これはバブルに違いない。気の早い人はそう囁き始めた。だが、金融緩和が続く限り、株高は続くという識者も多い。問題はこの相場がいつ終わるか、だ。
高市トレードは「かりそめの株高」
〈もうはまだなり、まだはもうなり〉
いま、市場関係者の間でこの有名な相場格言を思い浮かべない人はいないだろう。株価がもう上がらないと思っているときは、まだ上がるかもしれない。まだ上昇すると思っていると、もう下がるかもしれない―。
高市早苗氏が自民党総裁に選出されてから日経平均株価は一気に上昇し、総理就任後に5万円を突破。一時は5万2000円台まで上昇した。高市トレードのもたらす「恍惚と不安」に市場関係者は頭を悩ませている。
だが、これは「かりそめの株高」にすぎないと、現役ファンドマネージャーの石原順氏は喝破する。
「FRB(連邦準備制度理事会)は10月に2会合連続となる利下げを行い、金融緩和を進めています。それによってダブついたマネーがAI(人工知能)関連銘柄に流入しているにすぎません。
一方、日本銀行は、買い入れ減額を表明しているものの、それでも毎月3.3兆円ほどの国債を購入しており、十分に緩和的です。要するに日米の金融当局がプリンティングマネー(紙幣増刷)によって、資産インフレを引き起こしているわけです」
つまり、日米の金融緩和が続く限り、株価はまだ上昇するというわけだ。
庶民は怒らないといけない
「景気がよくて株価が上がっているというより、通貨の価値が下がっていて、名目上の株価が上がっているというのが正しい理解です。しかし、多くの方は名目値で判断するから、自分は物価高で生活が苦しいけど、世の中の景気はいいと勘違いしてしまう。
現金しか持っていない大半の日本人にとってインフレは悲惨です。政府の金融緩和政策で勝手に貯金の価値を目減りさせられているわけですから、本当なら庶民は怒らないといけないのですが」(同前)
高支持率で発進した高市政権は、物価高対策としてガソリン税減税や高校無償化、所得税がかかる「年収の壁」のさらなる見直しなどを掲げる。
加えて、トランプ大統領に約束させられた対米80兆円投資や防衛費の増額もあり、歳出拡大は不可避の状況だ。慶應義塾大学大学院教授の経済学者、小幡績氏が危惧する。
「高市総理は経済対策に対して、理解が乏しいように思います。基本路線の積極財政は安倍晋三元総理の方針を踏襲しているとされますが、アベノミクスが株高に貢献したのは、当時がデフレだったからです。今はインフレで経済環境が真逆なのに、デフレ下のような財政拡張政策を実行すれば、円安とインフレを加速させてしまう」
日本版「トラス・ショック」の可能性
こうした状況が続くと、英国で起きた「トラス・ショック」が日本でも起きかねない。エコノミストで、テラ・ネクサスCEOの田代秀敏氏が言う。
「円安を放置したまま、減税とバラマキ政策を続ければ、円は信認を下げます。財源の裏付けのないまま、大規模な減税策を打ち出した結果、金利が急騰し、英ポンドが大暴落してわずか49日間で政権が崩壊した『トラス・ショック』が日本でも起こるのではないか。実際、円相場は1ドル=153円前後になり、160円が再び見えてきました。
日銀が利上げに消極的に見えるのも心配です。植田和男総裁は『春闘の初動の勢いを見てから判断する』と話しましたが、年内は利上げをしないようにも聞こえます。高市政権と日銀が同時に円安を放置しているような構図です」
田代氏はこうした状況を象徴するかのような光景を海外で目撃した。
「先月、シンガポールのチャンギ国際空港を訪れました。’81年に開港したアジア有数のハブ空港で、いまでも日本語表記が当たり前のようにあります。しかし、空港内の公式両替所の為替レート一覧で、米ドルやユーロが掲載されている最初のページに円は掲載されていません。2ページ目に掲載されており、しかも韓国ウォンやインドルピーの後塵を拝している。もはや円は国際的な主要通貨とは見なされなくなっているのです。
これ以上、円安になれば、企業も個人も海外に資金を逃がし、国内におカネは戻りません。円はトルコリラやアルゼンチンペソのような投機の対象となってしまいます。為替市場で一度そう見なされた通貨は二度と復活できない。このままでは1ドルが180円になっても、もはや驚くことではないでしょう」
後編記事『米国のインフレが長期化…そのとき「日経平均大暴落」のトリガーとなる日銀の致命的な選択』へ続く。
「週刊現代」2025年11月24日号より