タイプ」であった。
さらに「けやき」は海上でも繋がるフリーWi-Fiを用意しており(一部キャリアは有料の場合あり)、フカフカのベッドで波の音を聞きながら…全長約200m・約1.4万トンの”大船”で、アンチローリングタンク・フィンスタビライザを組み合わせて、省エネも実現したうえで揺れも少ない。まとめると揺れも少なく、ほぼホテルと同様にくつろげるのだ。
国内フェリー発「没入型スクリーンルーム」+yogoboのクッション」
ただ、今どきのフェリーは、これだけではない。楽しめる場所が「ゲームセンター・スロットと自販機くらい、あとは20時間海を眺める」だけだった昔とは、ずいぶん様相が違うのだ。
今回の新造船「けやき」で導入されたのは、国内フェリーで初導入となるスクリーンルーム「龍宮」だ。巨大な長方形の部屋ではプロジェクションマッピングで彩られ、シアターの音響なども相まって、まさに「没入」するような体験を味わうことができるのだ。
しかもルームに置いてあるのは、その快適さゆえに「人をダメにするクッション」とも言われる「yogibo」社製のもの。気が付けば、癒しの音響と壮大な画像を眺めながら、無になってボーっと…なお、新日本海フェリーと同系列「SHKライングループ」傘下の「東京九州フェリー」では、yogiboクッション付きのプラネタリウムがある。ほかフィットネス機器などもあり、各航路ともしっかりアクティビティへの創意工夫がなされているようだ。
なお、SHKライングループでおなじみの露天風呂・サウナも、しっかり健在。たっぷり汗を流して、日本海のド真ん中で整うことだって可能だ。(季節・天気によって封鎖あり)
こうしてみると、今どきのフェリーは20時間以上いても、なかなか飽きない。1日遊ぶもよし、ネット三昧もよし、レストランで絶品料理に舌鼓を打つもよし、サウナでひたすら整ってもよし…そんな環境が、新船「けやき」には整っている。
フェリーのもうひとつの顔「貨物輸送」北海道から、本州から何が届く?
船内の公開に先立って記念式典が行われ、新日本海フェリー・入谷泰生社長や、鴨田秋津舞鶴市長、京都府副知事などが祝辞を述べた。
この中で印象に残ったのは、鴨田舞鶴市長の「われわれ(舞鶴市民)が生乳を飲んでサンマを食べられるのは、フェリーのおかげ」というスピーチだ。そう、フェリーは「海上を走るホテル」だけでなく、貨物輸送の役割を期待されている。
舞鶴・敦賀から日本海を北上して北海道を結ぶ新日本海フェリーは、本州側からは精密機械・機器類の輸送が多く、北海道からは季節の農作物や生乳などが多いという。またコンテナ・シャーシなどの無人航送が4割以上を占めるシーズンも多く、港では系列会社「マリネックス」がトレーラーヘッドでコンテナをフェリーにのせて、先頭の部分だけ降りてきて、また次のコンテナ作業を乗せて…という作業を、延々と繰り返しているので、いちど眺めるのも面白いだろう。
なお、フェリーで貨物を輸送する場合は、「マリネックス」が集荷に行って、到着先のマリネックスで配送、といった具合で、前々日まで北海道の大地ですくく育っていた野菜が、既に店頭に並んでいたりする。大都市圏から離れている敦賀市・舞鶴市で、スーパーの品ぞろえが妙に良いのも、50年間にわたってフェリーがしっかり北海道を結び続けてくれているおかげ、なのだ。
こういった「フェリーの貨物輸送」の強みは、系列会社の「東京九州フェリー」でも同様。宅急便や自動車部品、郵便物や建材なども運んでおり、ある時筆者が見かけた限りでは多量のトレーラーハウスが運ばれていて、「誰がこんなに使うの?」と思っていたら、東京オリンピックの会場近くでそれらしきモノが多量に並んでいたり…ということも。重量ベースだと海上輸送が約99.6%という日本の貨物輸送において、新日本海フェリーは日本の裏側、日本海沿いを結ぶのに、重要な役割を果たし続けているのだ。
「けやき」就航、代替船「はまなす」引退…別の道へ?
ともあれ、2025年11月14日には新日本海フェリー「けやき」が就航を果たし、すでに最終運航を終えている「はまなす」は、これで引退…という訳ではない。
実は、「はまなす」はすでに「防衛省のPFI船舶」という次の用途が決定的だ。2024年の能登半島地震のあとに現地に急行したフェリー「はくおう」(元・新日本海フェリー「すずらん」)などと同様に、災害などの有事に被災地を助ける役割を果たす。なお船の管理などは、変更がない限り子会社「ゆたかシッピング」が受託するため、今後とも「はまなす」と新日本海フェリーの縁は、続くことになる。
災害による出動は、ないに越したことはない。しかし、20年にわたって本州~北海道を結んできた船が活躍の場を得たのは、何だか嬉しいものだ。新造船「けやき」の活躍とともに、「はまなす」がどこかの海上を走り続けてくれることを祈りたい。