生物多様性について正しく知ることは、私たち人間が生態系の一部だということを再認識することにつながります。あらゆる生物が健やかに暮らせる地球を目指して、基本を学びます。
監修:WWF ジャパン
WWF
1961年設立。正式名称は「World Wide Fund for Nature(世界自然保護基金)」。世界100ヵ国以上で活動している環境保全団体。目指すのは、人間が自然と調和しながら生きることのできる未来を築くこと。専門家集団として科学的な知見に基づきながら、地球温暖化対策の発表や、自然資源の持続可能な利用のためのシステム作り、野生生物の保護活動や、海や森といった自然環境の保全活動を続ける。WWFジャパンは、1971年に世界で16番目のWWFとして東京で設立。
Q.地球の生物多様性は失われつつあるのですか?
A.はい、1970~2020年のわずか50年間で生物多様性の“豊かさ”は平均73%失われました。
「生物多様性」は数値化が難しい概念だが、現状を把握する目安のひとつが、WWF(世界自然保護基金)が発表している「生きている地球指数(LPI)」。LPIは、対象となる野生生物種の個体群を分析したもので、5495種の脊椎動物(両生類、鳥類、魚類、哺乳類、爬虫類)における、約3万5000の個体群に対する調査に基づいている。
2024年のレポートから分かったことは、1970~2020年のわずか50年間で生物多様性の“豊かさ=分析対象の脊椎動物種の個体群の大きさ”が平均73%も失われてしまったということ。LPIは個体数や個体群の減少を直接示す指数ではないが、野生生物の絶滅危機が増大していることや、健全な生態系が失われつつあることを示している。
生物多様性を脅かしているのは、私たち人類による地球温暖化や食糧生産、無計画な土地開発など。これらの問題に改善の兆しはなく、今後もLPIの悪化が予想されている。
Q.そもそも“生物多様性”とは何ですか?
A.地球上のさまざまな生物が構成する、多様なつながりのことです。「種」「遺伝子」「生態系」という3つの多様性があります。
地球には多くの生物が暮らしている。哺乳類や鳥類、魚類等の脊椎動物から、昆虫や植物、菌類等の微生物まで、その数は未知の生物種数も含めると推定約3000万種とも言われている。「生物多様性」とは、これらの生物たちが構成する多様なつながりのこと。種の豊富さだけでなく、互いに関わり合って生きている生態系そのものを示す言葉だ。
より深く理解するポイントが“3つの多様性”。1つ目の「種の多様性」は前述した約3000万種のように、生物の種類が多様であること。2つ目の「遺伝子の多様性」は同じ種でも模様や大きさが違うなど、遺伝子による差異があること。人間ひとりひとりの顔や性格が違うことも「遺伝子の多様性」だ。3つ目の「生態系の多様性」は森、海、湿地、砂漠など環境の多様さ。環境が変われば生息する生物も、生物同士の関わり方も変わる。こうしたすべてが地球の複雑な生態系をつくっている。
Q.どのような野生生物が絶滅の危機にありますか?
A.アフリカゾウ、コアラ、トラ……。鳥類、両生類、爬虫類、魚類、そして植物。4万7000種以上が絶滅危惧種として挙げられています。
絶滅危惧種というと、日本ではトキやオオサンショウウオ、ツシマヤマネコといった生物をイメージする人が多いかもしれない。だが、コアラやトラ、トナカイやカバといった、動物園で出会えるような哺乳類も実は絶滅の危機に瀕している。
IUCN(国際自然保護連合)が作成しているレッドリストに絶滅危惧種として挙げられている野生生物は4万7000種以上*1。そのうち動物は1万8000種以上、植物は2万8000種以上にも上る。環境省が発表している日本の絶滅危惧種は約3800種*2。
驚くのは、淡水域や汽水域(淡水と海水が混ざる水域)に生息している魚類の40%以上、両生類の50%以上が絶滅危惧種であること。かつては身近な存在だったメダカやタナゴ類など、日本を代表する生きものも失われつつある。一度絶滅した種が完全な形で蘇ることはない。だからこそ、手遅れになる前に対策を急ぐ必要があるのだ。
*1 IUCN『レッドリスト』(Version2025-1)より
*2 環境省『レッドリスト2020』より
Q.“第6の絶滅期”とされる現状の原因は?
A.自然破壊、乱獲、外来生物、そして地球温暖化が主要因。いずれも人間の自然への関わり方が問題で、特に食糧生産の影響は深刻です。
地球は約46億年の歴史の中で、これまで5度の大量絶滅を経験している。その原因は火山活動や小惑星の衝突、氷河期などで、いずれも自然が引き起こしたこと。しかし、“第6の大量絶滅期”と呼ばれる現在の状況は人間活動が原因。つまり、地球に暮らす生物の一種が引き起こした初めてのケースの大量絶滅期なのだ。
私たち人間の問題行動は多々ある。食糧確保や資源調達、愛玩などの目的で続く乱獲や、人が持ち込んだ外来生物による生態系の破壊、産業革命以降、大量に排出され続けているCO₂による地球温暖化など。中でも深刻なのが世界的な食糧生産の増加で、ジャングルや森林は今この瞬間も農地や放牧地へと開拓され続けている。それなのに食品ロスは依然として大量で、一方で飢餓に苦しむ人々もいるというアンバランスな状況。私たち人間がこうした振る舞いを見直さない限り、“第6の大量絶滅期”は回避できない。
●情報は、FRaU2025年7月号発売時点のものです。
Illustration:Sara Kakizaki Text & Edit:Yuka Uchida