ディールは成功したと言うが…
中国が米国との貿易戦争を有利に進める構図が明確になっている。
トランプ大統領は「中国に100%の追加関税をかける」と脅していたが、10月30日の習近平国家主席との会談後、習氏が合成麻薬フェンタニル対策を講じると約束したことを理由に「対中関税を10%引き下げる」と表明した。
トランプ氏は「中国製のフェンタニル原料がメキシコやカナダを経由して米国に密輸されている」として中国製品に20%の追加関税を課した。これに対し、中国は「フェンタニルは米国の問題だ」と反論し、膠着状態が続いていた。
にもかかわらず、トランプ氏がフェンタニル関連の関税を20%から10%に引き下げたのは、中国からレアアース規制の延期や米国産大豆の大量購入などの譲歩を引き出すためだった。
トランプ氏はディールの成功を強調しているが、中国の予想外の反撃に面くらい、一時停戦を持ちかけざるを得なかったのが事の真相だ。
一方、中国は今回の勝利で「米国に負けない」との自信を深めていることだろう。世界生産の7割を握るレアアースが自信の源であることは言うまでもない。このため、「中国は米国が無理難題をふっかけてくるたびに、この最強兵器を使って要求を封じ込めようとするのではないか」との観測が出ている。
結局、内需は冷え込んだまま。
だが、過信は禁物だ。この戦術にも有効期限があるし、米国を本気で怒らせたら、貿易黒字国である中国の方がより多くの打撃を被るからだ。
米国への輸出品の関税が下がったとしても、47%と高いままだ。米国への輸出は多少伸びるかもしれないが、中国経済回復の起爆剤になるわけがない。
中国国家統計局が10月31日発表した10月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は、49.0と好不況の境目である50を7カ月連続で下回った。それだけでなくエコノミスト予想中央値である49.6も下回っていた。
同時に発表された国家統計局の発表文では、製造業の減速の要因は生産と市場需要の減速が一因であるとされている。
9年強ぶりの長期低迷に陥っている製造業の回復に不可欠なのは内需の拡大だ。内需の拡大が中国経済にとって喫緊の課題だが、その道筋がなかなか見えてこない。
日本は30年前に失敗した
中国共産党は28日、第15次5カ年計画(2026~30年)の草案を公表した。草案は「(国内経済について)有効な需要が不足している」との認識を示し、「労働者が有給休暇を長期休暇の前後に取りやすくし、旅行や買い物など消費にあてる時間を増やす」などの対策を打ち出した。
いわゆる「カネをかけない消費喚起策」だが、この試みにまったく効果がなかったことは1990年代の日本が既に証明している。
低迷する消費とは真逆の動きを見せているのが、ヒト型ロボットの開発だ。北京や上海といった主要都市では、相次いでロボットの「職業学校」のような大型訓練場が誕生している。同じくハイテク技術のなかで見通しに陰りが見え始めているのが、世界を席巻している中国のEV産業である。
10月28日に発表された中国の第15次5カ年計画(2026―30年)で、EV産業が戦略的新興産業から除外されてしまったのだ。その余波とは。後編記事『中国EVがついに「お荷物」に…習近平の鶴の一声で中国EV業界にもやってくる大量倒産の時代』にて詳しく見ていく。