2025年7月23日、東京簡易裁判所は、フジテレビの元アナウンサーにオンラインカジノを利用したとして罰金10万円の略式命令を出した。本件以降も、プロ野球関係者や選手がオンラインカジノを利用し、制裁金が科され他などの報道が相次いでいる。
現在、政府広報が発表しているように、日本国内からオンラインカジノで賭博をすることは犯罪(賭博罪など)に当たる。また、2025年6月から、オンラインカジノの広告・宣伝をする行為なども新たに違法とする法律が成立した。
キャリア10年以上、3000件以上の調査実績がある私立探偵・山村佳子さんは、メンタル心理アドバイザー、夫婦カウンセラーの資格を持つ。「探偵への依頼に、様々な依存が背景にあるものもあります。それは、放置すれば周囲も困難へと巻き込んでいく。相手の状態を判断し行政や医療につなげることも必要。こで心理を学びました」と言う。
「依存症」には2種類ある
そもそも「依存症」とは何か。厚生労働省は「依存症についてもっと知りたい人へ」に依存症とはなにかをまとめている。
“特定の物質や行為・過程に対して、やめたくても、やめられないほどほどにできない状態をいわゆる依存症といいます。
※医学的定義では、「ある特定の物質の使用」に関してほどほどにできない状態に陥る状態を依存症と呼びますが、本ページでは行為や過程に関してそのような状態に陥ることも含めて依存症として表現しています。
依存症の診断には専門的な知識が必要ですが、特に大切なのは本人や家族が苦痛を感じていないか、生活に困りごとが生じてないか、という点です。本人や家族の健全な社会生活に支障が出ないように、どうすべきかを考えなくてはなりません。(「依存症についてもっと知りたい人へ」より”
さらに依存症は「物質への依存」と「プロセスへの依存」の2種類があることも伝えている。物質への依存はアルコールや薬物、ギャンブルなど。プロセスへの依存は特定の行為や家庭に必要以上に熱中し、のめり込んでしまうことを指す。親として子どものことをすべてしなければ済まないとか、夫や妻の世話を自分がしなければならないと束縛すること、逆にその人がいないと生きていけないと頼る場合の「共依存」も多いという。セックス依存、恋愛依存などは「両方の依存」となるのかもしれない。
山村さんは学生時代警察官を希望していたが、当時は身長制限があり、受験資格はなかった。一般企業に勤務するが、目の前の人を助けたいという思いは強く、探偵の修行に入る。探偵は調査に入る前に、依頼者が抱えている困難やその背景を詳しく聞く。山村さんは相談から調査後に至るまで、依頼人が安心して生活し、救われるようにサポートをしている。連載「探偵が見た家族の肖像」から、より一層心のケアをどのように行ったか、心理カウンセラーの立場からの視点を踏まえて伝える連載「探偵はカウンセラー」は個人が特定されないように配慮をしながら、家族、そして個人の心のあり方が、多くの人のヒントとなる事例を紹介していく。
今回山村さんのところに相談に来たのは42歳の会社員・美和子さん(仮名)だ。結婚12年になる夫は真面目で優しい人だったのに、出張を境に大きく変わったのだという。「女性ができたのではないでしょうか」という不安から、山村さんに相談してきた。
山村佳子(やまむら・よしこ)私立探偵、夫婦カウンセラー。JADP認定メンタル心理アドバイザー、JADP認定夫婦カウンセラー。神奈川県横浜市で生まれ育つ。フェリス女学院大学在学中から、探偵の仕事を開始。卒業後は化粧品メーカーなどに勤務。2013年に5年間の修行を経て、リッツ横浜探偵社を設立。豊富な調査とカウンセリング経験を持つ探偵として注目を集める。テレビやweb連載など様々なメディアで活躍している。
海外出張に行って変わってしまった
今回の依頼者・美和子さんから連絡があったのは、土曜日のお昼でした。「すみません。衝動的に電話してしまいました。どこから話していいかわからないのです」とおっしゃいます。それから1時間後、カウンセリングルームで会うことにしました。
