地下鉄は赤字まみれ
総延長約1万キロに及ぶ世界最大の地下鉄網を有する中国だが、その経済効果は芳しくない。地下鉄など軌道交通の運営企業28社のうち26社は昨年、赤字となった。収益源だった不動産関連収入が減少したことが主な要因だ。
地下鉄事業全体の負債は2023年末時点で4兆3000億元(約87兆円)に達しており、ただでさえ苦しい地方政府の財政を圧迫する悪材料となっている。
さて、足元では中国共産党中央政治局は7月30日、月例会議を開き、10月に北京で第20期中央委員会第4回総会(4中全会)を開催することを決定した。4中全会では第15次5ヵ年計画(2026~30年」の草案が議論されることになっている。
米国との貿易摩擦が激化していないものの、深刻な貿易不均衡という難問は短期的に解決できる代物ではない。米国との貿易摩擦が続くことは確実であり、次期5ヵ年計画の重点は内需中心の経済構造への転換になることだろう。
中央政治局はさらに下期の経済に危機感を示し、企業の無秩序な競争を取り締まる方針を示した。「地方政府の負債リスクを慎重に解決すべき」との警告も発しているが、不動産市場に対する支援についての言及はなかった。
消費意欲も低迷
だが、不動産市場の不調は良くなるどころか、さらに悪くなっている感が強い。
不動産危機のきっかけをつくった中国恒大集団の経営再建の見込みは立っておらず、香港市場での株式の上場廃止が現実味を帯びている。資金繰りがさらに苦しくなった恒大集団が破綻すれば、中国の金融システム全体が揺らぐ可能性は十分にある。
不動産市場の不調は頼みの綱の製造業にとってもマイナスだ。
7月の製造業購買担当者景気指数(PMI)は49.3だった。内需不振から前月より0.4ポイント低下し、好不況の境目である50を4ヵ月月連続で下回った。
製造業の不振により消費者の心理も悪化している。
中国人民銀行(中央銀行)が発表した調査によれば、雇用指数は過去最低となった。「貯蓄を増やしたい」との回答は3分の2近くを占め、消費意欲は新型コロナのパンデミックが始まって以降、最も低い水準となった。
少子化対策を打ち出したものの……
昨年後半から小売売上高は持ち直していたが、その要因は「消費者心理の改善ではなく、政府の買い換え補助金がもたらす需要の先食いに過ぎなかった」との見方が一般的だ。
このため、中国政府はさらなる対策を講じざるを得なくなっている。
中国財政部は7月30日、「育児支援給付金向けの当初予算として900億元(約1兆8000億円)を確保した」と発表した。28日に打ち出された「満3歳までの子供に1人当たり毎年3600元(約7万4000円)を支給する」計画を受けての措置だ。
育児支援給付金制度は2年前から導入されてきたが、財政難に陥っている地方政府に代わって中央政府が前面に出て対処する姿勢を示した形だ。
今回発表された育児手当について「少子化対策に加え、消費の押し上げ効果も期待できる」との声が一部に出ているが、専門家は「規模がまったく不十分だ。中国の家族政策関連予算は国内総生産(GDP)比で1%を大幅に下回っており、この比率を2%にしない限り、効果は出ない」と厳しい見方を示している。
中国政府を襲うさらなる難題が自然災害だ。上半期は洪水によって甚大な被害がもたらされた。そして現在は蚊を媒介としたウイルス性の感染症が中国南部で猛威を振るっている。
後編:『中国でまたもやロックダウンか…《有効なワクチンや治療薬はなし》中国南部で感染拡大が進む厄介なウイルスの名前』にてさらに詳しく解説する。