「私、暑いとイライラするんだよね」妻がそうつぶやいた。ちょっと待ってくれ。この暑さはいったいいつまで続くんだ。徹底調査した――。
止まらない気温上昇
日本から梅雨が消えた――。東京を例に見てみると、今年6月の降水量は約100ミリ。これは、平年の約168ミリと比べて約60%となっていて、極端に雨の少ない6月だったことがわかる。
気温の上昇も止まらない。平年の東京の6月の最高気温は25~28度程度だが、今年は30度を超える真夏日が13日となり、6月の最多記録を更新した。
日本の夏はいったいどこまで暑くなるのか。そうした疑問に環境省が嬉しくない答えを出している。地球温暖化対策を広く呼びかける目的で「2100年 未来の天気予報」という資料を公開。そのなかで、このまま地球温暖化が進むと、2100年には東京の気温が43・3度にまで上昇すると予測しているのだ。43度ともなれば、もはや熱中症がどうのとは言っていられない災害級の暑さだ。
いったいなぜ日本はこんなに暑くなっているのか。ウェザーマップ代表取締役社長で気象予報士の森朗氏は3つの原因があると語る。
気温上昇の原因
1つ目は「太平洋高気圧の暴走」だ。
「熱帯エリアの対流が変化したことで、特に今年は太平洋高気圧が異常に強い傾向にあります。太平洋高気圧とは、いわば『暑さのもと』。これが強いと雲ができにくく、そして日差しが強まり、気温も上がりやすいのです」
太平洋高気圧だけではない。「海水温が高いことも暑さにつながっている」と言う。これが2つ目の原因だ。
「温暖化の影響で、東京湾の海水温は年々上昇していて、場所によっては2~4度も上がっています。本来は、東京都心で気温が上昇すると、気温差の関係で、東京湾から海風が吹いてきて、地上は少し涼しくなります。しかし、東京湾の水温そのものが上がってしまっているので、東京湾から熱風が吹き込んでくるような状態になってしまうのです」(森氏)
そして、3つ目の原因が「ヒートアイランド現象」だ。
アスファルトやコンクリートは、日中に太陽の熱を吸収し、夜間になるとその熱を放出する特性があるため、一日を通して気温が下がらない。また、あらゆる建物でエアコンが使われているので、室外機が熱を排出し続けている。森氏が続ける。
「問題は夜間の暑さです。近年では夜間の気温が30度を下回らない日も出てきている。これは、昭和の時代には見られなかったもので、都市部特有のヒートアイランド現象です。ずっと熱がこもり続けるため、都市部でも日中40度超えの日が出てきてもおかしくないでしょう」
データセンターが地球温暖化を加速
太平洋高気圧、海水温上昇、ヒートアイランド現象――こうした原因に加えてもう一つ、現代社会に欠かせない必需品が新たな「熱源」となっていることをご存じだろうか。
「実は皆さんが最近利用するようになったAIが暑さを加速させているのです」と指摘するのは、エネルギーと気候変動についての分析を行うアメリカの独立分析機関「クーミー・アナリティクス社」の創業者ジョナサン・クーミー氏だ。
「気温上昇のメカニズムのうち、人間の活動が関係しているのは『化石燃料の使用』『森林破壊』『畜産業』など多数ありますが、2020年以降、ここに加えなければならなくなったのが、グーグルやアマゾンなどのビッグテック、そしてAI企業が使っているデータセンターです」
データセンターとは、いわばAIやインターネットの「頭脳」に当たる場所。大量のコンピューター(サーバー)が集まり、情報を処理している施設で、都心からのアクセスがよく広大な敷地のあるエリアに設けられている。
クーミー氏はまず「データセンターは大量の電力を必要とし、その電力のほとんどが化石燃料によって発電されているので、地球温暖化を加速させている」と指摘するが、問題はそれだけではない。
気温が6・2度上昇する地域も
「実はデータセンターが集中しているエリアで、気温が上昇しているという現象が確認されているのです。というのも、データセンターは24時間365日、電源が切られることなく稼働し、排熱を続けているからです。
