国民の冷めた目線
「中華民族は独立独歩し、強大であり続ける偉大な民族だ」
中国の習近平国家主席は9月3日、北京で開かれた過去最大規模の軍事パレード(中国戦勝節80周年閲兵式)での演説でこのように強調した。
パレードでは極超音速ミサイルや水中ドローン、兵器化した「オオカミロボット」などの最新兵器が次々と登場させることで、中国は強大な軍事力を国際社会に印象づけた。
軍事パレードの目的は共産党政権への求心力の強化だが、中国製の武器輸出に弾みをつけたいという経済的な狙いもある。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、中国の2020~2024年の武器輸出は世界第4位だったが、6割以上がパキスタン向けだった。最新兵器を各国首脳に示すことで、東南アジアや中東・アフリカ諸国への武器輸出を大幅に拡大したいところだ。
だが、北京市民の受け止めは複雑だった。戒厳状態となった北京市では「ゼロコロナ時代の悪夢を彷彿とさせる」との声が多く聞かれた。
台湾の安全保障当局者の推計によれば、軍事パレードの経済負担は総額で約370億元(約7700億円)に上る。「その資金の一部でも良いから自らの懐に還元してほしい」というのが北京市民の本音なのではないだろうか。
習近平とプーチンが興じた雑談の中身
毛沢東以来、3回目の軍事パレードを主催した習氏だが、その表情が意外にも暗かったとの指摘が出ている。軍事力を増強しても、肝心の中国軍内部の腐敗がひどいため、悲願の台湾統一が危ぶまれる事態になっているからなのかもしれない。
世界が最も注目したのは、皮肉にも習氏とロシアのプーチン大統領の冗談交じりのやりとりだったようだ。習氏がパレード直前に「昔と違い現在の70歳はまだ子供だ」と発言したことに、プーチン氏は「バイオテクノロジーの進歩で臓器は継続的に移植できる」と応じ、習氏はさらに「今世紀中に人間は150歳まで生きられるようになる」と述べた。
やりとりを収めた映像が報じられるや「両氏が政権の長期化に意欲を示した」との憶測を呼んわけだが、どうやら都合の悪い内容だったようだ。
9月5日、配信元のロイターが映像を削除したのだ。映像を撮影した中国国営CCTV(中国中央テレビ)から編集により事実が歪められたことを理由とする映像の使用許可の取り消しと削除要求があったという。
その後ロイターは映像を削除。1000以上ある契約社にも削除要請をした。一方で「報道した内容は正確だと確信している」としてもいる。
相変わらず激しい米中対立
こうしたなかで中国の臓器移植に関する「黒い噂」にも改めて注目が集まっている。
米連邦議会下院のジョンソン議長は4日、「中国では、非人道的なやり方による臓器移植が大規模に行われており、両氏がこのような会話を交わしたことに強い警戒を持つべきだ」と非難した。ジョンソン氏はかねてからこの問題に多大な関心を示しており、米下院は5月、「中国の非人道的な臓器移植に対して法的な制裁を科すべきだ」との決議を全会一致で採択した(上院ではこのような決定はなされていない)。
ジョンソン氏が忠誠を誓うトランプ大統領も3日「軍事パレードで(当時の中国を救った)米国の貢献に関する言及がなかったことに驚いた」と不満を表明した。米中の対立が激化する中、第2次世界大戦についての両国の歴史認識に齟齬が生じていることの表れだ。
そんな米国が警戒を強めているのが2001年、中国とロシア主導で結成された国際組織、上海協力機構(SCO)の存在である。インドやパキスタンらの参加により、現在は経済規模にして世界の4分の1を占める組織となった。
ただ、中国を巡る国際情勢をつぶさに見てみると、その内実は大したものではないようだ。後編『加盟国との蜜月関係は見せかけ…習近平肝いりの反米組織「上海協力機構」の悲惨な現状』にてさらに詳しく解説する。