2025年のプロ野球では、阪神タイガースが2年ぶりのセ・リーグ優勝を決めた。日本でも有数の人気球団の優勝とあって、大規模な経済効果が見込まれている。物価高騰の影響で節約志向が強まるなかでも、過去20年間で最大となる1,000億円超に及ぶとの試算が多く報じられている。関西エリアに異質ともいえる活気をもたらしていると言えよう。今シーズンにみせたダントツの強さからは、かつての「暗黒時代」をも覆す長期間にわたる「黄金時代」の到来も期待できるかもしれない。
こうした象徴的なイベント以外にも、関西エリアの持続的な景気拡大を予感させる条件が整いつつある。大阪・関西万博は事前想定を大きく上回る成功を収めており、観光・宿泊・交通関連を中心に「特需」をもたらした。万博の成功は、その後に続く統合型リゾート(IR)の開業に向けた機運をさらに高め、新たなインフラ投資や雇用創出へつながる見込みだ。
また、データセンターの建設も急速に進んでいる。AIの普及やデジタルトランスフォーメーションの加速に伴い、莫大なデータを処理するためのインフラ需要が高まっている。一方、首都圏では土地や電力の確保が難しくなりつつあることに加え、災害リスクの分散という観点からも大規模なデータセンター建設を関西エリアへ進める意義は大きい。データセンターの建設ラッシュは、ITインフラのみならず、電力供給や空調設備、さらには光ケーブルなどの電子部品分野にも新たなビジネスチャンスをもたらすだろう。盛り上がりを見せる関西経済で活躍が期待される企業に注目したい。
レンゴー(3941)
■株価(9/12時点終値)798.8円 配当利回り(予)3.76%
段ボール原紙から製品まで一貫して手がけるレンゴーは、国内シェア約30%を誇るトップメーカー。国内景気全般には不透明感が漂うものの、関西経済の浮揚効果や昨年までの弱含みの反動から、段ボール販売量が底入れへ向かう機運は大きいとみられる、。
同社は10月納品分からの段ボール原紙の値上げを決めている。来2027年3月期には一貫した値上げ効果が業績を牽引するだろう。株価はPBR(株価純資産倍率)0.5倍前後の割安水準で推移しているが、値上げ効果の浸透により株価上昇の余地が高まると考える。
中期経営計画「VISION120」では、2030年3月期までに「営業利益700億円、ROE(自己資本利益率)8.5%」を目標に掲げている。利益重視の方針を明確に掲げるとともに、設備投資やM&A(企業買収)の積極化も目指す意向だ。純資産に占める政策保有株式の割合を、2025年3月期末の14.5%から10%へ縮減し、配当性向(純利益に占める配当金の割合)30%を目標とする資本政策を示すなど、株主還元への積極姿勢も評価したい。
JR西日本(9021)
■株価(9/12時点終値)2978円 配当利回り(予)2.48%
大阪万博以降も北陸新幹線延伸効果やインバウンド(訪日外国人)需要に支えられ、好調な需要が継続する期待は大きい。関西圏の主要交通インフラを担う強みを活かし、平日ビジネス・新幹線需要も回復傾向にあり、万博終了後の反動減は小幅にとどまる可能性が高いだろう。
拠点駅の大規模再開発も強みだ。2025年3月期開業の「イノゲート大阪」「JPタワー大阪」といった「大阪プロジェクト」や「minamoa」などの「広島プロジェクト」は、今後本格的に収益に貢献するだろう。今年6月には新社長が就任したことで、足元では2027年3月期からスタート見込みの新中期経営計画を策定中と思われる。
来期以降は大型投資が一巡することで、フリー・キャッシュフロー(企業が自由に使える資金)の確保が予想される。現在、同社は「配当性向(純利益に占める配当の割合)35%以上」に加え、2024年3月期から「2027年3月期で合計1,000億円の自己株式取得を実施」する計画を持つが、さらなる株主還元の期待も高まろう。
ダイキン工業(6367)
