常識化している「ズルい節税」
総資産1億円を超える富裕層は、日本の全世帯のうちわずか2.7%。彼らが集まったとき盛り上がる話題は、決まって「いかに節税をするか」という話だ。
実際、節税は知識とテクニックがモノを言う。
特に相続の際は、莫大な相続税が発生するケースも多く、資産が億を超える富裕層は、税理士などに依頼してあらゆる手を使って節税を仕掛けている。
相続時の税金は、その金額に応じて税率も変わってくる。
たとえば相続した額が1000万円以下であれば相続税は10%で済むが、5000万円以上は30%、6億円を超えると55%もの税率となる。
逆に言えば、資産を圧縮できれば、その分だけ課税のパーセンテージが下がり、支払う税金も減ってくるのだ。
では、カネ持ちたちは、実際にどのような節税をしているのか。彼らの間で常識となっている「ズルい節税」を見ていこう。
まず基本となるのは暦年贈与だ。税理士で円満相続税理士法人代表社員の大田貴広氏が解説する。
「暦年贈与は毎年110万円までの贈与が非課税となる仕組みです。まずはこの制度を使って親の財産を少しずつ非課税で子どもに移していく。さらに、資産が多い人が活用しているのが相続時精算課税制度です」
これは、2500万円までの贈与が非課税となる代わりに、相続時に相続財産に加算されるというもの。
「相続時に課税されるのであれば意味がないと思われがちですが、たとえば親の持つ不動産や株などを子どもに早く渡すことで、その後の利益は相続財産から除外できます」(大田氏)
絶対におすすめな節税
ほかにも生前贈与に関する制度はいくつもある。
その一つが特例贈与だ。これは、父母や祖父母が18歳以上の子や孫に贈与をする際に、贈与税の税率が低くなる仕組み。税務署に提出する贈与税申告書の「特例贈与財産分」の欄に記載することで適用される。
もう一つ、教育資金贈与の非課税制度も併用するケースが多い。祖父母や親などが、子や孫に教育資金として一括で贈与した場合に限り、1500万円までが非課税となる制度だ。
使い道が、学校の授業料や入学金、塾代などと限定されているものの、贈与税ゼロで使えるのがメリットだ。
そのほかに、前出の大田氏が「絶対におすすめです」というのが生命保険の非課税枠を活用する方法だ。相続税の計算をするときに、生命保険金の一部が課税対象から除外される制度である。
「相続人が3人いる場合は、1500万円まで非課税になります。たとえば、相続税の税率が30%のような場合を想定してみます。こういう人が定期預金で寝かせているおカネを生命保険に預け替えるだけでも実に450万円の節税になるのです」
資産が1億円を超えてくると、養子縁組の仕組みを活用する人もいる。税理士の板倉京氏が言う。
「そもそも、相続税は相続人の数が多いほど税金が安くなる仕組みです。
養子縁組を使えば、相続人の数を増やすことができる。この節税効果はかなり高いと言えます。
たとえば資産1億円の人が1人に相続した場合は相続税が1220万円になります。しかし、養子縁組を使って相続人を2人にした場合、相続税が770万円に抑えられ、450万円の節税になります。
さらに生命保険の非課税枠も増え、暦年贈与もできるので、実際はもっと節税効果が高いのです」
カネ持ちは不動産を上手に使う
ただし、養子縁組にはリスクもあるので注意が必要だ。板倉氏が続ける。
「孫を養子縁組で自分の子どもにするケースを考えてみます。孫が1人しかいなければ、その子を養子にすればいいのですが、孫が複数人いる場合は注意が必要です。実子がいる場合は、養子のうち、1人しか相続人としてカウントされません。複数人いる孫のうち、一人だけを養子にすると不公平感が出てしまい、のちのちトラブルに発展しかねないのです」
ここからはさらに巨額の資産を持つ人の節税ワザを見ていく。活用するのは不動産だ。
不動産の節税でよく使われるのが小規模宅地等の特例だ。
これは、「被相続人が同居している親族」などの条件を満たすと、宅地等の評価額を最大80%減額できる特例制度だ。板倉氏が解説する。
「2億円の土地を持っていた場合、小規模宅地等の特例を使うと、わずか4000万円と評価され、1億6000万円分も評価額を減らせます。
あまりにも節税効果が大きいので、なかには子どもの住民票を実家に移して『同居している』ことにして小規模宅地等の特例を受けようとする人がいます。しかし、同居でないことが判明すると脱税扱いになるので注意が必要です」
不動産相続の注意点
投資用物件を購入することで節税できるケースもある。収益不動産レバレッジと呼ばれる手法だ。
相続では、借入金は債務として扱われるため、相続財産から外すことができる。
さらに、購入した不動産は相続税評価額という、時価よりも低い金額で計算されるため、二重に節税効果がある。
1億円の賃貸マンションを購入するケースで考えてみよう。1億円のうち、3000万円は自己資金で出し、7000万円を借入金で出したとする。建物評価額と土地評価額のそれぞれが時価の6~8割程度で計算されるため、相続税評価額が6000万円になったとしよう。
これを相続する際は、債務の7000万円がマイナスされるので、相続税はなんと0円になるのだ。
一見すると非常に節税効果の高いワザに見えるが、注意点もある。板倉氏が続ける。
