誰もが当たり前に身につけている下着。それは、時に自分を鼓舞するものであり、時に大切なパートナーとの関係を良好にする演出材料にもなっている。
しかし、時代とともに下着へのニーズはどうやら大きく変化しているようだ。とくに昨今の女性は華やかな「レース付き下着」を手放し、よりシンプルで快適な下着を好む傾向にある。
そこで今回は、女性の下着に対する意識の変化についてファッションスタイリストである筆者が解説していく。
前編記事『ユニクロ“ブラトップ時代”でワコールが窮地に…「レースの下着」が若者の間で《時代遅れの存在》になったワケ』より続く。
ジェンダー観の大きな変化
近年ではすべての人々が生きやすい社会を実現すべく、ダイバーシティを謳う世論が浸透している。そのひとつとして、男らしさ、女らしさといったジェンダーに関するバイアスを取り除く動きも活発だ。
その証拠に、アパレル業界では、2015年頃から男女兼用アイテムが急増している。ユニクロや無印良品で、こうした商品を見かけたことがある人も多いだろう。
2025年現在も、こうしたユニセックスなデザインに対する支持は高い。下着でいえば、最近だとカルバンクラインのロゴショーツが女性の間では人気だ。
男性側も、こうしたメンズライクなデザインを女性が着用することに対して、ポジティブな意見を持つ者も多い。
かつて女性の勝負下着といえば、セクシーなレース付きの下着で色っぽさを表現するというのが通説だったが、そうした古くからの固定観念を取り除き、新たな美しさを模索しているかのようだ。
「世界一セクシーな下着メーカー」も売上激減
世界を見渡しても象徴的な出来事があった。2010年代半ばからアメリカの大手下着ブランド「Victoria’s Secret (ヴィクトリアズシークレット)」の売り上げが激減し、より現代的な新興ブランドが人気を集めるようになってきたのだ。
ヴィクトリアズシークレットは「エンジェルス(天使)」と呼ばれるスーパーモデルたちによるファッションショーで知られ、彼女たちがセクシーな下着を身に着けてステージを歩く様子は、アメリカ全土で毎年生放送されるなど、大人気のイベントだった。
だが、“Me Too運動”の高まりもあり、その画一的な美は徐々に批判を受けるようになる。「エンジェルス」はかつて女性たちの最大の栄誉だったが、2021年に廃止され、いまは女子プロサッカー選手や実業家などが新たにアンバサダーに起用されている。
一方で、声を大にして言えないだろうが、依然として女性らしい紐パンやレースなどをあしらったオーソドックスな勝負下着に胸をときめかせる男性も多いだろう。
しかし、そうした男性側の意を汲んで、「好きな人に喜ばれるために、好みでもない下着を着用する」という考えを持たない女性も増えてきた。彼女たちは下着を見せるであろう相手の目線を気にせず、あくまで自分が着て心地よいかどうかで、アイテムを取捨選択している。
現代は美的感覚の多様化が進むと同時に、女性たちの自立志向が高まったことにより、レース付き下着の需要が以前に比べて低迷しているのだろう。
「あえてレースで気分を上げたい派」もいる
かといって、私たち女性は決してレース付きの下着を嫌っているわけではない。「女性は華やかな下着を身につけるもの」という固定観念を取り払いたかっただけなのだ。
ケースバイケースで、そうしたデザインのものを身につけたいと思う日もある。なんだかんだと言いながらも、女性にとってレースや刺繡をあしらった素材というのは華やかで特別なものだ。身につけるだけで、自身の中にある女性性を強く実感することができる。
あくまでそういう気分に合わせた選択肢のひとつとしてレース付き下着があり、その存在自体を否定したいわけではないのだ。
さらに近年の興味深い変化でいうと、男性用のボクサーパンツにレース素材を起用したアイテムが新発売されたという点が挙げられる。
そう、「レース素材=女性のもの」という考えもまた、凝り固まった固定観念であり、ジェンダーバイアスのひとつなのだ。
男性の「上品で、通気性の良いレース素材のパンツを着用したい」、そうした声を拾って生まれたレース素材のボクサーパンツは想像以上の反響で、好調な売れ行きを記録している。
自分らしくいられるために
日本で下着の着用が一般化したのは、今からおよそ70〜80年前。その歴史は100年にも満たないという、意外にも新しい習慣である。
ということは下着を穿く行為ひとつとっても、何が正解か、何を求めるべきなのか、その価値観の形成はまだまだ発展途上なのかもしれない。
ようやく今、私たちは男性も女性も本当の意味で、自分らしくいられる下着を取捨選択できるようになってきた。その象徴がレース付き下着の衰退なのだ。
もっと厳密にいえば、レース付き下着は決して「時代遅れ」というわけではない。ほかにも選択肢が増えたことで、ただその存在が影に追いやられたように見えるだけである。
これからは、下着を穿くにあたって、誰かの目を気にすることなく自分にとって何よりも気分が上がるもの、心地が良いものを積極的に選んでいきたい。
あらゆるデザイン・素材を性別や年齢問わず楽しみ、気軽に共有しあえるような社会であれば良いと筆者はそう願う。
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