三角関数の前に立ちはだかる、たくさんの公式。「これを覚えるのか…」と、うんざりした覚えありませんか?
近年の数式処理技術の進歩は目覚ましく、非常に複雑な計算が瞬時に行えます。 AI時代を迎え、最も必要な数学力とは、公式をどうやって導くか、その意味を理解しておくことが求められ、そしてその“力”こそが「数学力」と言えるでしょう。
“学校では教えてくれない「考え方のコツ」”を謳い、好評を博した神永 正博氏(東北学院大学教授)の『「超」入門微分積分』に続く「超」入門シリーズ第2弾、『「超」入門 三角関数 三角は「円と波」から考える!』 が刊行されました。同書刊行を記念して、三角関数に親しみを持ち、苦手意識も吹き飛ばしてしまう面白トピックを、本記事シリーズでご紹介していきます。
今回は、サインとコサインに比べてちょっと厄介なタンジェントを、単位円を使ってその性質を見ていきます。そのやんちゃっぷりが見えてきます。
この記事の執筆者は…神永 正博(かみなが・まさひろ)東北学院大学教授。博士(理学)。専門は、解析学(量子力学の基礎方程式であるシュレーディンガー方程式)および暗号理論(ICカード、ICタグなどの暗号解読、ハッキング防衛技術の開発)。詳しくは、こちら
*本記事は、『「超」入門 三角関数 三角は「円と波」から考える!』の内容を、再編集・再構成してお送りします。
暴れ馬タンジェント
サインとコサインは、どんなθに対しても値があるし、値の範囲もせいぜい-1から+1の間に収まるといった調子でおとなしい。それにひきかえタンジェントは、θの値によっては存在しなかったり、ものすごく大きくなったりする。正直、ちょっと扱いづらい。サインやコサインと比べると、タンジェントはまるで暴れ馬だ。
教科書風に言うと、タンジェントは、直角三角形において次のように定義される。
タンジェントと三角形
tanθ=対辺/底辺=b/a
上記の「対辺」とは、角(ここではθ)と向かい合っている辺のことを指す。タンジェントの定義を見るかぎり、「ま、こんなもんでしょ」という感じで、特に大きな問題はないように思える。ところが、実際に計算をしてみると、馬脚を現しはじめるのだ。タンジェントが扱いづらい理由は、主に2つある。
扱いづらい理由その1:定義できないタンジェント
次の図「単位円とタンジェント(1)」を見てほしい。
図「単位円とタンジェント(1)」の線OPをぐいっと伸ばしていくと、(点Aを通る)y軸に平行な線とぶつかる。ぶつかった点をTとしよう。このとき、線OAは1だから、
tanθ=AT
となるので、そのy座標をtanθという。
このように、tanθを点Tのy座標とする考え方をしつつ、θの範囲を変化させてみたらどうなるだろうか。
例えば、θが90°だとしたら? Pは円の一番上にくるので、線分OPはy軸と平行だから、いくら延長しても点Aを通るy軸に平行な線と交わらなくなってしまう。まずい事態である。
このような事情により、θが90°のときのタンジェントは定義できないのだ。θが270°のときのタンジェントも、同じことが起こるので定義できない。タンジェントが扱いづらい理由の一つである。
扱いづらい理由その2:振り幅の大きいタンジェント
図「単位円とタンジェント(1)」では、点Pが第1象限にあり、x座標とy座標がどちらもプラスだった。今度はθをもっと大きくして、点Pが第4象限にあったらどうなるだろうか。図「単位円とタンジェント(2)」のような場合だ。
図「単位円とタンジェント(2)」を見ると、点Tのy座標はマイナスになっている。そのため、このときtanθもマイナスになる。θの値を変化させると、tanθは非常に大きな値をとることもあれば、逆に極端に小さな(負の方向に大きな)値をとることもある。
特に、角度が90°に近づくと、tanθの値が急増する性質がある。例えば、tan(89°)≒57.29、tan(89.5°)≒114.59、tan(89.9°)≒572.96、tan(89.99°)≒5729.58 のように、90°に近づくにつれ、爆発的に増加していく。
このように、タンジェントは定義できなかったり、爆増したりなど振り幅が大きいため、取扱注意なのである。
タンジェントの周期を知る
タンジェントの周期を知るために、θ+180°のときのタンジェントを考える。次の図「第3象限の角とタンジェント」を見てみよう。
*「第3象限」って…? 座標上の象限についての解説は、こちらから
ここで、点Pと原点に対して対称な位置に、点P’が描かれている。このとき、点Pに対応するタンジェントは、点P’に対応するタンジェントと同じになることがわかるだろう。つまり、180°回ると、タンジェントの値は元に戻るのだ。式で書けば、
tan(θ+180°)=tanθ
ということになる。これは、タンジェントの周期が180°であることを意味する。
先に見たように、サイン、コサインの場合は360°で元に戻ったが、180°では元に戻らなかった。以上を整理すると、サインとコサインの周期は360°タンジェントの周期は180°ということになる。
さてここで、図「単位円とタンジェント(1)」をもう一度見てみよう。△OTAは△OPHを拡大したものになっている。数学の言葉では、「△OTAと△OPHは相似」だ。このとき、「△OPHは△OTAを何倍に縮小した」と言えるだろうか? 続いては、この2つの三角形を比べてみよう。
*こちらの続きは、7月18日(金)の公開予定です。