阿部サダヲ×松たか子の共演で話題のドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)。エンディングに流れるオアシスの『Don’t Look Back In Anger』も大きな反響を呼んでいる。
「エンディングのオアシスで鳥肌が立った…」
「オアシスが合わさると意味深さが増す…」
第1話の放送直後、SNSにはこんな声が並んだ。
主題歌がオアシスと聞いて、主演の阿部サダヲさんも「びっくりした」と語っていたほどのインパクト。いったい、どうしてこの楽曲が選ばれたのか。
ドラマの企画・キャスティングから主題歌の決定まで――ゼネラルプロデューサーの中川慎子さんに、ライターの木俣冬さんが話を聞いた。前編【『しあわせな結婚』プロデューサーが惹かれた阿部サダヲの色気。夢のキャスト実現秘話】では、作品の企画がどのように始まり、主演キャストが決まっていったのかを中心に。後編では、鈴木家や刑事・黒川のキャスティングの理由、そして主題歌にオアシスを選んだ背景についても語ってもらった。
「黒川はタイプの違う俳優がよかった」
――鈴木家の家族も個性的でいいですよね。
「大石さんの書いたプロットやキャラクターのプロフィールを読めば読むほど、お父さんは段田安則さん以外ないと思いました。岡部たかしさんと板垣李光人さんはこの人たちが家族だったらいいなと思う方々で、キャスティングしながら役も一緒に作っていきました。大石さんは当て書きをされる作家で、どの役もほぼ当て書きになっています」
――杉野遥亮さんが演じる刑事・黒川が気になります。15年前の事件にこだわっていると考えると、もっとベテラン刑事を想像しますが、若い人にしたのがおもしろいです。
「ネルラを容疑者だと思って執拗に追いかけていた刑事が彼女に恋をするのは大石さんらしい発明だと思います。黒川は35歳くらいで、新人警官のとき関わったはじめての事件の容疑者がネルラだったという設定です。大石さんはキャスティングに口を挟むことはあまりないのですが、今作はオリジナルなのでできるだけ相談しようと思って聞くと、任せると言われました。ただ『芝居のうまい人がいいわ』と言われて。そう言われると誰を選ぶかプレッシャーはありました。
本当にこれは夢コラボなので、私にとっても、信頼できる好きな俳優さんに集まっていただきたい。結果、堀内敬子さんや玉置玲央さんなど演劇の人がすごく多くなりました。そんな中、黒川はドラマの中でも異端のポジションにいる人なので、ほかの演劇畑の方々とは全く違うタイプの俳優がいいなと考えました。黒川がネルラと幸太郎と対峙したとき、姿形やキャラクターや年齢が阿部さんと同年代の渋い人ではなく、全く違う人のほうが、芝居的にも画的にもおもしろいだろうと」
主題歌を選ぶまでの葛藤と思い
――主題歌のオアシスの『Don’t Look Back In Anger』も印象的です。どうやって決まったのでしょうか。
「主題歌はドラマのもうひとつの顔だと思うのでとても大切に考えています。主題歌選びもキャスティングのひとつのようで、大きな楽しみのひとつです。ただ、『しあわせな結婚』は顔がいくつもありすぎて(笑)。ジャンルとしても、サスペンスなのかホームドラマなのかコメディなのか簡単には語れない多面的なところがおもしろさですが、それに合う主題歌はどうしたらいいのだろうと大変悩みました。一度、主題歌なしのパターンも考えたほどでした。そんなときに、まさかのオアシスという案が出てきて。私自身が青春時代、熱狂して聴いていたので、奇跡が起こった感じで(笑)。それは願ってもないと思いましたが、あまりに大事(おおごと)ですぐには決断ができず、1カ月ぐらい一人でずっと悩みました。既存曲のどれを選ぶかも頭が割れそうなくらい迷って……(笑)」
――結果『Don’t Look Back In Anger』になった。
「イギリス国歌のように著名すぎる歌で、それを主題歌にしていいのかと恐れ多かったですが、ありがたいことにご了承いただけました。この歌詞もドラマを作っていくうえで助けになりました。彼らは歌詞の意味をあまりはっきり定義しないですよね。聞いた人たちがそれぞれいろいろな想像をしてくれていいという考えは、『しあわせな結婚』にも通じるものです。オアシスと並べるのはかなりおこがましいですが、余白のあるドラマが私は好きなんです。全部答えてしまうよりも視聴者の方にも想像してほしいと思っています」
「阿部さんの的確さにはゾクッとするほど」
――歌詞から考察する視聴者もいて、結果、好評なのではないでしょうか。
「歌詞の意味とドラマがリンクしているかのような部分もあるので、SNSでは考察が盛り上がっていますね。世界的な楽曲をお預かりして、オンエアするまではかなり緊張しましたが、概ね好意的に迎えてもらえて安心しました」
――余白を大事にされているとおっしゃるように『しあわせな結婚』は会話の場面で相手の話を聞いている側の顔をじっくり映しています。演技のうまい俳優による表情の微妙な動きを見ると役の心情が様々に想像できます。それは狙いでやっていらっしゃるのでしょうか。
「大石さんの脚本は本当に深くて難しくて。書かれていない余白にも何かが隠されているので、その脚本をどのくらい読めているか試される手強さがあります。ときには書かれたとおりにやらなくてもいいと私は思うんですよ。意外な解釈がおもしろいこともありますから。ですが、阿部さんは本当に一言一句、大石さんがイメージしているものを寸分狂わず表現していて、その的確さにちょっとゾクッとするほどなんです。
それを大石さんも言っていました。ネルラのセリフを受けてのリアクションが素晴らしいので、そこをつぶ立てるように拾ってもらうようにしています」