「仮に1億円で買った物件で節税ができたとしても、売るときの価格が1億円を下回ってしまえば結局のところ損してしまうこともあります。
実際、ある地主の方は相続税対策で土地ごと一棟マンションを建てていたのですが、入ってくる家賃よりもローン返済の金額のほうが高く、毎月赤字になっていた。
結局、この人の死後、子どもたちはこの物件の処理に困り、最後は相続放棄をしていました」
つまり、そもそもの不動産投資で失敗しており、節税するための資産すら失ってしまっていたのだ。
税務署から疑われない手法
タワマン節税も市場価格と相続税評価額の差を使った節税ワザだ。
’24年の税制改正によって、あまりにも市場価格との差がある場合は相続税評価額そのものを上方修正されるようになったが「それでも市場価格の6割程度までは評価額が下がる」と板倉氏は言う。
「2億円のタワマンでも、1億2000万円ほどにまで評価額を下げられますし、収益不動産としての利益も期待できる。そうした面からも、富裕層の一部ではいまだにタワマン節税が人気です」
ただし、タワマン節税のようなズルい節税に対して、近年税務署が監視の目を厳しくしており、あからさまな相続税対策のために借り入れをして不動産購入をすると、節税が否認されて相続税の修正申告を求められるケースがある。
そうした税務署の監視強化や、昨今のマンション相場の急騰によって「富裕層の節税トレンドに変化が起きている」と語るのは、前出の大田氏だ。
「いま富裕層の間で注目されているのが、不動産小口化商品です。これは不動産を複数人で少額から共同で所有・投資できる金融商品のことで、1口100万円のような形で不動産を購入できます」
借り入れでの購入ができないという制限があるものの、かえってそれが税務署対策になるという。
異次元の節税ワザ
「借り入れをすると税務署から疑われてしまうので、キャッシュしか使えない不動産小口に人気が集まっています。
不動産小口化商品はあくまでも、自身の資産のなかからおカネを出して投資をしているだけ。これであれば税務署から節税を否認される可能性が低い。それでいて、現物の不動産を購入したことと変わりませんから相続税評価額を下げる効果もあります」
ここまでは資産が数億円の富裕層の節税ワザを紹介してきたが、最後は10億円を超える資産を持つ大富豪が実践している異次元の節税ワザを見ていこう。
資産が数十億円にもなると、ちょっと不動産を買っただけでは節税効果が弱く、手間ばかりが増えてしまう。
また、不動産の数が増えると、遺産分割の際にも家族間で取り合いになってトラブルに発展しがちだ。
そうした問題を解決するのがプライベートカンパニーや資産管理会社を活用する節税ワザだ。
実際に富裕層の資産運用・税務・財務管理を行うアレース・ファミリーオフィス代表の江幡吉昭氏はこう語る。
「超富裕層と呼ばれる純金融資産だけで5億円を超えるような人は、ほぼ資産管理会社を活用しています。そもそも、このレベルの資産を持つ人は所得税で45%、住民税で10%、合計55%の最高税率が課されます。彼らはなんの対策もしないと、稼いだ額の半分以上が税金となってしまいます」
そこで、自身の資産をプライベートカンパニーに委託することによって税率をグッと下げることができる。
「法人税の実効税率は基本的に約30%。個人の税率55%と比べて25%もの差があります。資産管理会社を使えば、25%税負担を下げられます」
海外移住のケースも
たとえば1億円の収入があるケースを想定してみよう。
1億円の収入に対して個人で受け取ると最大税率55%が適用され、手取りは5000万円程度となってしまう。
しかし、法人として1億円を受け取ると、支払う税金は30%の3000万円で済み、7000万円が法人内に残る。
さらに超富裕層はここに相続時の節税効果を仕込む。
「法人にすることで、贈与はもちろん給与として家族に資産を渡すことができます。税金のかからない生前贈与と合わせて資産を家族に渡せるので、その分、資産を圧縮でき、相続税対策になります。
たとえばあるお医者さんは、自分の子どもが医学部の学生のときに、自ら作った法人の役員にさせて役員報酬を支払い、好きに遊ばせていた。
贈与だけではなく、役員報酬としても渡すことで、資産をどんどん圧縮しているわけです」
プライベートカンパニーよりも節税効果があるのが国外資産10年ルールだ。
これは、相続人と被相続人どちらも10年以上日本に住んでいなければ、海外資産が非課税になるというもの。
相続税がゼロになるので、最強の節税方法といえる。大田氏が解説する。
「いっときはシンガポールに移住するケースが多かったです。10年と言っても1年のうちの半分以上、つまり183日を海外で過ごしていればいいので、365日のうち182日は日本に滞在できます。
ただし、シンガポールでの生活を楽しめる人でないと、数年で飽きてしまう。
なかには早く日本に行きたくて、183日経つのを1日1日数えながら生活している人もいるといいます」
おカネ持ちはあらゆる手段で節税をする。しかし、ここまで節税のことばかり考えていると、生活そのものが苦しくなりそうだ。
「週刊現代」2025年07月21日号より
【もっと読む】貧乏な人とはここが大違い! 金持ちが絶対にやらない3つのこと