美和子さんは、優しそうで柔和な印象の女性です。10歳の息子がおり、「今日は中学受験のための夏期講習に行っているので、18時まで時間がある」とおっしゃっていました。お子さんは美和子さんの存在で安心するんだろうなと感じました。
「まず、夫の様子が変わってきたのは、1年前から。出張で韓国に行ってから、気持ちのアップダウンが激しくなったり、夜中に“あー!”などと叫ぶようになったのです」
夫は、製造業向けの特殊素材を扱うメーカーの管理職です。東アジアを担当するチームに入っており、韓国、中国、台湾、フィリピンなどに出張する機会が多いそう。
「夫は私の3歳年上で、12年前にお見合い結婚しました。これまで、浮気の気配など全然なかったんですが……ちょっとこれを見ていただけますか?」
預金通帳にあった1000万円が…
それは夫名義の銀行通帳でした。1年前まで1000万円ほど入っていたのに、30万円、50万円と引き出されており、今は残高10万円になっています。私が驚いて美和子さんの顔を見ると、涙ぐんでいました。
「これは、夫が“もしもの時に”と保管している、夫の祖父からの遺産です。夫からこのお金のことは知らされていましたが、通帳のことは教えてもらっていません。夫の様子がおかしいので、夫の机をガサ入れして、この通帳を見つけ、先ほど記帳したのです。すると、こんなことになっている。記帳したのがバレたら、絶対に嫌われる、ウザがられると思うんです。最悪、離婚されてしまう」
美和子さんはそう言いながら、しゃくりあげるように泣き「絶対、好きな女性に渡しているんですよ」と嗚咽しています。
私はこれまで、会社員の男性が女性に貢ぐ浮気調査を手掛けてきましたが、夫の性格を考えると、このお金の使い方は派手すぎる。探偵のカンとして何かが引っかかる。美和子さんが落ち着くのを待って、夫婦の出会いから伺いました。
「僕の父がいいというからあなたはいい人なんだと思う」
「私と夫は父親が広島の高校の同級生で、父の紹介で知り合いました。私は大阪の短大を卒業後、地元の美容関連会社で事務の仕事をしていました。地元は、20代で結婚するのが普通です。父が年末の同級生飲み会で私が独身でいることをグチったら、義父も“俺の息子も独身だ”と言ってきたそうです。そして、父親同士が“大晦日に見合いをさせよう”と盛り上がり、見合いの席を設定してきたのです」
夫は東京の名門私大を卒業した後、新卒で現在も勤務する会社に入社し、仕事に専念。見合い当時は33歳でした。
「父と一緒に地元のホテルのティールームに行くと、夫と義父がいました。お互いの父が“じゃあな”と退席すると、夫は顔を真っ赤にして“今日はお付き合いいただき、ありがとうございます”と私に挨拶してくれました。それがいかにも女性慣れしておらず、誠実な人だと直感したのです」
美和子さんはこれまで男性に遊ばれたり、貢いだりする不幸な恋愛を繰り返してきました。だから、夫を「いい人だ」と直感したと言います。話はほとんど弾みませんでしたが、帰り際に「僕の父がいいというから、あなたはいい人なんだと思う。結婚しませんか?」とその場で言ってきたそうです。
美和子さんも恋愛に疲れ果てていたので、「これ以上の条件の人はいない」と、プロポーズを受けます。この日から3ヵ月後には、親戚を集めて地元で結婚式を挙げ、美和子さんは会社を辞め、夫が住む東京に引っ越しというスピード展開でした。
幸せだった結婚生活が1年前から変化
「夫はぶっきらぼうですが、基本的にとても優しい。東京での生活はもちろん、今勤務している食品関連会社への就職活動もサポートしてくれました。料理も美味しいと食べてくれて、“家に人がいるっていいな”としみじみと言ってくれたのも嬉しかった」