■株価(9/12時点終値)15700円 配当利回り(予)2.04%
世界で唯一、空調と冷媒(空調機器内で熱を運ぶ物質)を自社生産できる技術力が最大の強みだ。製品の省エネ性能を高めることで、環境・エネルギー問題の解決力で、他社の追随を許さない。また、長年にわたり世界各地で独自構築した販売ネットワークや、ゼネコン(総合建設業者)や不動産会社との強固な関係も差別化の要素となる。
今後の関西経済を支えるデータセンター建設の進捗も追い風だ。データセンター内で発生する大量の熱を冷やす需要は世界的にも高まっており、同社も米国を中心にデータセンター向け大型空調の受注を増やしている。今後はサービス網やメニュー拡充によりソリューション事業(機器販売に加えて問題解決サービスを提供する事業)を拡大させる方針だ。
2026年3月期の営業利益は4,350億円(前期比8.3%増)を見込んでいる。米国での関税関連費用を織り込んだうえでの増益計画だ。省エネなどの技術優位性に加え、データセンター向け拡大やインド市場の開拓余地などを考慮すれば、守りと攻めの両面から成長余地は大きい。
住友電気工業(5802)
■株価(9/12時点終値)2618.5円 配当利回り(予)2.94%
世界トップシェアを誇る自動車用ワイヤーハーネス(自動車の電源・信号を各部品に伝えるための組み電線)を主力事業とするだけに、トランプ関税の影響を過度に警戒する声もあるが、自動車メーカー向けに価格転嫁を進める方針だ。また、光ファイバや光部品、FPC(フレキシブルプリント基板)、電力ケーブル、超硬工具など、多岐にわたる事業展開も事業の安定性につながっている。
海底ケーブルやデータセンター向け光デバイスなどの情報通信分野を得意としており、足元では超多心光ケーブル(1本のケーブルに多数の光ファイバを束ねたもの)などの引き合いが急増している。2026年3月期第1四半期(4月-6月期)は、データセンター向けに光ケーブルや光配線機器の販売が伸び、の純利益は前年同期比11%増と好調だった。今期は光コネクタの出荷量を前年比約2倍に増やすなど生産能力の増強も図る。
2025年3月期に営業利益の54%を占めた自動車関連事業の構成比を2030年3月期に41%まで引き下げ、情報通信事業を同6%から25%まで高める目標を掲げている。事業構造改革の進展も期待材料となろう。
村田製作所(6981)
■株価(9/12時点終値)2550.5円 配当利回り(予)2.12%
積層セラミックコンデンサー(MLCC)(電気を蓄え、ノイズを除去する電子部品)で世界シェア約4割を占めるトップ企業。MLCCはAIサーバーや自動車など先端技術に不可欠な微小部品であり、同社は関西経済圏における先端技術産業の強化にも強い影響力を持つ。足元では、従来のスマートフォン依存事業構造から脱却し、成長市場であるAI分野への積極投資を敢行している。
同社では、2030年頃にAI機器の普及が本格化し、AI向けデータセンターでは従来の8倍ものMLCC需要が生まれると見込んでいる。このため2026年3月期の設備投資額は2,700億円と前期比で5割増やす計画だ。短期的な景気変動にとらわれず、中長期的な成長を確実にモノにする戦略だ。
株主還元にも積極的だ。2026年3月期の年間配当は1株あたり60円と前期比3円増配の見込みで、16期連続の実質増配を予定している。業績に左右されにくいDOE(株主資本配当率=株主資本に対する配当金の割合)を採用するなど、中期的な株主還元の安定性からも注目できる。
関西の盛り上がりは、単なるブームではなく、新たな時代を告げる予兆かもしれない。万博成功に続く大阪IR構想、データセンター建設ラッシュ、地域の一体感を高める阪神タイガースの黄金期など、いまの日本でもっともホットな可能性を持つ経済圏と言えそうだ。
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