2025年8月25日、ブルーバックスより
『カラー図解 アメリカ版 大学地球科学の教科書』
の第1巻、第2巻が上梓された。
本書はアメリカの名門大学が採用する地球学教科書
『UNDERSTANDING EARTH』(8th edition)
を全3巻の構成で翻訳したものである。
第1巻と第2巻では、プレートテクトニクスから、マントル対流など地球内部の動き、それらによって生みだされる火山や地層、岩石変成など、地球の固体部分の大きな仕組みが手に取るように理解できるつくりになっている。
また、第3巻では、大気・海洋の大循環システムから、いまや避けられない関心事である温暖化、マクロ的視点でとらえた気候大変動など、地球の表層部分の大きなメカニズムを中心に学べるようになっている。
本シリーズは、基礎から専門的な知識までしっかりと学びたい高校生や大学生の教科書として最適であるだけでなく、さらに専門的な地球科学、惑星科学、地質学の科学書を知解するための基本知識を得ることのできる良質な入門書である。
この度ブルーバックス・ウェブサイトにて本書の一部を特別公開。
我々が住む地球の「真実」をご覧ください。
*本記事は、『カラー図解 アメリカ版 大学地球科学の教科書 第1巻』(ブルーバックス)を再構成・再編集してお送りします。
プレートテクトニクスの発見
1960年代、パラダイムシフトの激震が地質学の世界を大きく揺るがした。それまで200年近く、地質学者はさまざまな「テクトニクス(tectonics,“建築者”を意味するギリシャ語に由来する)」理論を編み出していた。
テクトニクスとは当時、造山運動や火山活動、地震といった地表の地質学的な特性を生み出すプロセス全般を意味する用語だった。しかし、あらゆる種類の地質現象を十分に説明できる統一理論はなく、プレートテクトニクスの発見によって初めてそれが実現した。
物理学の分野でも、同じような一大転換が20世紀初頭に起きていた。相対性理論が空間、時間、質量、運動を支配する物理の諸法則を覆したのだ。また、生物学でも20世紀半ばに同様の変革があった。DNAの発見によって、生物がその成長と機能を制御する情報を次世代へ受け継いでいくしくみを生物学者は説明できるようになった。
プレートテクトニクスの基本的な考え方は、地質学の統一理論としておよそ半世紀前に構築された。だがじつのところ、プレートテクトニクス理論につながる理論統合への歩みはもっと早く、大陸が移動していることを示す証拠に気づいた20世紀初めに始まっていた。
大陸移動説
地球表層部のこのような変化は、地球がその中心部まで固体であるならば起こりえないように私には思われました。そこで私は、地球内部は私たちのよく知るいかなる固体よりも密度が高く、比重の大きい液体であり、その液体の中、あるいはその表面を固体部分が浮遊しているのではないかと考えたのです。だとすれば、地表は殻のようなものであり、その下にある液体の激しい動きによって、ばらばらに分断されることもありえるのではないでしょうか。
ベンジャミン・フランクリン
1782年、フランスの地質学者J・L・ジロ・スラヴィに宛てた手紙
大陸移動――大規模な大陸の運動――という概念は古くからあった。ヨーロッパでは16世紀後半から17世紀にかけて、大西洋の両側の海岸線がジグソーパズルのようにぴたりと合うことに気づく科学者が現れた。あたかも、かつて1つの大陸だった南北アメリカ、ヨーロッパ、アフリカがその後分裂したかのようだった。19世紀の終わりには、オーストリアの地質学者エドゥアルト・ジュースがパズルの一部を組み立てた。
ジュースは、現在おもに地球の南側に位置する諸大陸はその昔、ゴンドワナ(あるいはゴンドワナランド)という1つの巨大な大陸を形成していたと考えた。1915年には、第一次世界大戦での負傷から回復しつつあったドイツの気象学者アルフレッド・ウェゲナーが、大陸の分裂と移動に関する著作を出版した。
超大陸パンゲア
その本のなかでウェゲナーは、大西洋の両側で見られる地質学的特徴の驚くべき類似を数多く指摘している(図2.2)。
ウェゲナーはその後数年かけて、もともと1つの巨大な大陸だったものが分裂して、今日知られている諸大陸の姿になったと提唱し、その超大陸をギリシャ語で“すべての陸地”を意味するパンゲアと名づけた。
大陸が分裂して移動したというウェゲナーの主張は正しかったが、後述するように、その移動速度や地表で大陸を動かしている原動力に関する仮説は間違いであることが判明する。そのせいで彼の説に対する研究者たちの信頼は薄らいだ。約10年にもおよぶ激論の末に、地球の外層はきわめて硬いので大陸が移動することなどありえないと物理学者が地質学者を説き伏せ、ごく少数の地質学者をのぞけば、ウェゲナーの説を支持する者はいなくなった。
ウェゲナーをはじめとする大陸移動説の擁護者たちは、地図上で見られる地質学的特徴の一致だけでなく、大西洋を挟んで向かい合う大陸の岩石の年代や地質構造の向きが相似している点についても指摘していた。また、化石や気候のデータに基づいた主張も展開し、それらは現在、大陸移動の有力な証拠と認められている。たとえば、爬虫類メソサウルスの約3億年前の化石はアフリカと南アメリカで発見されているが、そのほかの場所では出土していない。この事実はメソサウルスが生息していた時代に両大陸が地続きであったことを示唆する(図2.3)。
両大陸の動植物は、大陸が分裂したと想定される時期まで同じように進化していた。ところがその後は、次第に遠ざかる大陸上の変わりゆく環境のなかでそれぞれに繁殖を続けた結果、異なる進化の道筋をたどることになった。さらに、南アメリカ、アフリカ、インド、オーストラリアには、3億年前に存在した氷河による堆積岩が広く分布していることもわかった。
こうした南側に位置する諸大陸が、かつて南極付近にあったゴンドワナ大陸の一部だったとすれば、それらはすべて同じ大陸氷河による堆積物だと説明できる。
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