独立社外取締役は誰が選んだのか?
フジメディアホールディングス(FMH)が株買い増しの対抗策を採ると報じられた(読売新聞2025年7月11日朝刊)。株式の大規模取得の動きを受けた措置だという。
私は驚いた。
私の驚きは四重である。清水体制の正統性、放送事業法と電波法で既に二段構えで守られている事実、フジサンケイビルなどの不動産事業を擁していること、さらに中居氏の問題の帰趨である。
第一に、清水体制は誰が作り出したのだろうか?
一見、6月の株主総会で承認された以上その正統性に疑いをさしはさむ余地はないように思われる。それは独立社外取締役についても同じことだろう。そのとおり。
しかし、清水氏を社長にしたことに日枝氏は関わっていないのだろうか? 清水氏の前のその前の、さらにずっと以前の社長らは、いずれも日枝氏の意向を受けての人事であることは間違いないように見える。だとすれば、清水氏もまた、と想像することはそれほど的を外れているようには思えない。もちろん、再言するが、直近の株主総会で承認された清水氏とその体制にいまさら疑問を呈してみたところでさして意味のないことだろう。
しかし、とやはり思う。直近の株主総会で選任された独立社外取締役は誰が事実上選んだのだろうかといぶかるからである。清水氏が決めている気がするからである。私の持論である独立社外取締役が後任の独立社外取締役を選ぶといった独立性を確保する方法で選んだようには見えないのである。
どの程度信頼できるのか?
2つ目に、それが今更ながら大きな問題なのは、冒頭に述べた如く、FMHが株買い増しの対抗策を採ると報じられたからである。「投資家の村上世彰氏が関わる投資会社などがフジ・メディアHD株の保有比率を高めていることを受けて」とも報じられている(日本経済新聞2025年7月11日朝刊)。どうやら焦点は不動産事業を巡っての議論にあるらしい。
「取締役会の恣意的な判断を防ぎ客観性を担保するため、フジ・メディアHDの社外取締役6人で構成する独立委員会を設置した。ファミリーマート元社長の澤田貴司氏らを選任した。」(日本経済新聞2025年7月11日朝刊)という。2年前に経産省の出した企業買収指針を受けての動きであろう。当然の動きということになろう。
問題は、選ばれたばかりの独立社外取締役たちに独立委員会の任務が果たせるかである。すなわち、誰が事実上独立社外取締役を選任したのか、が問題となる。清水氏が決めていると書いた。それはどこの会社でも同じであろう。しかし、FMHの場合は違う事情がある。未だ、新しい取締役会が動き始めたばかりだということである。独立社外取締役らがどの程度信頼できるのか、少なくとも投資家は問題とするであろう。
「取締役会が大規模な取得に反対の立場をとり、対抗措置を発動すべきだと判断した際は『株主意思確認総会(臨時株主総会)』を開いて賛否を問う。」(日本経済新聞2025年7月11日朝刊)という。これも、最近の裁判例から当然の動きである。
会社はその臨時総会の基準日、すわなち議決権を有する者を決める日を7月27日に設定したという。誰かを排除するための日付であったりしないのだろうか?
不動産事業への疑問
3つ目、不動産事業が「短期的にはメディア事業を見直すために不動産事業の利益が必要だ。」と定時株主総会後に清水社長が改めて強調したという点である(日本経済新聞2025年7月11日朝刊)。冒頭に記載した読売新聞の記事によれば「アクティビストとフジ・メディアHLDは、フジの不動産事業を巡って意見の相違が目立つ。」とのことである。
確かにFMHの2025年3月期は20,134百万円の損失であり、前年比で57,675百万円最終利益が減少した。もちろん子会社であるフジテレビの赤字のせいである。FMHのセグメントのうち、都市開発・観光事業は増収増益だがメディア・コンテンツ事業が足を引っ張ったということである。その意味では、清水社長の上記発言は「不動産事業の利益が必要であった。」という限りでは正しい。
しかし、そもそもFMHは不動産事業部門を維持し続ける必要があるのだろうか。「メディア事業を見直すために不動産事業の利益が必要だ」というのであれば、なぜ、不動産事業全体を切り離さないのだろうか? そうすれば、メディア事業のいっそうの充実を期すことができるのではないか。
これは、事業会社一般の不動産保有の問題である。
不動産の保有は、本来本業を上回る利益をもたらすことはない。その点を突かれてサッポロHLDでも動きがあったと報じられている。他にもこの事業会社の不動産事業への姿勢についての基本的な点が問題になっている企業は多い。
比喩的にいえば、親の遺産があっては碌な人生にならないのか、それとも親の遺産があるがゆえに長期的な人生構想が可能になるのかということであろう。
FMHのPBRは0.87である。決定的である。どうすべきかは明らかであると思われる。ビルはビル屋さんに売ってしまい、それによって得た新たなキャッシュでメディア事業に専心すべきなのである。
上記「短期的にはメディア事業を見直すために不動産事業の利益が必要だ。」と定時株主総会後に清水社長が改めて強調した、という事実がすべてを物語っているように思われる。「短期的には」と述べたのは清水社長自身である。
中居問題の決着は?
4つ目、中居さんの問題についてFMHははっきりとした決着を避けているように思われる。第三者委員会の報告書が正しいのか、中居さんの新しい代理人が主張するところが正しいのか。
証拠は限られている。しかし、メディア事業に携わるものとしては、社長が被害者とされる方に謝罪し経済的、精神的損害への補償を支払うこととなったのは、未だことの一面でしかない。メディア事業の中核である広告主からみれば、その問題の決着ぬきには発注に踏み切れないという向きも多いのではないだろうか。いったいFMHはその点についてどのように考えているのか。
以上の諸点に解決をつけないままに、独立社外取締役による特別委員会が買収提案があったわけでもないにもかかわらず、かつ放送事業法と電波法で既に二段構えで守られていることから買収などできないことが自明の企業であるにもかかわらず、対抗措置の話になってよいのだろうか。株主意思確認総会で賛成多数となればそれにて足る話なのだろうか。
私は疑問を感じている。