大量の新刊であふれ返っている、書店のビジネス書コーナー。しかし、著書に『読書を仕事につなげる技術』がある独立研究者・著作家の山口周氏は、「新刊ビジネス書」のほとんどは読む意味がない、と断言する。その理由をくわしく教えてもらった。
「新刊ビジネス書」は読まなくていい
少し過激な言い方ですが、新刊ビジネス書の9割は読む必要がないと筆者は思っています。これはあまり自慢するべきことでもないのかもしれませんが、筆者自身はすでに10年以上、経営コンサルタントをしていても、ビジネス書の新刊はほとんど読んでいません。それで何か苦労があるかというと、特に苦労はありません。
こう書くと、そもそも「ビジネス書を読む意味がない」と誤解されるかもしれません。しかし、筆者が言いたいのはそういうことではありません。ビジネス書には多くの名著があり、ビジネスパーソンであればこういった名著に目を通しておくことはなんらかの形で必ず成果につながります。
筆者が主張しているのは、あくまで「新刊ビジネス書の9割」であって、「ビジネス書の9割」ではない、ということに注意してください。
実は筆者自身も、焦燥感や虚栄心から新刊のビジネス書を必死になって読んでいた時期があります。しかし、あることに気づいてからぱったりとその習慣を止めてしまいました。
筆者が気づいた「あること」というのはつまり、新刊のビジネス書に書いてあることのほとんどは、古典的名著といわれるビジネス書に書いてあることを、事例や業界を変えて繰り返し説明しているに過ぎないということです。
新刊ビジネス書を読まなくてもいいと思うのは、古典的なビジネス書の名著をしっかりと一度読んでいるからなのです。
ベストセラーは1冊たりとも読まない
筆者は、なるべくベストセラーを読まないようにしています。理由は単純で、みんなが読んでいるような本を自分が読んでも意味がないと思うからです。前回記事でも述べたように、読書というのは一種の投資です。ベストセラーを読むというのは、費用対効果が低い投資なのです。
自分という人間をひとつの事業として考えてみましょう。
先述した通り、読書をひとつの投資と考えてみれば、原資は自分の時間しかありません。時間は限られていますよね。誰にとっても1日に24時間しかありません。ですから、どの本に自分の時間を投下するかはとても大事な意思決定になります。
一方で、読書がもたらす効用は、「単位時間当たりの効用」と「効用の持続時間」の積に等しくなります。この効用の持続時間を短期と長期に分けて考えてみた場合、ビジネス書のベストセラーというのは、
・短期……読んでいる人がたくさんいるため、差別化の要因にならず、効用は小さい
・長期……ほとんどの内容が数年で陳腐化するため、やはり効用は小さい
ということになります。
10年後に役立たないベストセラーも
わかりやすい例として、2009年にベストセラーになったクリス・アンダーソンの『フリー』を考えてみましょう。
あの時期、本当に猫も杓子もあの本について語っていましたが、あの分厚い本を読んでその内容について語ったり考察したりすることの効用は、実はそれほど大きくはなかったのではないでしょうか。
少なくとも皆が同じようなことを話していたわけですし、しかもその内容は「言われてみれば当たり前」というものが多かったように思います。他人と変わることなく、しかも陳腐でつまらないというのは個人のアウトプットとしては「最悪」というほかありません。
今から10年後のことを考えると、クライアントのCEOとの会食の場で、あるいは経営幹部候補育成のワークショップの場で、クリス・アンダーソンの『フリー』からの引用が使えるかというと、まあピンときませんよね。ほとんどの人は「ああ、なんかそんな本、あったよね」という反応でしょう。
一方で、アダム・スミスやマックス・ヴェーバーのようないわゆる古典からの引用はこれから先、10年あるいは20年のあいだ、同様の場において説得力を持ち続けるでしょう。
*山口周さんの記事をもっと読む→【山口周】読書は「株式投資」のようなもの…全部読まなくていい、拾い読みでかまわない