危険生物が日本に侵入
北海道苫小牧市の苫小牧港国際コンテナターミナル。世界各地から運ばれてきた巨大なコンテナが整然と並ぶ港湾施設の一角で、ある危険生物が見つかった。
その名もアカカミアリ。6月26日、環境省が毎年実施する港湾調査での出来事だ。特定外来生物に指定されるアカカミアリが道内で確認されたのははじめて。ヒアリと同じ分類群であるトフシアリ属の一種で、人的被害の可能性が高いとされる。アリの生態に詳しい京都大学教授・市岡孝朗氏が解説する。
「アカカミアリはヒアリと同様、他の生物を“刺す”アリなので、人にとって非常に怖い存在です。ヒアリに比べてほんの少し小さく、毒性も弱いですが、刺されると水ぶくれができ、激しい痛みを感じる。また、ハチのように、アナフィラキシーショックを起こす原因にもなります」
アカカミアリは中・南米が原産国で、国際的な物流が活発化してから、世界じゅうに分布を広げている。広い海を隔てた日本には、どのように侵入してきたのか。
「日本では南西諸島や小笠原諸島など、比較的温暖な場所に生息していることが既に確認されています。米軍の出入りが本種の分布拡大に関わっているとも言われています」
アカカミアリやヒアリの危険性は、攻撃的な側面にとどまらない。我々が気づかないうちに生態系を破壊する可能性があるというのだ。
「アリの多くは、植物を食べる昆虫の天敵として、多くの植物を守るはたらきをしています。
一方で、アリは植物に被害を与える昆虫を守ることもあります。たとえば、植物に被害を与え、多くの農業害虫となっているアブラムシから、アリは甘露をもらう代わりに、アブラムシを天敵から守ることがあります。
このように、アリは、植物、植物を食べる昆虫、その天敵の間の絶妙なバランスを保つのに大きな役割を果たしています。
アカカミアリやヒアリは、侵入先のアリ類を排除することで、長い年月をかけて維持されてきた生態系のバランスを壊してしまう恐れがあります。
アリは自然界のいたるところで生息している分、影響の大きい生き物なのです」
苫小牧で確認されたのは約20個体と少ないが、今後、アカカミアリが日本の諸地域に侵入し住み続けてしまうことはあり得るのだろうか。
「アリは基本的に女王やワーカーからなるコロニーを作って集団生活を営みます。なので、20個体しか見つかっていないということは、今のところ一つのコロニーだけの侵入にとどまっているのかも知れません。
ただ、発見されたコロニーが、港に初めやって来た第一号のコロニーなのか、すでに港の周辺に定着したコロニーから分かれて増えたコロニーなのかで事態は大きく異なります。今後の調査の行方を見守るしかありません」
日本には“冬”というガードがあった
昨今、危険な外来種が日本で見つかることが増えている。
北海道大学の札幌キャンパスで、バイカルハナウドと呼ばれる猛毒の外来植物が発見されたのも1ヵ月前ほどだ。
外来種の増加には、温暖化も影響しているという。
「物流が盛んになり外来種が侵入することは多くなりましたが、本来、原産国や侵入前の国と日本は気候が異なるので、暖かい地域からやって来た生物の多くは、侵入しても、日本の寒い冬を越せなかったと思われます。日本の冬が、暖かい地域からのアリ種の侵入を止めていたのかもしれません。
しかし、温暖化の影響で、その壁も失われつつあります。このまま温暖な状況が続けば、アリ以外にも危険な動植物が日本にやってくることは容易に考えられます」
さまざまな要因が重なり起こる外来種の侵入。水際対策だけでは防げないひっ迫した状況が迫っている。
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