積極財政への期待を背景に「高市トレード」で株式市場は活況に沸く。そこに死角はないのか。「ミスター税調」が重い口を開いた。
誰が総裁になっても退くつもりだった
高市(早苗)さんが自民党の新総裁になって、(財政規律派とされる)私が党の税調会長を解任されたなどと世間で言われているようですが、実はそんなことはありません。
元々、私は誰が総裁になっても、税調会長からは退こうと思っていたんです。他の方にも税調会長のポストを経験していただいて、育てていかなければいけない時期だと思っていたものですから。もし、私が総裁選で支援した前官房長官の林芳正さんが新総裁になられて、林さんから慰留された場合は残ろうと考えていましたが、それ以外なら辞めようと思っていました。もう8年にもなりますからね。
もちろん、(財政拡張的な)高市さんの政策は、私が考える政策とは大きな隔たりがあることも事実です。高市総裁の考えと違うことはできないわけで、退任は自然なことだと思っています。
実は、私は高市さんには「日本のメローニ」のような存在になってほしいと思っていました。イタリアのメローニ首相は極右政党出身ですが、持論を抑えて政権運営を3年も継続し、国内外から高い評価を受けています。しかし、党役員と閣僚人事を見ている限り、高市さんはちょっと違うような気がしますね(苦笑)。
財政規律派の「ラスボス」の軌跡
肩書に「参議院議員」とだけ記された名刺を差し出して、前党税制調査会長の宮沢洋一氏(75歳)は話し始めた。宮沢氏は、’74年に東京大学を卒業後、大蔵省(現財務省)に入省。伯父である宮沢喜一元内閣総理大臣の首席秘書官などを務めた後、政界に転身した。衆議院議員3期、参議院議員3期の大ベテランである。
税調会長を2度務め、税制に精通する「税調のドン」として知られる。昨年は、国民民主党が主張する「年収の壁」の178万円への引き上げに立ちはだかったため、ネット上では財政規律派の「ラスボス」とも呼ばれてきた。
「ラスボス」と呼ばれることについては、ある意味では税調会長として実力があることを評価していただいていると認識しています。
税の目的は、所得の再配分や産業政策の実現などさまざまありますが、一番大事なことは、国家の歳出の裏付けとなる歳入の源を確保するということ。これは日本だけでなく、世界共通の問題ですから、おろそかにはできません。
減税否定派は国民の理解を得てこなかった
一般的に、みなさんが希望するのは減税なんです。これは個人も法人も同じで、法人なら租税特別措置法を作って税金を少し安くしてほしいという要望が多い。正直に申し上げて、大衆で討議すれば、その要望は減税一本になることでしょう。おそらく、消費税もこれまでのように上げることはできなかったはずです。
もちろん、国民の意見を聞くことは大事ですから、税調の中でも意見は聞いて、どんどん議論をやった上で、最終的には税調インナーと呼ばれる少人数で決定していく。ある意味で税調のメンバーは泥をかぶることになるのですが、そうすることによって、なんとか健全な税制というものができていくと思っています。なので、「ラスボス」と呼ばれるのは甘んじて受け入れないといけないわけです。
ただ、減税に否定的なスタンスが、国民に理解してもらえないことのほうが多かったのもたしかです。歴代総理も含め、我々の説明不足もあったんだろうと思います。国民に理解してもらうよう努力することを少し怠ってきたという反省はもちろんあります。
新しく総理になった高市氏は、就任前に物価高対策のためには赤字国債の増発も「やむを得ない」と発言するなど、積極財政派として知られる。宮沢氏はそうした高市氏の政策方針を危惧しているという。
後編記事『【ラスボス】宮沢洋一前税調会長の警告「このままでは円の資産価値は暴落します」』へ続く。
「週刊現代」2025年11月10日号より