グーグルの場合、1つのデータセンターにはおよそ4万5000台のサーバーが設置されていて、それぞれのサーバーが40~70度ほどの熱を帯びています。
これを冷やすのに、莫大な電力を使って巨大エアコンを使用し、常にデータセンター内部の気温が22~27度になるよう保っています。このとき外部に排気される空気は40~50度になり、これがヒートアイランド現象を悪化させ、その地域の気温を上昇させているのです」(クーミー氏)
実際、アメリカでは、データセンターが集中しているエリアで、著しい気温上昇が起こっている。
たとえばグーグルなど、多くのIT企業のデータセンターが集まっているネバダ州のタホ・リノ工業団地では、夏の平均気温が30年で6・2度も上昇。「全米で最も速く温暖化が進む都市」として問題になっている。クーミー氏は「アメリカと同じことが日本でも起きる」と懸念する。
千葉は要注意
「日本では首都圏と大阪圏にデータセンターが集中している。なかでも東京から近く、巨大なデータセンターが集まっている千葉は要注意です」
実際、千葉県の印西市には30以上のデータセンターが集まる、「データセンター銀座」と呼ばれるエリアがある。ここは、アマゾンなどのデータセンターが集まっているほか、’30年までに14棟のデータセンターからなる国内最大規模のデータセンター群も建設中で、敷地面積は実に27万平方メートルにも及ぶ。これは東京ドーム約6個分の超巨大施設だ。
すでに千葉県では気温上昇が加速していて、過去30年で夏の日中平均気温が約3度も上昇している。このままデータセンターが建設され続ければ、千葉県は「日本のネバダ」と呼ばれる灼熱地帯となるかもしれない。
燃え上がるニッポン。悩ましいのは、気温上昇を止めるための具体的な打つ手がないことだ。「STOP! 温暖化」と口で叫ぶことはたやすいが、実は地球温暖化そのものの原因にも諸説ある。立命館大学古気候学研究センター・センター長の中川毅氏は「大規模な温度の上昇は、2万年前に始まっていた」と指摘する。
「地球は太陽の周りを回っていますが、完全な円を描いているのではなく、楕円で回っています。この地球の軌道の型は10万年周期で変化しており、その過程で地球の気温が変化していきます。この周期では、氷河期のピークは約2万年前。ここから、地球は温暖な時代に入っていくのです」
CO2と気温上昇は関係がない
その上で、中川氏は「ただ、ここ150年の気温上昇は、自然の傾向を外れている可能性が高いように見える。地球と太陽のリズムだけで言えば、今は、本来は寒い時代になるはず。それなのに、ここまで急速に温暖化が進んでいるのを自然の要因だけで説明するのは困難」とも指摘する。
ならば人間の経済活動を抑制すれば、上昇は緩やかに抑えられるのか……と言えば、これに異を唱える専門家もいるから事態は複雑だ。キヤノングローバル戦略研究所・研究主幹の杉山大志氏は「CO2と気温上昇は関係がない」と指摘する。
「日本政府は地球温暖化抑制のために、2050年までに二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を実質0にする『カーボンニュートラル』を目指しています。しかし、実は二酸化炭素による地球温暖化はあるとしてもごくわずかなものでしかなく、日本の二酸化炭素排出量は世界の3%にすぎないため、仮に2050年に日本がカーボンニュートラルを達成しても気温はわずか0・006度しか下がらないのです」
豊かさを追求する人類のエゴが原因なのか。それとも地球の活動リズムが引き起こす自然現象なのか―。いずれにせよ、われわれにもわかっていることが一つある。猛火の夏はまだまだ続くし、今年で終わる見込みもない、ということだ。
「週刊現代」2025年07月21日号より
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