年齢を考え、すぐに子供を作ろうとした美和子さんに、「僕たちは交際期間がない。もっと2人の生活を楽しもう」と、夫はデートや旅行に連れ出してくれたそうです。そして2年後に妊娠し、息子も授かります。
「10年前にマンションも購入し、そのローンを含めた生活費を全部夫が払っています。その代わり私は家事育児を請け負いながら仕事をしています。いわゆる“妻”として生活するのが、こんなに守られていて、安心なのか、毎日感謝していたんです。結婚してから喧嘩もほとんどしたことがありません。ずっと幸せだったんです。それなのに1年前から気持ちのアップダウンが激しく、物に当たったり私のことを怒鳴ったりするように。家にお金は入れているのですが、怒っている理由を聞くと“うるさい。俺に構うな”と言う。ピリピリした雰囲気が息子の受験に悪影響を与えないかも心配で」
このことを、広島の両親には絶対に相談できないと言います。
「今、母が病気で父に余計な心配をかけたくないのです。そして夫のお義父さんなのですが……他人には優しいのですが、我が子である夫には暴力を振るっていたみたいなんです。夫の頭蓋骨は今でも凹んでいるのですが、これは中学時代にお義父さんから木刀で殴られたからだと言っていました。結婚するとき、お義母さんはかなり前に亡くなったと聞かされていたのですが、実際はお義父さんのDVに耐えかねて、男性と駆け落ちしていたのです。夫には3歳上の兄がいるのですが、お義父さんに反抗して、中学卒業後に渡米。今、アメリカで事業をしているのですが、連絡先さえわからないのです」
温厚だった夫の性格が変わり、1年間で1000万円近いお金を使っている。思い詰めた美和子さんが浮気を疑うのもわかります。
「面倒だからすべてを捨てたい」
「昨夜、夫に“私が至らなかったところがあれば、教えてほしい。今後改めるから、前みたいに生活したい”と懇願したのです。すると、夫は“そう言うところが気持ち悪いし、めんどくさい。面倒だからすべてを捨てたいよ”と吐き捨てるように言われました」
夫を頼り、夫に献身して生きてきたのに、そんなひどいことを言われてしまった。誠実な美和子さんが通帳を探すに至った経緯を感じました。
「私が謝るほど、負のスパイラルに入っていくことはわかります。今日、土曜日、夫は仕事がないはずなのに“家にいて辛気臭い顔を見たくない”とどこかに行ってしまいました。おそらく、夜中まで帰ってこないで、無言なままシャワーを浴びて、リビングのソファで寝るんです」
1年前まで、週に1回程度あった夫婦関係も、全くなくなっているそうです。夫は母親に甘えるように、美和子さんを求めることもあったとか。
「夫を“ヨシヨシ”してあげるのも好きだったんです。夫婦のコミュニケーションも、日常会話も消えて、ヒリヒリした雰囲気があるだけ。もし、夫が別れたいと言ったら、どうしよう。私だけでは東京で生活できませんし、勉強を頑張っている息子の夢を摘みたくありません。このままだと離婚になりそうなので、それを阻止するための証拠を押さえたいのです」
美和子さんは「私は夫を愛しているんです」と何度も繰り返していました。そこで、調査に入ることにしたのです。
美和子さんの話を聞くと、夫は海外出張の後から不安定でお金使いが荒くなっています。なにより「面倒だからすべてを捨てたい」という言葉が心配です。女性なのか、お金のトラブルなのか、「何か」が夫を苦しめており、それで態度が変わっていることが想像されます。
「困らせる人は困っている人」とはよくいう言葉です。追いつめられていると、優しい人が変わってしまうことがある。その原因を特定しないと、夫も美和子さんもお子さんも心配です。急いで現状を認識する必要があると感じました。
◇結婚して12年、真面目で優しかった夫が変わってしまったことはショックだし、1000万円をいつの間にかつかいこんでしまうのは由々しき問題だ。では何が原因なのだろうか。調査の結果は後編「1000万円が消えた原因は…結婚12年で妻が知った「真面目な夫」の別の顔」にてお伝えする。