集会所での緊迫の「逮捕劇」
5月17日土曜日の午後、神奈川県内の大規模マンションの集会所で開かれた「修繕委員会」の会合は、緊迫感に包まれていた。
修繕委員会とは、マンション修繕の方針を取り決める、管理組合や有志住民による集まりだ。その日は、組合理事や住民ら7人がテーブル越しに向き合っていた。
当初は平穏に会議が進行していたが、30分ほどたったころに異変が起きた。住民の一人が突如、ある「出席者」にこう切り出したのだ。
「すみませんが、あなたは誰ですか?」
指摘された相手は、
「急に何ですか」
と返答。周囲のメンバーにざわめきが広がるなか、その「出席者」はおもむろに外へと出て行った。
すると集会所の外に2人の男性が待ち構えており、押し問答に。摑まれた腕を振りほどいた「出席者」は、そのまま敷地外へと走り去った。
そして4〜5分後、今度は集会所の扉が勢いよく開き、4名の警察官が室内へと踏み込んだ。
「(マンション住民)本人じゃない人間がいる! あなたがそうですよね!」
警官とともに入ってきたマンション住民からそう指摘された男性は、
「委員会中に何ですか」
などと返答していたが、警官と一緒にマンションの外に出たところで、住居侵入容疑で現行犯逮捕。その後、走り去ったもう一人も、6月3日に同じ容疑で逮捕された。
事件を起こした施工会社が取材に応じた
これは、今年5月に発生した、「住民なりすまし事件」の一部始終だ。逮捕された男性2名はマンションの修繕を請け負う施工会社の社員。報道によると、修繕委員会の議論を自社に有利になるよう進行するため、住民になりすましたとされる。
老朽化マンションの増加に伴う修繕費用の高騰は社会問題となっており、今年3月には関東の主要工事業者20社超が談合の疑いで公正取引委員会の立ち入り検査を受けた。それだけに、この「なりすまし事件」は「施工会社による新たな悪質手口」として、朝日新聞など大手メディアでも大々的に報じられた。
今回逮捕されたのは、大阪に本社を置く大手施工会社(以下・A社)の社員。A社は近年売り上げを拡大しており、関東圏にも進出していた。
なぜ、なりすましという強引な方法を行ったのか。事件の真相を解き明かすべく、本誌はA社に取材を申し込んだ。すると、逮捕された当事者2名だけでなく、A社の幹部も取材に応じた。
住居侵入容疑については処分保留で釈放されたものの、管理組合から詐欺未遂と偽計業務妨害で刑事告訴されており、その捜査は現在も続いている。それでも取材に応じたのは、どうしても訴えたい「大規模修繕業界の闇」があるからだという。
A社幹部が語る。
「逮捕されたのは、弊社の営業マン2名です。神奈川のマンションでの『なりすまし事件』については、本人はもちろん、会社としても大変反省しています。我々に正義があったなどと言うつもりは、まったくありません」
後編記事『【独自】マンション修繕会社幹部が”衝撃証言”…管理会社が住民を騙す「大規模修繕費キックバックシステム」のカラクリ』へ続く。
「週刊現代」2025年11月10日号より